第二章 賢者、奈落に挑戦する

第1話 賢者、一歳になる

「アルフ! 一歳の誕生日おめでとう!」

「ありがとうございます!」


 色々と用意されているが幼い僕の体を考えてか、多くが脂身の少ない魚料理ばかりだ。そしてパンやケーキも朝早くからフィアナとイリーナが準備をして、作ってくれたおかげでかなり豪勢。……とはいえ、砂糖は高いらしいので甘く出来なかったと嘆いていたけど。


 それでも今の僕にとって普通の人の丁度いいは甘過ぎや塩っぱいになってしまうんだ。だから、この魚料理だって塩とかはあまり使わずに素材の美味しさを利用して作ってくれたのだろう。


 まぁ、僕の誕生日をダシにして酒を飲もうとしていたアルはあまり嬉しそうでは無いが。もちろん、多少は僕の誕生日で喜んではいるだろうけど楽しみが消えるのはさぞかし辛かろう。この日のために高いワインを買っていたのは知っているのだぞ。


 この一年間で割と多くの事を学べた。

 まず、ここはかなり辺境の村である事。もっと言えばアイリア帝国との国境線近くにある。このアイリア帝国とクーベル王国は昔から仲が悪い。まぁ、それもクーベル王国が過去にアイリア帝国から独立した国だからではあるけど。


 だからこそ、アルやヴァンをこの村の領主にしたのだ。名誉貴族は建前、実際は帝国から王国を守るための防波堤みたいなものだな。……ただし、その王国側も一枚岩では無さそうだが。


 それこそ、リーフォン家とロレーヌ家を襲った盗賊達は貴族に雇われた集団だった。しっかりと盗賊の頭と貴族が関係を持っていた証拠の書類があったからな。もちろん、書類の紙は空間魔法で複製コピーして所持してある。もう片方もララに渡したから多少の処罰は行われているだろう。


 僕自身も多くの事が一歳になるまでの間にできた。例えばマップの作成、これは一番の進歩と言っても過言では無い。自分自身の成長によって人形の強さもかなりの物になったし、遠くまで何のリスクも無く行かせる事ができるようになった。


 加えて人型の全てのコアに隠蔽をかけておいたから変に怪しまれる事も無い。それらが四方八方の街以外に出向いてくれたおかげで魔物の群生や大方のマップも完成している。


 そして何よりも嬉しいのは奈落に行くためのルートが開拓できた事だ。もっとも、今の僕の強さからして中に入る事も難しいだろうけど……いや、常時フルスロットルで行けるのなら別だよ。本気で戦えば二階層くらいまでは行ける。


 でも、僕は次の奈落攻略では命をかけてまで進まないと決めたんだ。命をかけずとも成長する算段は整ってあるからね。そこら辺も成長促進とかが既に手に入っているのが大きいかな。


「アルフ、あーん」

「あーん……美味しいです、フィアナ母様」

「もう、難しい言葉を覚えちゃって。美味しいよ、ママでいいのよ」


 うん、それは僕の精神が持ちませんね。

 魔法で精神年齢を二十五歳に留めていたとはいえ、それでも年下の女性が相手だ。バブみこそ覚えど話せるのに甘えっぱなしになるつもりは無い。もっと言えば甘えれば甘える分だけ夜の自由時間が削られてしまう。


 今日は一緒に寝る、とか……ご褒美ではあるけど外に出られる数少ない時間を消費するのはゴメンだ。それに一緒に寝るとなればアルも着いてくるからそれはそれで嫌だし。誰が好き好んで男と一緒に寝るかって話だ。


 あ、フィアナとイリーナなら最高です。




「アルフよ、一歳にして良い男になったな」

「いえいえ、ヴァン殿と比べればまだまだです」

「……そこはアル父様と比べればというところだぞ」


 いや、悲しいのは分かるけど事実だし。

 ヴァンはこの歳になるまで多くの世話をしながら家の事を何とかしていたけど、貴方は仕事に集中して割と放っていましたよね。寝ている時に侵入してくるのはいいですけど普通は誰も知らない事ですし。


 何より僕のフィアナを奪った最悪な男をどうして好きになれる。……まぁ、アルがいなければ僕も生まれていなかったけどさ。ヴァンはいい、紳士だから安心してイリーナを任せられる。でも、アルはダメだ。何がどうとは言えないけど何か駄目だ。


「はっはっは、私としては嬉しい限りですがね。従者、冥利に尽きるというものです」

「……父親としては負けたくないのだがな」


 やめとけやめとけ、ただ真っ向から戦っても確実にヴァンが勝つぞ。……言わずとも、分かっているとは思うけどね。それにしても明確に力の差があるのにアルに仕えているのは未だに謎だな。


 圧倒的な金持ちというわけではなく、アルとヴァンの年齢も大して離れていない。昔から仕えていたとかも名誉貴族な時点で考えられないから……アルに惹かれたとかが妥当なんだよなぁ。僕には分からない良さでもあるのか。


 おざなりに対応しておいて自分の分のご飯を食べたら勝手に部屋に戻る。最後の最後にプレゼントを渡されたが……アルよ、一歳児に剣術の本は難しいと思うぞ。まぁ、有難いから感謝と笑顔だけ見せて戻ったけど。


 僕は知っている。一番のプレゼントは明日になったら渡すつもりだって。……今の僕には確実に必要無いものだけど嬉しい物ではあるんだよなぁ。やっぱり、こういう時に耳が良い事を悔やむよ。サプライズをされても正しい反応ができない。




 って事で、部屋に戻ってきたが暇だ。

 うーん……一応、やれる事は多くあるんだけど外に出たりとかはできないからなぁ。魔法の練習も下級と上級を全て覚えた今、できる事といえばスキルのレベル上げくらいだ。そんなのは寝る前に魔力を使い切る名目で練習した方が効率が良い。


 人形を動かす……くらいしかできる事は無いか。まぁ、予備を作るのとかもアリだけどね。でも、それだと面倒な事が多過ぎるし、空間魔法を手に入れた今、わざわざ時間をかけずとも人形は増やせる状況にある。


 なら、さっさと人形を動かすか。

 僕だけの人形、いや、僕だけのナイト〇アと言うべきか。それを少し前に作っておいたんだ。これで全ての敵を屠り殺してやろう。


 ちなみに見た目はララを助けた時と瓜二つな姿にしてあるし、コアもオーガという上級の魔物の物を使っているから高性能なものになっている。……ガトリング砲も内部に搭載しているのはただのロマンだ。


 では、我がナイ〇メアよ、発射せよ!

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