結局彼等は逃れた模様

※※※


「……」


 漸く顔の炎が消えた警備隊長だが、火傷の跡が残り痛々しい。きっと相当痛む筈だが、隊長はそれより、辺りに転がっている警備隊員達を見てとても信じられない、と固まっていた。


「とりあえず顔の火傷、ポーションで治したら如何かしら?」


 そう言ってラミーは隊長にポーションをポイ、と投げる。それを慌てて受取った隊長は、ポーションを顔に一気に振りかけた。すると徐々に火傷の跡が消えていく。


 そして4人は地面に座り込んでいる隊長を取り囲む。恐る恐る見上げる隊長。


「……お前等は一体、何なんだ?」


「冒険者って伝えた筈だけれども?」


「……何でそんなに強いんだ? 女の癖に」


「その(女の癖に)っての、いい加減止めない? それより、他の町の人達は何処に居るの?」


「……」


 ミークにそう詰問されるも、無言のまま見上げる隊長。構わず話を続けるラミー。


「さっき町長に差し出す、とか言ってたわよね? それってどういう意味なのかしら?」


 更にラミーがそう質問すると、隊長は驚いた顔をする。


「お前……、あの屋根の上にいて会話が聞こえていたのか?」


「ええ。どういう理屈か私も良く分からないのだけれども。それよりその意味を教えてくれないかしら?」


 何を言っているんだ? と明らかに怪訝な顔をする隊長だが、ラミーの質問には黙ったまま答えない。


「もう面倒臭いにゃー! 早くゲロっちまいにゃー!」


「ニャリル口が悪い」


 ニャリルはイライラしエイリーが諭す。ミークは顎に人差し指を当て「んー」と少し考えた後、ドローン5機を呼び寄せ、各々から白いビームをチー、と吐き出させた。呆気に取られる隊長。


「これ、さっき隊員達攻撃してたビームだけど、結構痛いんだよね。焼き切るって感じだから。……言ってる意味、判るよね?」


「……さっきから不思議な魔法を使っていたのはお前だったのか」


「魔法じゃないんだけど。まあそれはどうでも良い」


 そう返事してからミークは隊長の傍の地面をドローンに攻撃させる。即座にチュイン、と白い光が走り地面に小さな穴がボン、と空いた。


「身体中こんな事になるよ?」


 驚いた隊長はミークを見上げる。圧倒的美貌ながら無表情なミークの、その片方だけ紅い瞳が尚更恐怖を引き立てている。隊長はブルっと身震いする。だが直ぐに怒りの表情に変わっていく。


「……女の癖に、この私を脅すだと?」


 そう上目遣いで隊長が睨んだ途端、ニャリルがいきなりガン、と隊長の顎を蹴り上げた。「ぐわあ!」と叫びながら後ろにひっくり返る隊長。ミークもびっくりしてニャリルに注意する。


「ちょっとニャリル! 何してんの?」


「うるっさいにゃー! 女の癖女の癖って鬱陶しいにゃ! そんな女に一方的にやられた癖ににゃ! あたしからしたらお前なんか男の癖にみみっちいにゃー!」


 どうやら我慢ならなかったニャリルが足を出してしまった様である。そのせいで隊長は仰向けになり気絶してしまった。これでは聴取が出来ない。ニャリル以外の一同は、はあ~、と揃って溜息を吐いた。


「仕方無いや。とりあえず縛っとく。気付いてからまた話聞けば良いだろうし。で、これからどうする?」


 ミークがそう言いながらAIに隊長を縛る様指示をする。直ぐ様ドローンから鋼鉄製の細い糸が吐き出され、くるくると隊長を縛った。聞かれたラミーは「そうね……」と少し考える。


「ギルドに行ってみましょう。先程も彼等は受付嬢の話をしていたし、何か判るかも知れないから」


 了解、とミークは返事し、あちこちで倒れている隊員達を横目に、ミークは隊長をドローンに運ばせながら、他の3人と一緒にギルドに向かった。


 だがふとミークはピタリ、と足を止める。そしてとある方向をじっと見つめる。その先にあるのは小屋。


「……」


「ミーク? どうしたのかしら?」


 それを見てラミーが不思議そうに質問する。だがミークは「まあ何もして来ないなら放置で良いか」と呟き、「行こうか」と答え歩き出した。


 そして4人の影が完全に見えなくなったところで、その小屋の後ろからヒソヒソ声が聞こえてくる。


「……行ったか?」


「ああ……」


 警戒しながらそーっと2人は出てくる。彼等は以前キラータイガーの死体をここデムバックに持ち込んだ、ファリスから来た冒険者だった。


 出てくるなりあちこちでやられ転がっている警備隊員達を一望する。


「うわあ……。全員やられてやがる」


「つーかお前見てたか? ラミーやミークは分かるとしてもよぉ、ニャリルとエイリーもめちゃくちゃ強くなってなかったか?」


「おお見た見た。一体何なんだあいつ等?」


「いやそれよりどうするよ? もしかして俺等探しに来た、とか?」


「……」


 相棒に聞かれて顎を手を当て考え込むもう1人。


「……逃げるか? 今なら門番も倒れちまってるからすんなり出れるしな」


「そうだなあ。デムバックに来てみたものの、人殆ど居なくて詰まらねぇし。金は手に入ったが何も出来ねぇもんな」


「女は一部の偉いさんが抱え込んでんだろ? こないだあいつが俺等に放り投げた受付嬢は流石に手出せなかったしな」


「ああ……。何というか震えてたし、受付嬢に手を出すって抵抗あるしなあ」


 どうやら彼等2人は小悪党ではあるものの、完全な悪者にはなれない様で、受付嬢に同情的であった。


「若い女が全然居ないのも理由聞くと、なあ?」


「ああ。まともじゃねぇ」


 2人は顔を見合わせ揃って頷く。


「よし。移動すっか」


「だな。ミーク達に見つからねぇうちにな」


「ギルドも殆ど機能してねぇし、俺等がここに来たってバレるって事もねぇだろしな」


「ああ」


 そう言って2人は警備隊員達が起きない様気を付けながら、コソコソとデムバックから出ていった。


 ※※※


「う、うう……」


「ぐああ……。ああ痛ぇ……」


「おお。気付いたか?」


「ああ……。ってあいつ等は?」


「多分隊長引き連れてギルドに行った」


「そうか……。イテテ……。」


 打ち付けた腰を擦りながら、門番の1人はもう1人の手を借りて立ち上がる。広場には未だ倒れている警備隊員達が広がっている。


「これをたった4人で……」


「確か警備隊長ってシルバーランクくらいには強い筈だよな? それなのに……」


「もしギルドに行ったってなら、ゴールドランクのあいつが居るかも。じゃあ何とかなるんじゃ?」


「いや同じゴールドランクのラミーが居るだろ? それだけじゃなく、他にあの女達3人まで居るんだぞ?」


「女達……。俺等その女達に負けたのか」


「しかも一方的にな」


「……」


 2度目は本気でかかった。しかも黒髪1人に対して2人がかりで。だがそれでも、2人は為す術無くやられたのだ。たった1人の女に。


「しかしどうなるんだろうな? あの女共のせいで俺等の立場も脅かされるんじゃ?」


「いや、町長が黙って無いだろ。そのうちあいつ等の存在もバレるだろうし」


 1人がそう言うと「そうか! そりゃそうだ」と顔を明るくする。


「ま、そうなったらおこぼれでも良いから、後から好きな様にさせて貰おうぜ」


「そうだな。あいつら良い女には違いないし」


「だが黒髪はきっと、町長専属になりそうだけどな。あの美貌はそうは居ないし」


「あー……」


 残念そうに溜息を吐くもう1人。そうやってお互い色々想像しながら、2人して体力を回復する為どっかとその場に座った。


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