3人にも自分について語るミーク
※※※
迷いの森に散らばっている魔物の死体を監視しているドローン500機のうち、20機だけミークは持参していた。そのうち2機ずつそれぞれニャリルとエイリーの周辺、1機は彼女達の更に後ろでずっと一定の距離を保ちながら空中浮遊で監視をしている。そして残り15機はミークの腰の異空間収納ポシェットに入れていた。
このドローン達はミークの左腕の様に空気中の魔素をエネルギー変換出来ない。このままではいつかエネルギー切れを起こして使用不能になってしまう。だがミークは既に衛星から充電用装置を取り寄せていた。その装置は太陽光を97%以上の高変換率で電気エネルギーに出来る優れ物で、そして作業中のドローンは自身のエネルギー残量が5%にまで減った所で、自主的に充電装置に戻って来て充電を行う事が出来る。その充電装置はネミルの宿屋の裏側、普段は宿のベッドシーツや洗濯物を乾かす物干しで使用している広場に置いてあり、既にネミル一家には説明済。
更に現在、ミークがじさんしているドローン20機は、ミークの左腕を媒介としてエネルギーを充填出来るので、もし充電残量が減っても対処可能なのである。
そして今、4人は迷いの森の上空を飛びながら移動している。ミーク自身はいつもの反重力装置を使用しているが、ニャリルとエイリーは当然飛べないので、ラミーの風魔法を用いて飛んでいる。
本来であればニャリルとエイリーの訓練を兼ね森の中を走って向かいたかったが、今回はデムバックに居るであろうアニタとリンクの母親の状況を早く知りたい為、急ぐ事を優先したのである。
それでも2~3日は要するので、道中野宿しながらの移動とはなるのだが。
「多分エイリーは精霊魔法で空中浮遊出来る筈なんだけれども、私も精霊魔法に精通している訳ではないから分からないのよね。3人を運んでいるから魔素が切れるのが早くなってしまう。だから休み休みになってしまうけれど」
「じゃあ私、頑張って色々試してみる。折角使える特別な魔法だもんね」
「……あたし魔法が使えない。申し訳無いにゃあ」
「それ言ったら私だって魔法使えないよ? 魔法カッコ良いよね使ってみたかった。まあでも、魔石があれば魔法みたいな事は出来るよね……。そういやラミー、魔石に魔素を貯めて攻撃とかって出来ないの?」
「確か出来る筈だけれども、かなり濃い魔素を充填出来る魔石じゃないと無理だと思うわ。そうなるとより強い魔物の魔石が必要となる。でも強い魔物の魔石は武器や結界に使われる事になるのが通例だから、魔石自体を魔法の代わりとして使う事は無いと思うわ。一度使うと壊れてしまうだろうし」
成る程、と空を飛びながら顎に手を当てるミーク。
「てか、衛星からモービル取り寄せておけば良かったなあ。そしたら皆を乗せて高速移動が出来たのに。モービルは物が大きいからロケットに入れる事出来なくて、部品を何度も行ったり来たりして運ばないといけないから時間も掛かるらしいし。ドローンは物運ぶ事出来ないしなあ」
「何かしらその、も、何とかって? そう言えばエイセイ? から私達にくれた防具や武器持って来たって言ってたわよね?」
「あー、そういや説明してなかったね」
そう返事してから、ミークは空を飛びながら全身を仰向けにする。丁度太陽は雲に隠れていて空を向いていても然程眩しく無い。
「皆私みたいに仰向けになれる? そしたらあそこ、星が見えるでしょ?」
皆は不思議そうな顔をしたものの、とりあえずミークに言われた通り全員仰向けになってみる。すると確かに、ミークの指し示す上空に、夜でもないのにキラリと光る星1つ、目に入った。
「あれ。あれが衛星。私が操る事が出来るんだ」
「「「は?」」」
3人揃って一斉に疑問符が頭に浮かぶ。
「あそこに色んな物が置いてあって、ニャリル達を監視してるドローンも、皆の武器や防具も、何ならラミーと一緒にダンジョン行った時に使った、シュラフとか簡易シャワーも、全部あそこから持って来た」
「持って来たって……。い、いやあれって……、星、よね?」
「ミークは一体何を言ってるんにゃ……?」
「流石にミーク、それは無理があるよ」
到底信じられない、そういう反応を見せる3人に、ミークはふむ、と、どうしたら信じて貰えるだろうか、と少し考える。すると4人が飛んでいる迷いの森の真下から「フゴゴゴゴオオオ!」と何やら魔物の咆哮が聞こえてきた。皆はその声に反応し、空中で止まって下の様子を見てみる。
するとそこには、頭が豚で2本の鋭い牙が上に大きく伸びた、5mはあろうかという人型の魔物が、3人の冒険者に相対しているのが見えた。それを見たラミーが「あれ、オークだわ」と魔物の正体を呟く。
「しかも3体いるみたいね」
オークとはその見た目通り豚の魔物。その膂力は人間とは比べ物にならない程強い。ある程度知能も高く武器を扱う事も出来る。だが動きは遅く攻撃する際の挙動も大きい為、対処法さえ間違えなければ、1匹だけならメタルランク数人でも倒す事が可能である。
だが眼下に見えるオークは3体。しかも皆大きな斧を手にしている。そして相対している冒険者にミークは見覚えがあった。以前左腕だけで助けた事のある、現在メタルランクの3人だった。
どうも冒険者達は苦戦している模様。ニャリルが「大丈夫かにゃあ?」と呟く。
「あれ不味いんじゃないのかにゃ? 助けた方が良いのにゃ?」
「あ、丁度良かった。ちょっと見てて」
「「「え?」」」
ミークがそう言った後、上空で輝いている衛星の方に目をやり「アクセス。眼下のオーク3体をサテライトビームで倒して」と呟く。即AIが反応し脳内で応える。
ーー了解……。アクセス完了。座標確認……。完了。ターゲット、オーク3体にロックオン……。誤差0,000027%。サテライトビーム発射しますーー
AIがミークの脳内で返答するが否や、キラリ、と星が煌めいたかと思うと、瞬きする間も無い程のスピードで、シュン、と白い流れ星三閃、オーク達の頭上にチュドン、とその豚頭を脳天から貫いた。
「フ、フボボ?」
「フグホ……?」
「プギャホ!」
正に一瞬の出来事。食らったオーク達は一体何が起こったか分からないまま、脳天からプシャアと血の噴水を捲き上げ、地面にズシーン、と仰向けに倒れ事切れた。
「どう? これで私が操作してるって分かった?」
「「「……」」」
3人は揃って空中に浮かんだまま、驚きの余り口をあんぐり開け地面に横たわるオーク達の亡骸見つめたあと、呆然とミークを見つめる。
「……ミークあの星、操れるのにゃ」
「……意味が分からない」
「……成る程。先日の星落としは、こうやって起こしていたのね」
ラミーの言葉にミークが「星落とし?」と反応する。
「確かそれって、30年位前にあった隕石の事だよね? でもその言い方カッコいいね。サテライトビームは星落としってこれから言おうかな?」
「いんせき……。メテオの事かしら?」
困惑しながら問うラミーにミークは「あ、そっか。宇宙の理知らないよね」と返事する。どこか飄々としているミークに、ラミー他2人は揃って未知の恐怖を感じ身震いした。
「ウチュウ? ……ミーク、あなた一体、本当に何者なの?」
「そもそも規格外の強さだにゃ。魔法使えないのににゃ」
「私達の知らない事知ってるし、見た事ない道具使ってるし……。考えない様にしてたけど、今空飛んでるのだっておかしい事だよね?」
3人揃って自然とミークから少しずつ距離が出来る。得体の知れないミークの存在に、今更ながら恐れを抱き身体が勝手にそう反応したのだろう。その様子を見たミークは、流石に自分の事を説明しないといけない、と思った。
ミークは努めて笑顔で「大丈夫大丈夫」と、少し距離の空いた3人に話しかける。
「そんな怯えなくても大丈夫。……移動しながら私の事話すよ」
特に隠していた訳ではない自身の事。詳細を語ったのはこの世界ではネミルとラルだけ。でもこの3人にも聞いて貰った方が良い、これから共に行動するのだから、とミークは思った。
「じゃあ行こうか。オーク達は下の冒険者達に任せよう」
眼下で突然死したオーク達を目の当たりにした冒険者3人が、ポカーンと口を開けて固まっているのをチラっと見てから、ミークは空中で半身回転し、デムバック方面に向けて先に空を進み始める。ラミー達は顔を見合わせ、表情を強張らせたままながらもミークの後に続いた。
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