隻腕のミーク ※近未来サイボーグ、SF技術を駆使し異世界のトラブルに立ち向かう

やまたけ

プロローグ

「チッ! サーモグラフィ! 居場所バレた! 移動するよ!」


「う、うん!」


 左は真紅、右は日本人らしい黒茶色の瞳の、見た目麗しい、肩にかかる長さの黒髪の美少女は、焦りながらも行動を共にしている少年を慮りながらひたすら逃げる。


 その少女と余り背丈が変わらない、華奢な少年は、息を切らせながら何とか少女の手を離すまいと、汗ばみ滑りそうになりつつも、必死に付いていく。


 「あ!」


 瓦礫の石に躓き体勢を崩してしまう少年。無意識に握っていた手が離れてしまう。


望仁もちひと、無理しないでいいから!」


「うん! でもミークに迷惑かけたくないから頑張る!」


 ミークと呼ばれた美少女は、疲れた表情の中でも微笑み、そして望仁と呼ばれた少年の手を握り直した後、キッと上空を飛び回るオートターゲットタイプの、沢山のドローン兵器達を睨む。


「確認! 何体?」


 ミークと呼ばれた少女は独り言のそう何かに問いかけると、ミークの頭の中で何かが即座に返答した。


 ーー目視出来る範囲、約10mの上空には25体、そして更に約2km程上空に156体。どうしますか?ーー


衛星サテライトはやっぱり無理?」


 ーー既に他の攻撃型衛星により完全に破壊され、存在すらありませんーー


 非情な言葉が頭に響いたと同時に、25体が一斉に、レーザービームを放とうと銃口を向けてきた。


「あーもう! どうにかしろーーーー!!!!」


 ーーしかしあの数は……ーー


「うっさい! とりあえず出来る限り撃墜して!」


 ーー了解。出来る限り撃墜しますーー


 そう、頭の中で何かが言った途端、ミークの左腕の肩から先が、音もなく切り離される。そしてその左腕は空に舞い上がり飛んでいった。


「望仁! こっちの陰! 早く!」


「うん!」


 左腕がないままのミークと望仁の2人は、近くの大きな瓦礫の陰に身を潜める。瞬間、上空でドン、ドン、と沢山の爆発音が響いた。


 流れる汗もそのままに、緊迫した様子で瓦礫の屋根越しに、ミークは紅い左目を凝らし上を見上げる。キュイィィン、と機械音が脳内に小さく流れる。


「……オッケー! 25体目撃墜! やれば出来んじゃん! 戻ってきて」


 とりあえず自分達の近くに浮遊していた攻撃型ドローンは全て撃墜できた。それを確認したミークは「ふうぅぅー」と深い長い溜め息を吐く。その後すぐ、ミークの左肩に、ドローンを破壊してきた左腕が音もなく戻ってきた。


 ーーエネルギー残量2%。左腕の離脱は不可能、勿論攻撃も不可能ですーー


 脳内に響く声。ミークの脳に埋め込まれた最新型のAIが、2人の希望を断ち切る言葉を発するも、望仁には悟られない様、平然を装いながらミークは望仁に話しかける。


「他のはまだかなりの上空だから、直ぐに攻撃してこないと思う。ていうか、私達2人だけなのに、あんなにも兵器用意するなんて、もう本当、人類滅ぼそうとしてるとしか思えないよ」


 呆れた顔をしながら瓦礫の陰の下で壁にもたれて座り込む。それを見た望仁も、どうやら今は大丈夫なんだろうと判断し、へたり込む様にその場に座った。


「核の心配はないの?」


 望仁が心配そうにミークに聞くと、戻ってきた左手をグッパさせながら、ミークが脳内AIに「どう? 核融合エネルギーは存在した?」と質問する。


 ーー全て確認済。ドローンは核を保有しておりませんでした。よって、核使用攻撃の可能性は0%ですーー


「大丈夫だって。こいつが全部確認したって」


 そう、と安堵の表情を浮かべる望仁。それを見てミークは同じくホッとした顔を見せるも、直ぐに真顔になる。


「心配しないで。望仁は私が護る。その為にこの力があるんだって思ってるから」


「ごめんね。僕のせいで」


「何言ってんの。親友じゃん。寧ろ今となってはこの力があって良かったと思ってるよ。じゃなきゃとっくの昔に二人共死んでる」


「……」


 無言になる望仁を見て、ミークは彼の気持ちを悟った。万が一生き残ったところで、この絶望しかない世界でその後どう生きていけば良いのか? 


 既に友人、家族、何なら近隣住民全てが、総攻撃によって死に絶えた。自分達が生き残れたのは、間違いなくこの左腕と左目のおかげ。


 ミークは過去、とある事故で望仁を庇った際、脳の一部と左目と左腕を失ってしまい、瀕死の状態になってしまった。


 実は望仁は日本の皇族の末裔。その権力でもってミークを助けて欲しいと父親に懇願し、その父親の思惑も相まって、ミークは人外なる力を手に入れたのである。


 特殊な動きでドローンを撃墜した、その左腕の見た目は普通の女性そのもの。肌の質感も感触も黙っていれば分からないし、左肩の結合部分も全く目立たない。左腕の脱着がないと一見機械の腕かどうか分からない程精巧に出来ている。それでもその左腕は、数千度の熱でも溶ける事はなく、絶対零度の中でも十二分に動き、更に数百トンの圧力にも耐えうる程頑丈。自由に飛び回る空中移動を実現しているのは、極秘に開発されていた反重力装置によるもの。


 そして先程からミークの脳内で会話していた、埋め込まれている最新AIコンピュータは、ミークの心情も理解しアップデートされていく。


 左目に埋め込まれたスコープは、数km彼方でも詳細に見る事が出来、更に暗視も赤外線センサーも付いている。


 ミークこと本名、大島美玖おおしまみくは、最先端の科学技術をこれでもかと詰め込まれた、サイボーグなのである。


 ーーエマージェンシー。エマージェンシー。上空に待機していたドローンが全て、一気に急降下してきました。……更に数十キロ先より、核弾頭ミサイル数千発発射された模様ーー


 頭の中でAIが警告を発する。それを聞いたミークは、瓦礫の屋根から顔を出し、赤黒く染まる空を見上げた。確かに上空から沢山の黒いドローンが降りてくるのが見えた。


「……」


 普段のミークの能力であれば、数発程度の核ミサイルなら何とか出来る。だが、左腕のエネルギーはほぼ残っておらず、衛星も既に撃墜されている。逃げようにも攻撃型ドローンも遠方から発射された核ミサイルも、余りにも数が多過ぎる。


「あ、あれって……」


 ただの人間である望仁もミーク同様瓦礫の屋根越しに空を覗き、固唾を飲む。


「ハハ……。もう、地球を滅亡させる気なんだろうね」


 乾いた笑いしか出てこない望仁。もう、ここまでだ、と理解するには充分な兵器の数。それを悟った望仁は、決意した表情でミークの肩を掴み見つめる。


 驚くミークに顔を若干赤らめながらも、真面目な表情で望仁は語る。


「僕はずっと君の事をミーク、と呼んでた。それは僕にとって君は特別だったから。本当なら、平和な世の中でずっと一緒に、君と居たかった。でも、僕はただの人間。権力だけはあったけど、そんなもの有事の際には役に立たない。僕みたいな権力ある立場でも、別け隔てなく友達で居てくれた。でも本当は、僕は……」


「望仁! 危ない!」


 話を続けようとしたところで、様子見なのか1発だけ、1体のドローンからレーザービームの攻撃が2人を襲った。素早く気づいたミークが望仁に声をかけ、共に何とか難を逃れるが、絶望的な状況は変わっていない。


「ご、ごめん、ミーク。でも、もうきっと、2人共これで最後だから、後悔したくなくて」


「分かってる」


 何を言おうとしているのかも、と続けようとしたところで、まるで2人をもて遊ぶかの如く、再びドローン達はレーザービームを発射する。続けて他の多くのドローン達がレーザービームの数を増やし、最終的に全てのドローンからの一斉掃射となった。


 隠れていた瓦礫など関係のない容赦ない攻撃。ズガガガガガ、と大きな音を立て雨の如く降り注いだ。咄嗟にミークが自身を背にして望仁を庇う様蹲るも、レーザービームは非情にも2人を容赦なく貫通する。


「……あ」


「も、もち、ひ……、と……」


 息も絶え絶えながら、ミークと望仁はまだ生きている。だが、2人は既に血塗れ、この攻撃で身体の半分以上を失った。


「ミー、……ク……」


 望仁が何かを言おうとする瞬間、今度は遠方からの核攻撃が一斉に着弾し、二人がいたその場の地表全てが、一気に消し飛んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る