和田正雪のオカルトグルメリポート

和田正雪

和田正雪氏をご存知だろうか?

 和田正雪(わだしょうせつ)氏をご存知だろうか?

 彼は2023年4月に『夜道を歩く時、彼女が隣にいる気がしてならない』(KADOKAWA文芸単行本)というオカルト恋愛小説でデビューした作家である。

 彼は暇を持て余していた。

 単著が一冊出ただけで人生の何が変わるわけでもない。

 特に執筆依頼があるわけでもないので、また出来が良いものが書けたら公募に出してみたり、WEB小説サイトで自作を発表してみたりということを考えていたようだ。

 しかし、彼は新作を書きあぐねていた。

 このままオカルト、ホラージャンルの作品を書き続けるのか、それともジャンル転向をするのか、何も決められないままに習作やちょっとした日常エッセイを書いていたところ、彼に一つのアイディアが下りてくる。


 彼は自身のアイディアが果たして良いものなのかどうか確かめるために、書籍の発売後にやや疎遠になっていた担当編集者のCさんに連絡を取ることに。

 正雪氏は都内に出るには不便な立地に住んでいることもありCさんとのやりとりはメールかGoogleMeetというサービスを使ったリモート会議が主になる。

 今回も新作の相談がしたいので、リモートで少しばかり時間をもらえないかと打診し、それは快諾された。


 以下、リモート会議での二人のやりとりである。

 定刻通りに画面が切り替わる。

 Cさんの背景はどうやら会議室らしい。Cさんは女性編集者で一度だけ雑誌取材の際に会ったことがあるが、直接会って話した上でも中学生にも大学生にも三十歳くらいにも見える不思議な人だった。


「お世話になっております」

「どうもお世話になってます。どうですか、最近?」


 お互いに書籍の売り上げに触れることはない。

 売れていたら「売れてますよ」と言うに決まっているので、黙っているということはすなわち"そういうこと"であると正雪氏は認識していたし、わざわざ自ら傷つくようなことはしない。

 あまり望ましい状況ではないが、打ち合わせすら拒否されるほどの惨状ではなかったのかもしれないとポジティブに解釈をし、会話の穂を接ぐ。


「ぼちぼちですね。本が出て一ヵ月経って、落ち着いてきたのでまた何か書こうかなと思いまして」

「あぁ、メールに書いてらっしゃった新作のお話ですよね。どういう内容なんですか?」


 正雪氏はきちんとしたプロットや企画書を書いていたわけではないので、頭の中に断片的にある構想を口頭でたどたどしく説明していく。


「えーっとですね。テーマはオカルトとグルメのミックスです」

「へぇ。わたし、オカルトとグルメってけっこう相性いいと思ってるんですよ。ちょっと期待できますね」


 画面の向こうのCさんの反応は出だしとしては上々に見えた。


「主人公は女子大生なんですけど、ちょっと変わった飲食店でバイトしてるんですね。まぁジビエというかゲテモノ系で。で、その店に男子大学生がやってきて二人は出会うんですよ」

「はいはい」

「で、とある理由があって、男の子の方はオカルトグルメとかそのレシピを追い求めてるんです」

「とある理由? オカルトグルメってどういうことですか?」

「理由は考えてないので"とある"と言いました。オカルトグルメっていうのはなんというか魔術的な効果があるものとか、宗教的な意味合いがあるものとか」

「そのあたりがあんまり固まってない感じですか?」

「はい」


 そう、そこが正雪氏の企画のネックであった。

 彼は料理自体は不得手ではないものの、特殊な料理に対する知識があるわけではなかった。

 ストーリーラインが固まっていてもギミック部分が空っぽなのだ。


「で、まぁ二人はそういう料理を作ったり、食材を獲りに行ったりするうちに仲良くなっていって――みたいな感じで考えてます」

「面白そうな感じはしますけど、それってどういう食材とかどういう料理が出てきて、どういうエピソードにするかでだいぶ変わってきますよね」

「まぁ……そうなんですけど、そこどうしたらいいかなと悩んでまして」

「文献集めたり、取材したりしながら詰めていけばいいんじゃないですかね」


 正雪氏はこれまで他人から聞いたり、自身が体験した怖い話を作品に落とし込んできたため、あまり小説を書くために資料にあたったり、取材をしたりということをしてこなかったので、Cさんの助言は目から鱗だった。


「なるほど。そういうやり方がありますか」


 Cさんの視線は「じゃあ、今までどうやって小説書いてきたんだよ」と言っているようだったが、小説を書くために調べものをしようと思ったことがなかったのだ。仕方ない。


「資料を集めて書けそうなら挑戦してみて、ダメそうならまた違うネタ考えたらいいんじゃないですか? 次回作に使わなくても調べたことはいずれ使える日も来るでしょうし」

「そうですね。ちょっと調べてみます」


 こうして正雪氏はまず資料の探し方から調べることにしたのだった。

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