少女マンガみたいな恋をしよう


  *


 彼は少し照れたように笑うと、そっと私の腰に手を回し、優しく抱き寄せてくれた。


 そして、そのまま唇を重ねる。


「んっ……」


「ちゅっ……ふふっ、大好きです」


「俺もだよ」


 私達は互いに見つめ合うと、もう一度唇を重ねた。


 今度はさっきよりも少しだけ長く。


 それからしばらくの間、私達は互いの温もりを感じ合っていた。


「ねぇ、今日はずっとこうしてたいな」


「じゃあ、もう1回する?」


「……うん、して」


 私は彼の胸に顔を埋めると、甘えるように抱きついた。


 すると、彼は私を抱き締め返し、ゆっくりと頭を撫で始める。


 それがとても心地よくて、自然と身体の力が抜けていくのを感じた。


「眠くなってきた?」


「うん、ちょっとだけね」


「そっか。じゃあ、このまま寝ちゃってもいいよ」


「でも、せっかくのお休みなのに……」


「大丈夫だよ。俺はどこにも行かないから。だから、安心しておやすみ」


「うん、分かった」


 私は頷くと、彼に身を任せるように目を閉じる。


 そして、すぐに睡魔がやってきて、そのまま意識を手放した。


「おやすみなさい、沙良さん」


 意識が途切れる直前、そんな優しい声が聞こえたような気がした。


 それからしばらく経ったある日のこと。


「はい、どうぞ」


「ありがとう」


 いつものように彼に淹れてもらったコーヒーを受け取り、一口飲む。


 やっぱり美味しいなぁ。


 そんな事を考えながら、ふと窓の外を見ると、外では雪が降っていた。


 道理で寒いわけだ。


「ねぇ、外は雪降ってるよ」


「えっ、本当? 全然気づかなかった」


 彼はそう言うと、窓の方へと歩いていき、カーテンを開ける。


 すると、そこには一面の銀世界が広がっていた。


「うわぁ、綺麗だね」


「うん、そうだね」


 私の言葉に頷きながら、彼もまた嬉しそうに笑っていた。


「そういえば、今年はホワイトクリスマスだね」


「言われてみれば、確かにそうかも」


 去年は確か、クリスマスイブに雪が降ったんだっけ。


 そう考えると、今年が一番思い出深いクリスマスになるかもしれない。


 そんな事を考えていると、不意に彼が口を開いた。


「そうだ、せっかくだし、これからデートしようか」


「えっ、今から?」


「もちろん。あ、でもその前に……」


 彼はそう言うと、私の隣に腰を下ろし、そっと抱き寄せてきた。


 突然の事に驚いていると、彼は私の耳元で囁くように言う。


「改めて、メリークリスマス。大好きだよ、沙良さん」


「っ! わ、私も大好き!」


 その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がキュンとなるのを感じた。


 本当にずるいよ……こんな事されたら、ますます好きになっちゃうじゃん。


 私は顔を赤くしながら、彼を抱きしめる腕に力を込めた。


 それからしばらくして、私達は揃って家を出た。


 そして、近くのショッピングモールへと向かう。


「わぁ、すごい人だね」


「本当だね。まぁ、これだけ人が多ければ仕方ないか」


 中に入ってみると、そこは多くの人で賑わっていた。


 その光景を見て、思わず圧倒されてしまう。


「どうする? 別のところに行ってもいいけど」


「ううん、ここでいいよ。だって、せっかくのクリスマスだもん。それに、今日のために新しい服を買ったんだし、どうせなら着てるところ見てもらいたいなって」


「そっか、それなら良かった」


 私がそう答えると、彼は安心したように笑った。


 そんな彼を見ていると、なんだかこっちまで嬉しくなってくる。


「ふふっ、どうしたの?」


「いや、なんでもないよ。ただ、かわいいなって思っただけ」


「そ、そうなんだ……」


 不意打ちのように放たれた彼の言葉に、思わず顔が熱くなるのを感じた。


 きっと赤くなっているであろう顔を隠すため、慌ててマフラーを引き上げる。


 うぅ、恥ずかしい……でも、嬉しいかも。


 その後も色々なお店を見て回ったり、ゲームセンターで遊んだりして、楽しい時間を過ごしていた。


 そうして過ごしているうちに、いつの間にか時間は過ぎていく。


 そして、気がつくと空はすっかり暗くなっていた。


「そろそろ帰ろうか」


「うん、そうだね」


 私達は最後にツリーの前で写真を撮ってから、家へと帰ったのだった。


「今日は楽しかったね」


 夕食を食べ終え、ソファに座ってくつろいでいると、彼が話しかけてきた。


 その言葉に頷き、彼にもたれかかるようにして身体を預ける。


 すると、彼は優しく頭を撫でてくれた。


 それがとても心地よくて、自然と身体の力が抜けていくのを感じる。


「ふぁ〜……」


「眠い?」


「うん、ちょっと疲れちゃったみたい」


「そっか、なら今日はもう寝よっか」


 彼はそう言うと、私をお姫様抱っこしてベッドへと向かった。


 そして、そっとベッドの上に下ろすと、布団をかけてくれる。


「寒くない?」


「うん、大丈夫」


「よかった。それじゃあ、おやすみ」


「おやすみなさい」


 そう言って、目を閉じる。


 しかし、いつまで経っても眠気がやってくる気配はない。


 どうやら、まだ眠れそうにないみたいだ。


 仕方なく目を開けてみると、彼はもうすでに寝息を立てていた。


 それを見て、つい笑みがこぼれてしまう。


 もう、相変わらず早いんだから。


 そんなことを考えていると、ふいに彼の寝顔が目に入った。その瞬間、急に胸がドキドキしてくるのを感じる。


(どうしよう……キスしたい)


 そう思った時には、既に身体が動いていた。


 ゆっくりと顔を近づけていき、唇を重ね合わせる。


「んっ……」


 ほんの一瞬だったけど、それでも十分に幸せな気分になれた。


 でも、それと同時に物足りなさも感じてしまう。


 もっとしてほしい……そんな思いが込み上げてきて、気づけばもう一度唇を合わせていた。


 今度はさっきよりも少しだけ長く。


 それからしばらくの間、私は何度も彼にキスをした。


 自分でも何をしているのかよく分からなかったけど、やめられなかった。


 そして、ようやく満足できた頃には、すっかり息が上がってしまっていた。


「はぁ……はぁ……」


 乱れた呼吸を整えながら、彼の顔をじっと見つめてみる。


 すると、彼は穏やかな表情で眠っていた。


 それを見た途端、一気に冷静さを取り戻す。


(私、何やってるんだろう……)


 自分の行動に呆れてしまい、思わずため息が出てしまった。


 こんなのただの変態じゃん……しかも、寝てる相手にするなんてさ。


 そう考えると、だんだん恥ずかしくなってきた。


「ごめんね……」


 小声で謝りつつ、彼の頬にキスをする。


 すると、彼はくすぐったそうに身をよじらせた後、再び静かな寝息を立て始めた。


 そんな様子を見ていると、また変な気持ちになってしまいそうになる。


「……だめっ」


 必死に自分に言い聞かせるようにして呟くと、静かに目を閉じた。


 そして、そのまま眠りにつくまで、ずっと彼と触れ合って……。


 翌朝、目が覚めると、目の前には彼の顔があった。


「おはよう」


「お、おはよ」


 突然のことに驚きながらも挨拶を返す。


「えっと、その……もしかして、見てた?」


「うん、ばっちり」


「っ!?」


 やっぱり見られてたんだ……うわぁ、恥ずかしすぎる! 穴があったら入りたい気分だよ……。


 そんな事を考えていると、彼が不意に私の頭を撫でてきた。


「えっ?」


「なんかすっごくかわいかったよ」


「そ、そんなこと言わないでよ……」


 恥ずかしさのあまり、顔が熱くなるのを感じた。


「ねぇ、もう一回してもいい?」


「う、うん」


 私が頷くと、彼はそっと顔を寄せてくる。


 そして、唇同士が触れ合う寸前で止まったかと思うと、突然首筋に吸いついてきた。


 突然の刺激にビクッと反応してしまう。


「ひゃっ!? ちょ、ちょっと!」


 慌てて引き離そうとするが、しっかりと抱き締められていて離れることができない。


 その間も首筋へのキスは続いていて、時折舌で舐められたりもしていた。その度に背筋がゾクゾクするような感覚が襲ってくる。


「やっ、あっ……んんっ」


 抵抗しようにも身体に力が入らず、されるがままになっていた。


 しばらくして満足したのか、彼が顔を上げる。


「ごちそうさまでした」


「……ばか」


 満足そうに笑う彼を見ながら、私は小さな声で呟いたのだった。

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