実家と楽園と卵


  *


 帰省して、ふと気がつく。


 あれ?


 僕の実家って、こんなに広かったっけ?


 ……ああ、そうか。


 ここはもう、僕の心が落ち着けるような楽園じゃなくなったんだな……。


 ふと、思う。


 楽園なんて、どこにあるのだろう。


 世界中を探せば、あるのだろうか。


 それとも、どこにもないのだろうか。


 答えはわからないけど、ひとつだけわかることがある。


 それは僕がここにいるということ。


 それだけが確かなことなのだ。


 卵からかえったひよこは、自分の親鳥を見て思うだろう。


(…………あれ? 僕、卵だったよね? なんでひよこなんだろ?)


 首を傾げるひよこを見ながら、僕はつぶやく。


「……まあ、いいじゃないか。おまえが幸せならば、それで」


 そうして輪廻は繰り返し、今日も僕は見守るのだ。


 愛しい我が子の幸せを。

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