母親の正体4

 その時に直接リャーダの名前は出なかったのだがリャーダを管轄する聖印騎士団の名前が出てしまった。

 影響を鑑みて人員の配置換えなどを行うつもりだったのだけど相手も反撃の機会と見るや行動が早かった。


 聖印騎士団に所属しているものや協力しているものへの襲撃や不可解な事故が続いた。


「そこでリャーダと兄さんもどこかに身を移してしばらく隠れて過ごすつもりだったんだけどね……」


 両親が亡くなったのは事故であると聞かされていたアリア。

 それを疑ったことなどなかったし調べるようなこともしてこなかった。


「一歩遅くてね……2人はケルフィリア教の襲撃にあって亡くなったのさ」


 手が震えて上手くカップが持ち上げられずに床に落としてしまった。

 ここまで驚かないことはなかったぐらいの話だったけれど両親の隠されていた最後の話はアリアの頭を真っ白にさせた。


 急に水の中に沈められようにメリンダの声がぼんやりとして聞こえにくくなった。

 そこにないカップを見つめ続け、メリンダの最後に聞こえた言葉が頭の中でこだまする。


 両親がケルフィリア教に殺されていた。

 回帰前にも知らなかった話で、初めて知った真実。


 メリンダは話を止めた。

 明らかにアリアは上の空になっていて話を聞いていなかったからだ。


「アリア……?」


「……殺してやる」


 何度も何度も何度も何度も。

 ケルフィリア教が両親を殺したのだということが頭の中をグルグルと回ってようやく理解ができてきた。


 いろんな考えが浮かんで来て消えずに心に積もっていく。

 なぜ両親が殺されねばならなかったのか。


 何で秘密にしていた。

 残された悲しみの理由が嘘だったことに虚無感を感じ、何も知らなかった自分に怒りを感じる。


 アリアが何をしたというのだ。

 どうしてアリアから全てを奪っていくのだ。


 悲しみも受け入れ難い感情も全てがごちゃ混ぜになって訳がわからなくなった。


「ケルフィリア!


 クソみたいなお前の信者全員血祭りにあげてやる!


 お前という存在が忘れられるまで全員ぶっ殺して消してやる!」


 プツンと切れた。

 全ての感情が怒りに飲み込まれていく。


 同時にアリアの体から真紅のオーラが溢れ出す。

 振り上げた拳でテーブルを叩きつけるとテーブルが真っ二つに叩き割られる。


 決して柔らかくなどないテーブルなのにアリアの力に耐えられなかった。


「私がお前らに何をした!


 全てを奪っていく権利などないはずだ!


 なのに全てを奪うというのなら私も奪ってやる!」


 暴風のようにアリアのオーラが吹き荒れる。


「アリア……アリア!」


「全員、1人残らず!」


「アリアッ!」


 近づくのも困難なほどのアリアにメリンダは必死に寄り添って、そして抱きしめた。


「すまなかった……もっと私が気をつけていれば……2人を守っていてやれれば……」


 アリアの額にメリンダの涙が落ちた。


「私の責任だ……全部私が悪いのさ」


 オーラに晒されるだけでも一般の人ならツラいはず。

 なのにメリンダは強くアリアを抱きしめる。


「…………オバ様……」


 怒りをぶつける相手はメリンダではない。


「オバ様の、せいじゃないです……」


 燃えるような怒りは忘れない。

 でも怒りの感情が過ぎ去っていくと残されたのは心の傷と深い悲しみだった。


 意外な母親の真実から両親の死に至るまですぐには受け入れられない話である。

 アリアの目からも涙が溢れた。


 泣いた。

 子供のように。


 全てのリミットが外れたアリアはメリンダに抱かれたまま大きな声を上げて泣いた。

 一度経験した両親の死を悲しく思うことなんてないと思っていたのに、真相を聞いて感情を抑えられなかった。


 この日聞いた話は絶対に忘れない。

 個人的な復讐だけではない。


 両親を殺されたことも復讐せねばならなくなった。

 もう奪われるのはこりごりだ。


 奪ってやる。

 ケルフィリアに祈りを捧げたことを後悔させてやる。


「お母様……お父様……」


 ひとまず今は泣く。

 泣いて泣いて、心が空っぽになったら、そこに怒りと憎しみの感情を詰めていく。


 メリンダは思った。

 もしかしたらケルフィリア教はとんでもない敵を作ってしまったのかもしれない、と。

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