第03話、容赦なく、ぶん殴った結果
氷の
氷の魔術を得意とする存在であり、この国に貢献している王宮魔術師の一人である。
アリシア・カトレンヌ――彼女は、一族の血を強く受け継ぎ、この国の為に日々魔術師として活動している存在なのだが、彼女は敵、味方関係なく恐れられている。
そんな彼女を、あの王太子が怒らせたのだ。
彼女が妹の事になると敵味方関係なく、容赦なく、攻撃を開始するという事を。
第一王子、ファルマがそのように告げた瞬間、突然鈍い音とガラスが勢いよく割れる音が聞こえてきたため、レンディスが慌てて振り向くと、先ほどその場に居たはずの第二王子、フィリップの姿がなく、拳を天井に向けて高く上げながら、無表情で立っている令嬢――アリシア・カトレンヌの姿があったのである。
因みにフィリップの身体は壁に勢いよく激突させられ、その場に崩れ落ちている。状況からしてみれば、第二王子であるフィリップに攻撃し、あのような状態にしたのはあのアリシア・カトレンヌと言う事になる。
殴ったのだ、拳で。
「お、ねえ、さま……?」
「……」
カトリーヌが声をかけても、アリシアは何も言わない。ただ崩れ落ちて気絶しているフィリップに視線を向けているのみ。同時に彼女の周りには冷たい空気が流れ込んでおり、床が微かに凍りかけている。
魔術が操作できていない状態だと認識しているのだが、そんなの彼女には全く関係ない。関係あるのは、目の前の男はカトリーヌを傷つけて泣かせたと言う事のみ。
「……回復魔法をかけてもう一発ぶん殴ってみるか……それで気がそれるだろうか?」
ぶつぶつと何か恐ろしい事を口にしたアリシアだったが、流石にそれはまずいと判断したレンディスとファルマが彼女の前に出ていく。
「うん、責任はとると言ったけど、一発で何とか収めてくれないかな!お願いアリシア!」
「フィリップ王太子は確かにあなたの妹を傷つけましたが、殴る価値などありませんよアリシア様!」
「……殿下、レンディス様……そうですね、これ以上私の手が汚れたら嫌ですね」
ボキっと指先を鳴らしながら答えるアリシアに対し、ファルマとレンディスは顔を見合わせながら深いため息を吐く。
長い沈黙を周りから感じ取っていたのだが、次の瞬間カトリーヌの隣に居たエリザベートが突然崩壊したかのように泣き出したのだ。
「うわぁあああんッ!ご、ごめんねカトリーヌッ!わ、私が、殿下に優しくしなければよかったのよぉ!一応王太子だし、友人の婚約者だったから、上辺の関係で優しくしたのがまずかったのか、勘違いしたみたいでぇ……わ、私、あんな男の恋人になるぐらいなら、カトリーヌの恋人になるわぁあ!」
「え、エリザベート……ッ……」
大泣きしている友人の姿を見たカトリーヌは少しでもエリザベートを疑いたくなってしまった自分を恥じながら、彼女も涙をためながら泣きそうになっている姿を見て、アリシアが静かにカトリーヌの近くに行き、優しく頭を撫でる。
頭を撫でられた事でカトリーヌは安心したのか、そのままアリシアに胸に飛び込み、震えながら声を押し殺し、泣きだしたのである。
「こんな形をとってしまって、申し訳ないわカトリーナ」
「うううっ、お、お姉様……」
「ご、ごめんなさいお兄様ぁ……」
「ああ、わかっていたから無理をするな、エリザ」
エリザベートも兄であるレンディスを見つけて再度大泣き。彼の胸に飛び込んだ後思いっきり泣き始めており、そんな四人の姿を見たファルマは頭を抱えるようにしながら、崩れて倒れているフィリップの姿を見て、ため息をついた。
「さて……どうやって収拾つけるかなぁ……」
と、呟きながら。
▽
数日後、父親である男は頭を抱えるようにしながら呟いた。
「……お前は、私を殺すつもりなのかアリシア」
「でも、お父様だったらぶん殴るどころでは済まさなかったと思いますが?」
「当たり前だ!殺すよりも生きながら地獄を見せていたわ!」
「流石、私のお父様ですね」
笑顔でそのように言うアリシアに、父親であるカトレンヌ侯爵は胸を押さえながら深くため息を吐くのだが、この父親もカトリーヌの事はアリシア以上に溺愛しているので、もし父親が行ってしまっていたら間違いなくあの会場は修羅場と化していたのかもしれないとカトリーヌは思う。
「……私で良かったと、安心してほしいわ」
小さくそのように呟きながら、アリシアは静かに息を吐く。
それと同時に、妹であるカトリーヌは父親とアリシアの前で申し訳なさそうな顔をしながら答える。
「お姉様、お父様、本当に申し訳ございません。カトレンヌ家に泥を塗ってしまいまして申し訳ございません……ご迷惑ばかりかけて……」
「そ、そんな事はないぞカトリーヌ!元々断っていた婚約だ!これからどうなるかわからないが……それでも私たちはお前の味方だ!」
「そうよカトリーヌ気にしないで……あれは私の独断でやった事だし、迷惑だなんて思っていないから安心して……そうね、少し心を落ち着かせなさい。そうだ、伯母上の所に行ったらどうかしら?あそこなら空気も美味しいし、きっとカトリーヌなら気に入ると思うわ」
伯母上と言う人物はただいま田舎でのんびりと暮らしている方である。カトリーヌは少し悩むように考えた後、静かに頷く。
「と言う事ですので父上、私も準備して伯母上の所に向かいます」
「え、仕事はどうするつもりだ?」」
「長期休暇を頂きました……それに、まぁ、第二王子に手を出した事は間違いないので、ファルマ殿下が何とかしてくださるという事もありますから、落ち着くまではカトリーヌと一緒に伯母上の所でのんびりと暮らそうと思います」
何とかするーという話をしていたファルマの言葉を信じているが、殴った相手は一応この国の王太子でもある人物だ。同時にアリシアはその母親であり、女狐でもある女が何かを仕掛けてくるのかもしれないと思ったので、逃げるための準備は既に整っているのである。
「……仕方がない」
父は再度頭を抱えるようにしながらも、一応許可を下さった。
自分の荷物は既に整理していたので、カトリーヌの荷物をメイドたちと整える為、立ち上がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます