第8章380話:加護

しかし、私は感じていた。


(これはまずいかもしれない……)


バフポーション。


ジルディアスソードのバフ。


ゾーンのような集中状態しゅうちゅうじょうたい


……これだけの条件が揃っていても、今のアレックスを相手には、せいぜい互角に戦うことが限界だ。


あと一歩、押しきるための馬力ばりきが足りない。


「どうした? 顔がくもっているぞ!」


見透みすかしたようにアレックスが言ってきた。


「敗北を予感したか? 当然だ。貴様のようなくずに、勝利の女神は微笑むまい! 貴様の敗北は、最初からてん配剤はいざいとして決まっていたものだ。巨悪きょあくは滅ぶべき定めであると受け入れるがいい!」


もう勝ったかのような言い草だが、現実的に、このままでは私の敗北は濃厚だ。


打開策だかいさくを必死で思案しはじめた――――そのとき。


『クランネル王都で戦う者たちよ』


突然、響き渡る声がした。


『私は精霊シエラ。王都の混乱を治めるべく、戦士たちに加護を授けにきた』


まるで天啓てんけいのごとく、恩寵おんちょうのごとく、降り注ぐ声。


浸透声しんとうせいなどとは比べ物にならないほど美しく、神々こうごうしい。


『受け取りなさい。これが精霊の加護よ』


次の瞬間。


私の身体に異変が起こる。


まるで内なる力を覚醒かくせいさせられたかのような……


身体の底から、膨大なエネルギーがあふれてくるような感覚。


(すごい……)


全てのステータスが劇的に向上したのを感じる。


「なんだ、今の声は? わずらわしい!」


とアレックスが不愉快ふゆかいそうな顔をしていた。


私は静かに告げる。


「精霊が、邪悪につ力を、授けてくれたのですわ」


「ふン! ならば私に力を授けるべきだろうに! 精霊は貴様らの味方をしたというのか」


「当然ですわ」


シエラ様は私の味方だ。


アレックスに与することはない。


「これで、あなたを倒せます」


アレックスを倒すために、あと一歩足りなかった力が、手に入った。


私は剣を構える。


そして地を蹴った。


「―――――――!?」


私のステータスが向上したことに気づいたのだろう、アレックスが目を見開く。


慌てて、私の斬撃をガードした。


しかし。


「ふっ!!」


私は素早く、くるりと回転してアレックスの側面に回りこむと、彼の脇腹わきばらを切り裂いた。


「が、あっ!!?」


アレックスが痛みに悲鳴を上げる。


しかしすぐさま持ち直して、私に斬撃を放ってきた。


私はそれをかいくぐりつつ、今度はアレックスの背中に斬撃を浴びせる。


「うぐぅっ!!?」


苦悶くもんの声を漏らすアレックス。


いったん私は距離を取る。


(身体が軽い……)


私は、自分の動きに感動する。


ここまでキレのある動きや斬撃を繰り出せたことは、かつて一度もない。


シエラ様の加護が、どれだけ素晴らしいものであるかがわかった。


それに。


「回復ができない!?」


アレックスが負傷をいやそうとしていたが、失敗する。


ジルディアスソードの特殊効果により、回復が妨害されているのだ。



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