第8章373話:別視点2

「終わりね」


とゾネットが冷たく告げたあと、攻撃魔法のモーションに入った。


狙いはもちろんレオンである。


「まずい!」


エドゥアルトはレオンをかばうように、レオンの前に立った。


ゾネットは、攻撃魔法を放つ。


エドゥアルトごとレオンを吹き飛ばすような威力を持つ魔法。


その魔法が2人に飛来し、直撃しそうになった――――そのとき。


「――――――――」


エドゥアルトとレオンの前に、突如として防御魔法陣ぼうぎょまほうじんが展開された。


その防御魔法陣が、ゾネットの魔法をレジストする。


間一髪かんいっぱつのところでエドゥアルトたちが助かった構図だ。


その防御魔法陣を構築した者たちが現れる。


3人の魔法使いだ。


紅色の立派なローブに身を包んでいる。


先頭に立つ老人の男性。


背後には壮年の男性が1人、女性が1人だ。


宮廷魔導師長きゅうていまどうしちょう……!?」


とエドゥアルトが声を上げた。


この魔法使い3人は、宮廷魔導師。


先頭に立つ老人が、宮廷魔導師の師長であり、後ろの2人は部下である。


現れた者たちに、ゾネットは興味深げな目を向ける。


「まさか、今の時代の宮廷魔導師長と、まみえることになるとはね」


ゾネットもまた、かつて宮廷魔導師の長を務めた者だ。


「ゾネット様」


と宮廷魔導師の師長は述べた。


「お初にお目にかかります。宮廷魔導師の現師長げんしちょうを務めております、ガーラムです」


片手を胸に当て、うやうやしく頭を下げる。


まるで精霊に対して敬意を表明するような、丁寧な拝礼はいれいである。


「あら。丁寧な挨拶じゃない?」


とゾネットは感心している。


「当然です。我々は、あなた様を畏敬いけい申し上げておりますから」


と宮廷魔導師長ガーラムは告げる。


「王城には宮廷魔導師が使用しているとうがあります。その棟の中庭には、一つの石碑せきひが安置されています」


「……」


「そう、あなたが残した石碑です。その石碑には、あなたがかつて残した言葉が刻まれています」


宮廷魔導師の棟の碑文ひぶん


その内容は以下である。




◆◆◆


魔法は、便利な力だけど、恐ろしい力でもある。

だから肝に銘じなさい。

みんなを笑顔にするために使うこと。

社会を豊かにするために使うこと。

平和のために使うこと。

そして、その意思を、次の時代の魔導師たちにも、引き継ぎなさい。

これからもずっと、魔法が正しく使われることを祈っています。


◆◆◆





えらぶった文言もんごんはなく、着飾きかざった言葉もない……ただ真っ直ぐなメッセージに、私はとても心を打たれました」


ゾネットは、宮廷魔導師にとって偉大な先人せんじんだ。


その生涯しょうがいを通じて、平和のために魔法の研究をおこない、研究結果を社会へと還元かんげんした魔導師。


ゆえにゾネットのふたは『平和の魔女』。


後世こうせいの宮廷魔導師にとって、敬愛けいあいしてやまない偉人なのである。


「なのに――――そんなあなたが、王都を破壊するのですか?」


責めるような、嘆くような声で、ガーラムは問いかける。


ゾネットは肩をすくめて答えた。


「アレックスに逆らえないんだから、しょうがないでしょ」


「さようですか。ならばやはり、我々が力づくで止めるしかありませんね」


尊敬するからこそ、倒すのだと主張するガーラム。


「ええ。全力で止めてちょうだい」


とゾネットは微笑んだ。




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