第8章329話:アレックス視点5

だからゼリスの言葉など無視して、アレックスは己の成すべきことに集中する。


空へと舞い上がったアレックス。


地上から50メートルほどの高さだ。


王都の街並みを遥かに見下ろす高度である。


さらに彼は、空中を移動する。


王都の中央広場の近くまでやってきた。


そこから声を発する。


「聞け、ルチルッ!!」


声が浸透する。


王だけが使うことを許された魔法【浸透声しんとうせい】である。


これは声のボリュームを拡大する【拡声かくせい】とは異なる魔法だ。


王都おうと全域ぜんいきに、同じ音量の声が浸透する。


まるで神がお告げを下すような声で、アレックスが告げる。


「ルチル・フォン・ミアストーン!! 私は貴様の婚約者であり、第一王子、アレックスだ! 今から貴様に、決闘を申し込む!」


王都にいる全ての人間に、この言葉が伝わった。


王都の市民たちは、突然のことに困惑を示していた。


「な、なんだ?」


「アレックス王子?」


「おい、あれ?」


「誰か空に浮いてないか?」


「あれは……アレックス殿下じゃない?」


「なんで空に浮かんでるんだ? すげー」


「殿下なの? なんだか変なイレズミがあるけど」


「ルチルって誰?」


「馬鹿! 英雄ルチルのことだろ!」


ざわめきが広がる。


アレックスは続ける。


「決闘といっても、学園でおこなうような決闘ではない! 正真正銘しょうしんしょうめいの殺し合いだ! 私と一騎打いっきうちをしてもらおう! だから、私のもとに出てくるがいい!」


――――殺し合い。


アレックスとルチルが婚約していると知っている者からすれば、驚愕の言葉である。


もちろん婚約破棄となる運びなのだが、まだそのことは限られた者しか知らない。






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