第7章300話:出発

私も静かにワインをすする。


うん……苦く、甘酸あまずっぱい、美味しいワインだ。


ロゼワインに近いテイストである。


「ところで、」


と市長が尋ねてきた。


「第5層、ボス部屋の奥についてなのですが、限定魔法陣げんていまほうじんによって閉ざされた空間がありました。あの空間についてなのですが……」


私は、市長が言わんとするところを察したので、先に答えることにした。


「その空間については、こちらで調査いたしますわ。わたくしたちしか、立ち入ることができませんもの」


限定魔法陣を素通すどおりできるのは、ボス部屋を攻略した私、エドゥアルト、フランカと、リファリネスだけである。


市長たちには調べたくても入ることすらできない。


「はぁ……中に何があるのか、お聞きしても?」


「どうやら転移装置があるようですわ」


「転移装置……なるほど」


「どこに転移するのかわからないものですが、ひとまず転移魔法を起動するために必要なアイテムを探さなくてはいけません」


「そういうことでしたら、ルチル様の恩返しもかねて、私どもがお探しいたしましょう」


と市長が提案してきた。


私は首を横に振った。


「申し出はありがたいのですが、既にアテがありますの」


「そうだったのですか」


「はい。ただ、絶対にそのアイテムが手に入るわけではありませんので、何かあったときは、市長を頼ることもあるかもしれません」


「そのときは誠心誠意せいしんせいい、ルチル様に尽くします。いつでも私に、話を持ちかけてくださいませ!」


と市長は意気込いきごんだ。


晩餐が終わり、翌朝。


もう副都での用事はなくなったので、メイルデントを発つことにする。


メイルデントの正門にて、市長が見送りにやってきた。


別れのあいさつをおこなう。


「またいつでもいらっしゃってください。そのときは歓待いたします」


と市長が言った。


私は答える。


「ええ。そのときを楽しみにしておりますわ。市長も、今後も副都の統治をお任せしますわよ」


「はい」


しかと市長は答える。


あいさつを済ませたので、私はエドゥアルトたちとともに、馬車へと乗り込んだ。


ややあって、馬車が走り出す。


かくして、メイルデントの視察は終了するのだった。




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