第3章82話:父上への提案


(採算を取るには、小麦粉じゃなくて片栗粉を使うしかない)


唐揚げは小麦粉でも作れる。


しかしこの世界では、小麦は高級品だ。


大量生産には向かない。


一方、ジャガイモは栽培が簡単だ。


価格にすると激安だろう。


しかし、ジャガイモは毒があると誤解されている。


だから国内ではほとんど生産されていないのだ。


なので、まずはたくさん栽培する体制を整えたいところだね。


(領内でジャガイモを栽培してもらえるよう、父上に進言するしかありませんわね)


私はその日から、父上を説得する方法を計画していった。





1週間後。


いろいろ情報を集めるうちに、公爵領の南部で不作が生じていることを知った。


これをネタに、ジャガイモ栽培の約束を取り付けようと思った。


父上の執務室にお邪魔する。


「それで? 話とはなんだ?」


父上は尋ねてきた。


私は言った。


「公爵領の南部で、不作が発生しているとお聞きしましたの」


「ああ。どこから聞いたか知らんが、その通りだ。で、それがどうした?」


「その不作の対策に関して、わたくしに腹案がございますわ」


「……なんだと?」


父上が怪訝そうな顔をする。


私は告げた。


「まず確認ですが、不作の原因は、土が痩せてきていること……それによって作物の栽培が難しくなっていることで、間違いありませんか?」


「ああ。その通りだ」


「でしたら、ジャガイモの栽培をしてみてはいかがでしょう?」


「ジャガイモだと? ジャガイモというと、あの毒のあるイモのことか?」


「毒とおっしゃいましたが、ジャガイモの芽の部分に毒があるだけです。芽を取り除けば食べられます」


「……なんと。それは本当か?」


「ええ。いろいろ調べてわかったことですわ」


まあ、前世の知識なんだけどね。


しかし私の発言に、父上は驚いていた。


この報告は、いわば新しい食材の発見と同義だ。


驚くのも無理はないだろう。


「ジャガイモは痩せた土地でも育ちやすく、大量生産もしやすいですわ。種イモを植えれば5倍から10倍の収穫量が期待できますから」


「なるほど。それなら南部の不作にも対応できるということか」


父上が納得する。


ここで、私は畳み掛けた。


「それで、父上。お願いしたいことがあるのですが、栽培できたジャガイモを一定数、わたくしの商会に卸していただけませんか?」


「む? それは構わんが、いったいどうするつもりだ?」


「はい。ジャガイモを使って、とある料理を作りたいと思います」


「……ふむ?」


私は事前に作っておいた唐揚げを、父上に差し出した。

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