第1章24話:契約特典

シエラ様の身体が光る。


その光が、私の身体にも伝わっていく。


まるでシエラ様と私のあいだに、見えない関係性が構築されていくように。


……やがて、光が消えた。


シエラ様は手を離した。


「終わったわよ」


「これで、契約完了ですか?」


「ええ」


見た目には何も変化がない。


いまいち実感がわかなかった。


「契約にあたって、あなたに二つの魔法を授与じゅよしたわ。鑑定魔法と収納魔法よ」


「な、なんですって!?」


私は驚愕した。


その二つの魔法は、まさにのどから手が出るほど欲しいものだった。


伝説の魔法であり、習得は不可能だったが……


まさかここで手に入るなんて!


「錬金術の研究には必須でしょ? だから授けてあげるわ」


「み、見返りもなく伝説の魔法をいただいてもいいんですの!?」


「何言ってるのよ。見返りはいただくわ」


「……!」


ま、まあそうだよね。


さすがにタダで鑑定魔法や収納魔法をもらえるわけはないか。


私は尋ねた。


「い、いったい何をご所望しょもうなのでしょう?」


「そうね。あなたが生み出すさまざまな文物ぶんぶつを、あたしにも献上けんじょうしなさい」


「……えっと?」


「シャンプーとかトリートメントとか。美味しい食べ物とかね」


ああ、なるほど。


もしかしてそれが狙いで契約を申し出たのかな?


そんなことを考えていると、まるでこちらの思考を読んだようにシエラさんが言ってきた。


「べ、別にそれが狙いで契約したわけじゃないのよ? あくまで錬金術のサポートをするためなんだからね?」


「ああ、はい。何も言ってないですわよ」


とにかく、製作物を献上すればいいんだね。


それだけで鑑定魔法と収納魔法を使えるというなら、おやす御用ごようだ。







「さて……契約も済んだことだし、次はあたしの住処すみかに案内してあげるわ」


「……住処?」


「そう。ちょっと見てなさい」


シエラ様が部屋のすみに移動した。


そこで魔法陣を展開する。


見たことがない魔法陣だ。


「その魔法陣は何ですの?」


「これは転移魔法陣よ」


「て、転移魔法陣!?」


長距離を転移する魔法。


これもまた鑑定や収納と同じく、伝説級の魔法である。


というか実在を疑問視されるレベルの魔法だ。


精霊なら使えるのか……。


「まあ、転移魔法陣を設置できる数はかぎりがあるから、どこでも転移できるわけではないけどね」


なるほど、制約があるのか。


それでも強力すぎる魔法だと思うけどね。


「とりあえずあたしとルチルの二人だけに転移許可を出して……っと」


シエラ様が魔法陣の調整をおこなう。


やがて、私を振り返った。


「さ、準備は整ったわ。この魔法陣の上に乗りなさい。それだけで転移が発動するから」


そう言うなり、シエラ様が転移陣の上に乗った。


直後、彼女の姿が跡形あとかたもなく消えた。


本当に転移したのか……。


すごい。


「よーし、わたくしも」


伝説の魔法を利用する栄誉。


それをかみ締めるように、私は転移魔法陣のうえに足を踏み入れた。


すると。


「おおっ」


光があふれる。


魔法陣の外の景色が消えていく。


そうして、数秒後。


私は、砂浜に立っていた。

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