第八話 【初配信】ゴブリンに屈服させられる美少女勇者

 最強だ。

 ゴブリンに屈服させられる美少女勇者。

 その一部始終を生配信するのだ!


(そうすれば、新生ガーベチャンネルの視聴者は鰻登り! チャンネル登録者も爆増して、有名人の仲間入り!!)


 そうすれば借金なんてすぐに返せる。


 なんて。

 そんなことを思っていた時期がガーベにもありました。


 さてさて。

 時は村を出てから少し後。

 場所はゴブリンの棲家となっている洞窟。


「やぁああああああああああっ!!」


 斬ッ!

 と、およそ12体目のゴブリンを切り払うのはリーシャだ。


『リーシャちゃんつぇええええええええ!』


『タイトル詐欺だけど当たり配信すぎる』


『可愛い女の子が戦ってる姿ほど癒されるものはない』


「えへへ……リスナーの皆さん! ありがとうございます! リーシャ、頑張ります!」


 と、ゴブリンを倒すたびにリスナーに愛想振り撒きに戻ってくるリーシャ。

 うざすぎる。


(これはテメェの配信じゃねぇんだよ!! だいたいなんだ!?)


『おいガーベ、もっと近くでリーシャ写せ』


『ガーベ話さない方がおもろいな』


 クソアンチ共が。

 タイトルに引かれて来た変態どものくせに、リーシャリーシャとうるさすぎる。


 こんなはずじゃなかった。


 リーシャが予想以上に強かったのだ。

 これでは駆け出し勇者詐欺だ。


 ガーベは頑張った。

 めちゃくちゃ足を引っ張ってみた。

 例えば。


「うわぁああああああ! ゴブリンに殺される、助けてくれ!!」


 言って、ガーベはゴブリンの前で倒れたりもした——それも、リーシャが別のゴブリン二体と戦っている時に。


 正義感の強いリーシャのことだ。

 ガーベを助けた一心で、自らが戦っているゴブリン二体への集中がなくなり——後頭部を殴られ気絶、リーシャはそのまま繁殖部屋に連れていかれ。


 みたいなのを想像していた。

 だが現実はこうだった。


「っ…….ガーベさんはリーシャが守ります!!」


 斬ッ!

 と、高速の二連撃を繰り出したリーシャ。

 彼女はゴブリン二体を瞬殺すると、凄まじい速度でガーベの元へとやって来て。


「やぁあああああああっ!」


 斬ッ!

 ガーベの側のゴブリンも瞬殺した。


 クソみたいな安定感。


 リーシャはどんなアクシデントに見舞われようと、その後も一生動じることなくゴブリンを倒し続けたのだ。

 結果。


『うぉおおおおおおおお! リーシャぁあああああああ!』


『配信のタイトルみろ! ガーベはお前の敵だぞ、気がつけ!』


『リーシャたん好きだ! 結婚してくれぇえええええ!』


 リスナー全員味方につけた。

 しかも数人はリーシャに余計なこと言っている。


(リーシャが配信のタイトルに気がついたら、大変なことになる!)


 間違いなく殺される。


(ちくしょう! どうして俺がこんな理不尽な目に!)


 しかもだ。

 前回ほど視聴者が来ていないのも困りものだ。

 まぁ納得もできるが。


(前回は初っ端から、リーシャをハメる気満々の配信だったからな)


 それに比べて今回は、リーシャがゴブリンに倒されるまで待ってるいわば日和見配信。

 しかもいざ配信開いてみれば、リーシャがゴブリン相手に無双しているだけの絵。


 ガーベだって思うさ。

 タイトル詐欺やんって。

 そんなん速攻で閉じる——閉じて他の配信者のところに行く。


 だから今ここに居るのは、リーシャの可愛いさだけで残っているリスナー。



(まぁ、それでもリスナー数が千人なのはすごいけどさ……すごいけど、ここに俺目当てのリスナーが一人も居ないのが泣ける)


 そうこうしている間にも、ゴブリンの群れは一時落ち着いたしまう。

 リーシャがみんな倒したのだ。


「ふぅ、少し疲れました! でもゴブリンはこの洞窟の奥に、もっとっといるはずです! ガーベさん、油断せずに行きましょう!」


 えいえい、おー!

 ガーベに背を向けて洞窟を進んでいくリーシャ。

 もう我慢の限界だ。


(もう賭けに出てやる……)


 ガーベは近くにあった、手頃な石を片手に握る。

 もうゴブリンには頼っていられないし、これ以上リーシャにチャンネル占拠されるのもごめんだ。


(こいつでぶん殴って、気絶させたリーシャをゴブリンの繁殖部屋に放り込んでやる)


 そうさ。

 やってやる


「ケヒ、ケヒャヒャッ」


 ガーベはゆっくりとリーシャへと近づいていく。

 そして、彼女が間合いに入った。

 まさにその瞬間。


「ケヒャ!」


 石を握った手を、思い切り振り上げらのだった。

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