第二章 もふもふはモサモサ

第7話 どうやらフェンリルは立てるようです

 あれから数日が経ち、旅立つ準備はできた。ダンジョンからドロップした物は冒険者ギルドで売ると高値で売れた。


 きっとギルド側が僕の事情を読み取って高値で買い取ってくれたのだろう。


 たくさんあるお金で優先的に手に入れたのは、魔力ポーション。これはマリアのために必要な命の源だ。


 魔力喰いは魔力があればそっちを優先的に吸収する。そのため、マリアには今後も魔力ポーションが必要となる。


 そして、今まで体力が落ちた体を癒すために回復ポーションをいくつか買った。


 それでようやくマリアも動けるぐらいに回復した。


 あと残っているドロップ品は初めに手に入れた、フェンリルの毛皮だけだ。手先が器用なマリアが新しい街に着いたらマントにしてくれるらしい。


 これでようやくこの町から離れることになった。元々住んでいた家は冒険者ギルドから商業ギルドへ売却してもらうことにした。


 その時に手に入れたお金はギルドが管理してくれることになった。


 様々あるギルドにはお金を預けられるシステムが出来ている。そのシステムを使えばどこの街にいても大金を持ち運ばなくても済むようになっている。


「今までありがとうございました!」


 僕達は住んでいた家にお礼を伝えて町を出た。向かう先は隣街だ。


 北に向かえば向かうほど、貴族がたくさんいる王都に向かうことになるため、僕達は南に行くことにした。


 隣街は住んでいたところよりも発展しており、近くに森やダンジョンがあるため、冒険者業もしやすいという理由でそこに行くことにした。


 そこが住みやすければ移住しても良いだろうし、住んでいたところが王都に近いため、もう少し南に行ってもいいのかもしれない。


 そこは追々家族と相談するつもりだ。


「はぁー、お尻の痛みはモスモスすると忘れちゃうよ」


 隣の街には乗合馬車で移動している。そのため、狭い馬車の中では身動きがとれずにお尻が痛くなってしまう。


 その疲れをモススの体に顔面を擦り付けてもふもふする。


――通称"モスモス"


 モススも嬉しいのか、足や羽をジタバタとしていた。モススの毛並みは少し短めのため、頬に触れる毛が柔らかくて心地良い。


「おい、コボルトが出てきたぞ! しっかり掴まれ!」


 御者の声が聞こえてくると馬車の走るスピードは上がる。


 それはフェンリルに似た姿をした魔物だが、別の個体とはっきり言ってもよい姿をしている。


 二足歩行で歩き、口元からよだれをたらたらと垂らしている。


 鋭い牙が特徴的で、その姿はフェンリルのような威厳や可愛らしさも持ち合わせていない。


「秘技モスモスビーム!」


 そんなコボルト達に向かってモススを向ける。キラリと輝くモススの目を見ると、コボルトは尻尾を股の間に挟んで、怯えて逃げていく。


 やはり最強の魔物であるフェンリルには敵わないのだろう。


 その結果、コボルトが出てきた時は追いつかれないようにスピードを上げるが、基本はゆったりと安全な移動ができた。


 それにしてもやけにコボルトばかり出てくるのは、新しい街付近の特徴なんだろうか。


 冒険者ギルドに着いたらすぐに確認する必要がありそうだ。





 街に着くとあまりの大きさにマリアは驚いていた。頭の上に乗っているモススもバタバタと羽を羽ばたいている。


 ただ、飛べないため羽が隣の人に当たっているため、謝りながら僕は歩いていく。


「まずは泊まる宿から探そうか」


 今日から泊まる宿を探すのが一番の課題。子ども二人が泊めて欲しいと言っても、中々受け入れてくれないのが現実だ。


 お金を持っている貴族のような服装であれば問題ないだろうが、僕達の見た目では中々泊まれないだろう。


 だからこそあまり綺麗ではない、古民家のような宿屋を探すことにした。


「ここって本当に宿屋なのかな?」


「多分宿屋であっていると思うよ」


 街の奥の方にある古民家には、ひっそりと看板がかけてある。きっと大々的に営業しているような宿屋ではないのだろう。


「すみません。数日ここに泊まることってできますか?」


 僕が扉を開けるとそこには、フェンリルのようなもふもふとした男が立っていた。

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