第11話 王子、お父さんになる

 フェニックスの話を聞いていると、どうやらこの穴で子育てをしているらしい。


 流石に子育ての邪魔をしてはいけないと思ったが、ぜひ子ども達を見てほしいと言われて奥に歩いていく。


『アドル、拙者もどうぞ?』


 コボスケは僕に背中を向けて、横向きで歩いている。


「どうぞって何が?」


 急いで向きを変えて詰め寄ってきた。


 うん、まだ獣臭が少し気になる。ひょっとしたら口臭より体の汚れの方が気になるのかもしれない。


『ヌー! アドルは気づいてないのか? 友達の拙者を差し置いて、コウモリをもふもふしているのを!』


 どうやらフェニックスのもふもふとした体に触れながら奥に進んでいたようだ。この羽一つで大量の金貨になるぐらいすごい羽をせっかくなら触っておきたい。


 できるなら少し分けてもらって枕にしたいぐらいだ。


 フェニックスの枕。ポカポカして太陽の下で寝ている気持ちになりそうだ。


『アドルは照れ屋だから仕方ないな!』


 一向にもふもふしないからか、コボスケは僕の手を掴み背中の上に乗せてきた。


 照れて僕が触らないと思っているのだろうか。


 仕方ないと思いながらも、両手にもふもふを味わう。


『オラの家族はここにいるぞ』


 洞窟の奥には小さな声で鳴く、可愛い雛……いや、火を吐く雛達がいた。


 雛達はお互いに火に炙られそうになっている。


「まるで焼き鳥みたいだな」


 平民街では串に刺した鳥をタレにつけて焼いて食べる焼き鳥が屋台で売っている。その状況に近いものを感じてしまった。


『こいつら元気だからオラだけでは育てられないんだ』


 餌を取りに行っている時に雛達は火を吐いて、お互いを燃やし尽くしてしまうらしい。


 そのため、一体だけ残れば良い方だと言っていた。


 中々の死をかけたゲームが巣の中で繰り広げられていた。


『だからお主に育ててもらいたいんだがいいか?』


 えっ?


 育てるってフェニックスの子どもを育てるってことか?


 火を吐く雛鳥をちゃんと育てられる気がしない。


 ただ、それはフェニックスも同じらしく、子どもを毎回産んでは死んでしまうらしい。


 その繰り返しで出産と育児で疲労困憊状態だ。


『羽をあげるからどうだ?』


「んー」


 羽を貰えるのはありがたいが、僕は鳥を育てたこともない。しかも、フェニックスとなれば話はもっと別だ。


『いつでももふもふできるぞ?』


「んー、悩むなー」


『そこは拙者がいるではないか!』


 コボスケはフェニックスと争っていた。別にもふもふをしたいわけではない。


 単純に触り心地が良いから触っていただけだ。


 ただ、雛は二羽しか残っていないため、ここで一羽預かれば二羽とも確実に助かるだろう。


『オラの卵もあげるよ? すごいおいしいと評判だぞ?』


「よし、わかった! ただ、僕も子育てしたことないからどうなっても知らないぞ?」


『両方死ぬ運命よりはマシだよ』


 優しく見つめるフェニックスの顔は、昔見ていた母親の顔に似ていた。


 そういえば、フェニックスはオラと言っていたがメスだったのか?


 僕はフェニックスの雛を預かった。


 そういえば、フェニックスの卵って美味しいのだろうか?

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