第3話 王子、フェンリルと友達になりました
目の前にいるコボスケに命乞いをするように謝ることにした。
「すまない! 僕が悪か――」
『そんなにお腹が減っていたら、いつでも持ってきたぞ?』
コボスケの手には大きなブドゥを持っていた。いくつもの果物からなるその果実は甘くて爽やかな味わいが特徴だ。
ただ、目の前にあるブドゥも大きさが尋常じゃないぐらい大きい。一粒が僕の手と同じ大きさだ。
『アドルにはちょっと大きかったか?』
全然受け取らない僕を心配したのか、ブドゥの皮を丁寧に剥き渡してきた。果汁が溢れ出て、僕の喉を刺激する。
この島に来てから何も飲んでいなかった。
受け取ると僕はむしゃぶりつく。甘さとジューシーさが口いっぱいに広がり、幸福感が満たされた。
その瞬間、僕はブドゥの魔法に取り憑かれたようだ。
『どうだ? うまいだろ?』
「ああ、今まで食べた中で一番うまいかもな」
『本当か? 本当にそう思うか?』
コボスケはブドゥを褒められて嬉しいのか、尻尾をブンブンと振っている。その勢いは周りの木々を薙ぎ倒す勢いだ。
『これが
その言葉にどこか胸が痛くなる。僕も本当に信頼した友達なんていなかった。ここまで素直に喜んでくれる友達が本当の友達なんだろう。
ただ、今の僕では対等に接することはできないだろう。
だってフェンリルだぞ?
今も僕の周りをグルグルと回っている頭がおかしいやつだ。
まずは様子見で友達になるかを考えることにした。
♢
「あばばばば!?」
『アドルそんなに嬉しいのか?』
いや、これは嬉しい時の笑いではない。むしろ息ができなくて死にそうだ。
僕はコボスケの肩に乗って森の中を疾走している。
衣食住の食事はどうにかなりそうだ。そのため住む場所についてどうするか確認したら、コボスケが案内してくれると言っていた。
その結果がこれだ。
本当に風が強すぎて死にそうだ。
僕はコボスケの顔を叩くと、気づいたのかゆっくりと立ち止まった。
『アドル楽しいか?』
「あー、いや――」
嫌っと言おうとした瞬間コボルトは震え出した。
ああ、今まで友達がいなかったやつが、初めての友達に否定されると流石に立ち直れないはずだ。
「楽しかったぞ! ただ息ができないからゆっくり歩いてほしいかな」
すぐに言い直すとコボスケの目はキラキラと輝いている。
これは帰りたいと絶対言えなくなるやつだろう。
『友達は思いやりが大事だったな!』
ああ、それを言われるとコボスケを利用している僕の胸が痛くなる。ついつい胸を手で触ってしまう。
『あああ、拙者はこんなことにも気づかない馬鹿だったのか。一度死んで詫びないと――』
「いやいや、そんなことはしなくて良いぞ。コボスケは優しいぞ」
今にも頭を岩に打ちつけそうなコボスケを必死に止める。本当に友達がいなくて拗らせてしまったのだろう。
僕も拗らせている方だと思っているが、それを上回るほどだ。
『今初めてコボスケと呼んでくれたか?』
「ああ、確かにそうだな」
名前を聞いていたが呼んだ覚えはない。むしろ馴れ馴れしく呼ぶのも怖い存在だ。
だってフェンリルをコボスケって呼ぶんだぞ?
いつでも殺してきそうな存在を気軽に呼べないぞ。
『うー! 拙者感激で頭が痛いぞ!!』
「おいおい、だからやめろよ!」
コボスケはあまりの嬉しさに頭を岩に叩きつけていた。
ああ、やっぱりこいつもおかしいぞ。
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