ゾンビ世界で死霊術師……え?僕に味方いない?(ァー)
mono-zo
第1話 ヘタレでビビりな大学生作業員
大学にいて皆のスマホが鳴り始めて、鳴り止まなかったのが始まりだ。
世界にゾンビが現れた。
一気に文明は崩壊し、避難所となった近くの高校で働いている。特に力があるわけでもなく戦いなんてすることもなく避難できた。
もしもゾンビと出会っていたら多分死んでいたかチビっていたと思う。昔からホラーがダメなのにゾンビとかくっそ怖い。見たら失神するかもしれない。
自分の仕事は地味に雑用。たくさんいる高校生より2歳ほど年齢が上だからと微妙に危ない溶接なんかを手伝ってバリケードを張ったり車の溶接をしている。技能はなかったが、避難してきた工場の親方に教わった……バイトで事務をしていた工場のおやっさんのおかげだ。
おかげでそこそこ重宝されて安全に働いている。寝るのも体育館裏と山に挟まれた空きスペースの掘っ立て小屋でゾンビと会うこともないし、他の労働をしなくてもいい。
もうこの暮らしも2週間になるのか、避難所の暮らしは結構最低だが外に出されて死んでしまうよりはよっぽど良いし死体もゾンビも襲いかかってくる人も見ないで済んでいる。
人類社会は何処からか現れたゾンビによって破綻したが人間も変化が起きた。火を操るものや水を出せるものが出てきた。
ゾンビを狩る部隊に所属していた高校生、親が道場をしていた小野田堅十郎くんは帰ってきたら髪と爪が真っ赤になっていたし藤原美紀さんは同じく髪が水色になって水を出している。高校生はレベルアップだの何だの言っていたが保健室の先生もゾンビと交戦することもなく傷を治す異能を使えるようになっていた。
「坊主は力が使えるとしたら何が使いたい?」
「んー・・こんな現状全部どうにかできる力があったらなぁ・・・」
「曖昧だなぁ」
曖昧も曖昧、自分でもそう思うが……こんな社会になって素直にそう思うのだ。
「おやっさんは?」
「俺は、そうだなぁ」
油で黒く汚れた頬をかいているおやっさん。この人は結構なんでもできるすごい人だがあまり工場では好かれていなかった。元々工場で使う大型機器の特殊な部品を作る会社であったのだが本部から来たコネ所長が営業方針を大きく変えてどこでも売ってるネジなんかを売ろうとか馬鹿なことを言い始め、あろうことかそれを強引に導入しやがった。
所長は自分に賛同する社員を優遇し、自分の意見を馬鹿なことと言っていた古参勢を酷く冷遇した。
既に普及している部品は市場が決まっていてそちらで徹底した効率化が進んでいる。だから今更競争してもコスト面で大きく負ける。品質や精度が同じ品質でも値段が倍以上違うし、それまで培ってきた信頼性が段違いなのになんでそんな舵取りをしたかったのだろうか。
だから突然赤字転落した工場を立て直すために経営に強い叔父が来た。叔父さんは工場の立て直しを命じられて工場内で争っていて、経理に経済情報学部でパソコンも使えて簿記の資格も持ってる自分がバイトに呼ばれた。
ごますり社員はごますり工場長を慕い、古参からの技術力のある社員は叔父をとても慕っていてバイトの自分にも居心地の悪さは感じていた。
だからか経理のことはわからないなりにおやっさんはコーヒーを差し入れてくれたり、無茶を言う社員をひっつかんで連れて行ってくれていた。
……いかつい顔の割には話せる人だ。その顔で通学路で道の角でばったりであった小学生を泣かしたというのは笑ったが。
「ほんの少し先のものが取れたらそれが便利だと思うが」
「念力とかそんな感じかー……それは確かに」
車の整備なんかはそういう場面が多い、ボルト一つとっても何十種類も使い分けられているしそれに対応したそれぞれの工具がある。今では部品の供給が期待できない。
その辺の車をバラして使ったり何なら溶接してしまっている。鉄板をくっつけるだけにしても溶接するか接着剤を使うか針金を巻くか穴を開けてボルトを入れるかなど選択肢は多岐にわたる。
欲しい物をスマホで注文して2.3日で届く、もしくはホームセンターにでも行けば大抵の物が揃っていた頃が懐かしい。
そもそもそこに行くまでに戦いは起きるだろうし、たどり着いても荒らされているか誰かが住み着いていて占拠しているだろうが。
物が無ければなにか別の形で代用するしか無いがそれにだって限界がある。取れたドアをどうするか?板で塞ぐ?ドアがついていればいいと溶接する?別のドアを探す?選択肢はあってもどう直すかで物資と作業員の時間は使われる。
海外の動画で車の補修に「車のボディにレンガやセメントを入れて塞ぐ」というものがあったがそれを笑えないレベルだ。
工場では必要な道具がないと何も始まらないようにここでも物資不足である。何処にでもあるようなプラスのビットすら自作だ。マイナスだったら8本あったから一本加工したが。
俺は専門の作業員じゃないのに「助手は必要」と呼んでくれて本当に助かる。
もしも何もなかったら追い出されるかゾンビとの戦いに駆り出されていたはずだ。
この世界はもう地獄のような有様だ。毎日病気や事故ではなくゾンビや人同士の争い、病気に飢え……命が簡単に消えていく。
この避難所でも幼稚園を超える歳には全員働いている。校庭を畑にした野良仕事だったり、望遠鏡でずっと周りを見ていたり………食料をとりに遠征に行っていたり。
そんな中、外の現実を直接見なくてもいいのがずっと引きこもって作業している作業員だ、医療従事者と同じで大事に扱われている。
車の修理や武器の製造といった作業量に比べてわずか3人でしか作業していない。
理由は簡単、工具自体がないのだ。ボルトを一本外すのにも溶接で外すことがあるぐらいで……人がいても工具の扱い方でなかなかうまく行っていない。鉄板を取り付けるような作業は高校生たちを呼ぶが基本の作業はおやっさんと俺とDIY好きな高校生だけ。
知識も経験もない俺だけど、おやっさんのおかげで危ないゾンビとの対面からはできるだけは免れている。ホント感謝してもしきれないな。
「8ミリだが錆びついちまってる……慎重に行くぞ」
「はい」
車のワイパーが激しく折れてしまって交換しないと雨やゾンビの血がかかったときに事故しそうに、命に直結する。既にこれに合うレンチは最初に作業をしていた高校生が壊してしまった。
少し大きめのレンチに鉄板を挟んでゆっくり回す。どうやら簡単に緩んでくれたようだ。
「「はー」」
ゾンビに噛まれるとゾンビになるが乾燥したものでも成るのかはわからない。当然血がこびりついてるこれに直接触れるのは怖いし水道用の手袋で行っている。
それでも直さないといけないのはやはりこのわずか数千円だった物がうまく機能しないと人の命に関わるからだ。なんとかボルトも折れずに怪我するようなこともなく外れてくれた。
――――この何事もない幸せはいつまで続くのだろうか……?
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