第3話
更衣室に戻り着替え終わった奏多は壁に凭れ掛かりながら愛佳が出てくるのを待っていた。
スマホを弄っているといつの間にか作られていたグループチャットに、ゆいから写真が沢山送られてきていて、奏多はニヤニヤとにやけそうになる口元を我慢しながら保存していった。
奏多も身長はまぁまぁある方だが、琉斗の身長が完璧すぎて顔も美形でどの写真を見ても奏多にはクリティカルヒットだった。
(まさか、こんなイケメンさんと知り合いになるなんてな…橘琉斗さん…か…)
ぼーっと見ていると、ふと視界の端に黒のキャップに黒のマスクをした高身長の男性が出てきたのを捉えた。
見ていると相手とバチっと目が合ってしまい、すぐに奏多はスマホの画面に目を落とした。
「酷いですね、何で目を逸らしたんですか?」
いきなり声をかけられて顔を上げると、いつの間にか高身長の男性が目の前にいて奏多は頬を赤らめながら首をブンブンと横に振って否定をした。
だが男性は首を傾げていて顔を近づけてきた。
「いや、今、逸らしたじゃないですか?」
「え、あ、そ、そうですけど…ごめんなさい、不快を与えたのなら申し訳ございません!」
「………奏多さん、気づいてない?」
名前を呼ばれて奏多は「え…」と小さく呟くと、男性がマスクを下にズラして顔をちゃんと見せてきて、やっと気づいた。
やってきたのはマルスをやっていた琉斗だったのであった。
「え、あ、橘さん!お、お疲れ様でした!」
「…琉斗で良いですよ、奏多さんは社会人でしょ?俺、まだ大学生ですし」
“大学生”という単語に声には出さずに奏多は驚いてしまった。
大学生にしては色気たっぷりで、大人びていて自分と同じかそれ以上じゃないかと思ったからだ。
驚きながらじっと顔を見つめていると、琉斗の口角が上がり笑みを浮かべてきてすぐに奏多は目線を逸らした。
「今日はありがとうございました、凄く良い写真が撮れたってゆいが喜んでいましたよ」
「こ、こちらこそ!愛佳も喜んでいたし、俺も…マルスと撮れて嬉しかったから…」
目線を戻してちゃんと相手を見つめ嬉しそうに笑いながら奏多が伝えると琉斗も嬉しそうに笑った。そして何かを思い出したかのように話し出した。
「そういやアフターってどうします?」
琉斗からの問いかけに奏多は目をきょとんと見開くと問い掛けた。
「え、アフターって…確か、こういうコスイベ後に打ち上げする事だよね?」
「そうです、良ければゆいと愛佳さんも入れて4人で…」
せっかくのお誘いに悩み出した奏多だった…。
しかしスマホの画面を見ると、もう18時過ぎていて今からアフターに行くとなると、かなり遅い時間にお開きになりそうだった。
「ごめん、愛佳がまだ高校生だからさ…あんまり遅いと母さんに怒られたりしちゃうから…」
「ああ、それはそうですね…ならアフターは無しですね」
申し訳なさそうな表情をする琉斗に奏多の胸はズキンと痛んだ。
何か言わないと…と頭の中慌てながら色々考えていると、琉斗の手が伸びてきて手を優しく握ってきた。
握られた瞬間慌てていたのがすーっと落ち着いてきて、今この場だけ時間がゆっくりになっている感覚になっていた。
「りゅ、琉斗さん…?」
「それなら…飲み会とかはどうですか?俺もゆいも成人はしていますので」
「あ、え…でも……」
まさかのお誘いにどうしようか悩んでいると、困り眉でじーっと見つめてくる琉斗とバッチリ目が合ってしまい奏多は断れずゆっくり頷いた。
するとパァァっと琉斗の表情が明るくなり、嬉しそうに笑うと掴んでいた手を離して奏多の頬に触れるとそのまま顔を近づけて…
奏多の頬に口付けたのであった。
「あ、ゆいから連絡が来たので俺はこれで、それではまた」
そう言って琉斗は荷物を持ってスタスタと歩いて去っていってしまい、1人残された奏多はキスされた頬を押さえながらその場に蹲って顔を隠した。
(え、え…俺、今、琉斗さんに…キスされた…キスされたぁ!?)
「あ、お兄ちゃーん!もう探したよー、あれ?お兄ちゃん?」
愛佳の声が頭上から聞こえたが…奏多は顔を上げる事が出来ず、そんな奏多を見て首を傾げている愛佳だった。
そして家に帰り、奏多は色々済ませてから自分の部屋で狂恋のストーリーを読み返していると…主人公の女の子とマルスが話すシーンになった。
1つ1つの言葉がイケメンでキュンとしていると、最後にマルスは主人公の頬に口付けて去って行ってしまった。
そこで奏多は思い出した。マルスは別れる時に頬に口付けて去っていくのだと……。
(も、もしかして…琉斗さんはマルスの真似をした…?)
でもあの時はもうコスプレはしていなく、奏多も琉斗も素の姿であった。
「う、うん…琉斗さんは真似したんだよ、そうに決まってるよ…そうだよね、うん」
自分に言い聞かせながら奏多はスマホの電源を切ってベッドに寝転がった。
暫くは頭の中にマルスとの撮影や最後の頬へのキスが出てきていたが、疲れが溜まっていたのかいつの間にかスーッと眠りについたのであった…。
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