第21話「接戦は勇気とともに【後編】」
「正直エネシアさんって、堂々としてないし子供臭くて私苦手なんですよね……」
「同感っちゃ同感。誰にも顔を見せないし、インキ臭そう」
赤と白。
互いにエネシアの正体は知らず、偏見ながらも的確な感想を敵から飛ばされてくる武器や小腸型の触手を弾き返しながら、呑気そうに語り合っていた。
「でも……彼女には勝てる気がしないし……あの子の強さに感動すら覚えちゃう自分が悔しいッ!」
ローゼバルが強靭な両腕で触手を引き裂き、空中へと投げ捨てられた
「姿形が怪物になったとはいえ……こうして合法的に彼女を攻撃できる機会が出来て嬉しいです」
冷徹な呟きを溢しながら連射する彼女に、ローゼバルは半目で飽きれた表情を浮かべた。
「世界の命運が掛かっているってのに……この冷凍サイコパス」
同時に解き放たれた長杖から解き放つローゼバルの赤い光線とライフルから射出されるシンデレイクの青い光線が交差し──赤青の一撃がブラックエネシアのもう片翼を撃ち落とていく。
「しゃあ!」とローゼバルが片手を上げて歓喜するも束の間、そぎ落とされた両羽から二本の赤黒い歪な形状の大鎌が生えだした。
「何アレ⁉」
「エネシアさんが持っていた武器と似ていますが……形状が禍々しいですね」
途端に次は全身から熱を放出し、凍りつけられた部位をも溶かしてもう一本の腕を再生させた。
明らかに
「マズい! 全員回避ぃー‼」
ローゼバルたちはレーザーを全て跳ね返して難を逃れるも、攻撃で変身が解除され海へと落下していく人たちや救助しようとする者たちもレーザーをくらい、沢山の魔法少女たちが落とされていった。
──私たちを全員殺すつもりだ‼
それは敵の意思か徐々に量は増え、加速を極めていく。
撃ち落としていく中、一本のレーザーがシンデレイクの懐に潜りこむ──が、自分に迫ってくる攻撃を彼女は何とも無さそうに見つめていた。
──まだエネルギーシールドがありますし、これくらいなら……。
しかし、予想だにしない出来事が発生した。
されどシンデレイクにダメージは無く──エネルギーシールドを使う前にレーザーは音も無しに消滅していった。
シンデレイクは何もしていない、目の前の魔法少女が斬ったのだ。
彼女は槍を片手に、此方の状態を肩で息をしながら伺っていた。
「…………なぜここに来たのです、リリィ・ミスルトさん」
静かな声を耳にし、ローゼバルは意外な表情で「え? なんで⁉」と声を上げる。
「どうしてきたの⁉ 治療して貰っても完全じゃないんだから、ここは私たちに任せて良いんだよ!」
「それじゃあダメなんです!」
彼女の叱りにミスルトは気迫で返し、その声圧と共に魔法少女達を狙うレーザー群へと尋常ならざる速度で駆けて行った。
「私は二人や皆さんに比べて弱いですし、足手まといになるのはわかってるんです。
でも、これは私が始めた事だから自分でケジメをつけなきゃ……自分を許せないんです!」
すると、彼女の前へとすぐに駆け付けたローゼバルがエネルギーシールドで防御をし、罅を入れながらも耐える事に成功した。
「……そういうの聞くの嫌なんだよね」
低い声で放った赤い
「まっすぐな行動力が若くていいなって思っちゃってさ……それじゃあ、私がおばさんみたいじゃない!」
取り出した長杖からホーミングレーザーを射出すると、ブラックエネシアの放ったレーザー群を一瞬の内に全滅させてしまった。
煙が舞い、大気は電気を纏って、ローゼバルは笑う。
娘の様なこの子が気に入ったからだ。
「あら、おばさんではなかったんですか?」
瞬時に隣へとやって来たシンデレイクが真顔で
「二十代なんてあっという間だよ?
そういえば結婚相手を探して何年たったのかなぁ~? もう来年で“三十”なのに……ねぇ~? シンデレイクさん?」
攻殻を上げ笑いを抑えるかのように言われると、シンデレイクは視線を逸らし黙々と攻撃を再開した。
その後ろ姿に微笑しながらも、ローゼバルは満面な笑みで前へと視線を移す。
「──では強い弱い関係なし! 志願者は全員歓迎! ……人類を守れェェェェェェ‼」
人類三大魔法少女──ローゼバルの掛け声は全体に響くと魔法少女たちの士気は一斉に高まり、我こそはと攻撃を継続していく。
熾烈を極める侵略は英雄たちの数を削ろうとも、完全なる抑止力になる物ではなかった。
ある魔法少女は皆に簡易的な防衛フィールドを付与して威力を削がせ、ある魔法少女は一部の海上に自動回復な可能なラインを展開させる。
文字通り、魔法少女と天使の戦争。
攻撃が命中し、変身解除と共に海へと叩き落とされていく仲間たち。
しかし、仲間たちの末路を見ても魔法少女側に諦める者はいなかった。
シンデレイクの自動追跡型ライフルが攻撃を落とし、そこにできたほんの一瞬の隙を──
「うおぉぉぉぉ‼ 貰ったァァァァ‼」
ローゼバルは迷うことなく吶喊し、構えた長杖をブラックエネシアに突き刺した。
「喰らえぇ、オラァァ‼」
杖の先端が
それは数万発どころではない連続爆撃で穢れも知らぬブラックエネシアの表面を黒色に焦がしていく。
すると止めどない連撃にブラックエネシアは大鎌の羽からレーザー群をローゼバルに向けて全射し──反応した彼女を遠い位置へと退避させた。
追尾を止めないレーザーに当たりそうになるも、ローゼバルは空を見上げ笑みを浮かべる。
その刹那──
「……ふぅ、ありがとねコールー」
額の汗を拭い親指を立てると、久方ぶりに会った後輩『コールー』は180m以上もある重シールドに煙を纏わせながらも「お久しぶりです、ローゼバルさん」と笑みを見せた。
「……ろ、ローゼバルさん!」
慌てた様な声色が耳に入り振り勝ってみるとミスルトが驚愕とした表情を浮かべながら、此方の方へと飛んできていた。
「どうしたの?」
目の前に来たミスルトは何度か瞬きをし、視線を舌に向けながらも言葉を紡ぎ出そうとする。
「あ、あの……先程の様な直接的な攻撃はなるべく控えてください……」
「え? なんで?」
彼女の言葉に首を傾げるも、ミスルトは落ち着かない様子のまま話を続けていった。
「な、中にエネシアさんがいますし……」
「なぁに、このくらいじゃアイツは死なないのだろ」
「い、いや、他にも魔法少女が食べられちゃったかもしれないし……」
「……? 今のところ私以外誰も近づいてないし、口も無いのにどうやって食べるの?」
「で、ですから……」
──こんな時、本当の事を言えないのがもどかしい……!
今まで嘘など殆どついた事の無かった者にとって、この状況は非常に不利であり最悪極まりない状況。
すると何やら歪な音が響き、二人は視線を同じ方向へと定め──双眸が固まりだす。
今のこの場で起きている光景に魔法少女達は息を呑み、押し殺していた怖れが増幅されていく。
「え、何、あれ………………“剣”?」
ローゼバルの言葉通り、其処に出来上がろうとしていた物は正に剣。
再生した剛腕は突如変態を始め、その先端を黒き意志を持つ大剣へと変化させていたのだ。
その長さは既に二千を越えようとも留まる事を知らず、鉄というよりも骨で出来た
「ちょ、特大の反撃……⁉」
「アレは防ぐには……」
額に汗を垂らして心情を顔に乗せるローゼバルとは対的に、少しだけ眉を上げるのみの反応を示すシンデレイク。
神の怒りと形容すべきか、全てを一掃しようと天を仰いで創造されていく一撃に圧倒される中──ただ一人ミスルトは察していた。
エネシアは──今、全てを壊したい衝動の中にいる。
「真士君……」
彼女が私たちを斬ろうとしている。
「…………なんとしても、防ぎましょう」
ミスルトは震えようとする唇を噛み締め、タイテイと交わした約束を脳裏に再生させる。
その言葉にローゼバルたちは振り返り、深く頷いた。
無論、皆考えは同じ。
「方法が一つだけ浮かびました」
そこに華奢な腕を上げ、シンデレイクが提案を入れる。
「……光の反射などから見てもアレは骨でしょう? でしたら酸で溶かせられるのではないのですか?」
確かに骨は酸で溶けると聞く、炭酸飲料の飲み過ぎが良くない原因でもあるが……。
「天使の骨にそんなもん通用するの?」
「一応人を吸収していますし……いけるのではないでしょうか?」
冷静ながらも曖昧な回答にローゼバルは呆れ返り、纏まらない中──
「それでいきましょう!」
確証も無いままにミスルトは彼女の提案に賛成する。
時間も無く、それしか方法が無いと言うのであれば賭けるものはなんだって賭けよう。
「ちょ、ちょっと」
「では、これを」
ローゼバルの声を振り切り、シンデレイクは自分の武器であるロングレイジライフルを差し出した。
ミスルトはライフルを不思議な物を見るかのように一見すると、シンデレイクに視線を移す。
「速いですよね貴方。でしたらこれを持って剣先の頂上まで行って上から切り裂いてきてもらえませんか?」
唐突なる提案であり無茶苦茶な作戦、その
周囲にいた魔法少女達の眸はまるで求めるかのようにミスルトを見つめ、シンデレイクは絶対零度の眸で問いて来る。
「“でも”とか、“の方”がとか、“だったら”とかは聞いていません。あなたにしか出来ない事を話しているのです。
……ケジメを付けに来たのですよね?」
高圧的に話す氷の様な態度に心臓が大きく鼓動する、血液までもが凍りつくように感じる──されど。
「やります、私が行きます」
その長銃を手に取り、白く華奢な銃身を上下に再度観察する。
「酸と同等の能力にライフルを
……今すぐ上へ、時間が無いですよ」
「はい! ──シャイン、加速!」
「──了解、
威勢の良い掛け声と共にシャインは彼女を上空へと上げ、存在していた場所に突風だけを残していく。
昇る
──もっと、もっと、もっと、もっと速く!
責任重大、この一戦に掛ける。
シャインが調整して何とか宇宙でも行動出来ているが、急がなければ。
既に、剣の方へ振り替えると、その剣は既に
まるで神の聖剣、人に対する断罪の刃、これで地球ごと一刀両断する気だ。
すると──剣は斜めに傾きだし、忽然と裁きは始まった。
力の差に圧倒されながらもロングレンジライフルを起動し、出力最大のビームを照射する。
膨大な反動で逆方向へと向かいそうになるのを抑えながらも、
されど剣には一つの刃毀れすら起きず、その力のままに振り下ろされようとしていた。
地球が斬られる、二人が帰ってくる地上が無くなる。
だというのに出力は全く足りてなく、傷一つ与えられぬまま押され続けている。
このままでは……私なんかじゃ、やっぱり……──
……?
すると
妙だと感じて遠望モードで地球を確認すると、海上で広範囲にわたる防御フィールドを全員で展開しているのが見えた。
最強の防御力を持つコールーを中心に魔法少女たちで強固なフィールドを張り──ローゼバルやシンデレイク達も必死の抵抗を続けている。
しかし攻撃は通らず、剣を抑えるにはまだ不十分でフィールドも損壊寸前。
だがこの場にいる誰一人として──諦めようとはしていないのだ。
自分を治療してくれたあの少女ですらも。
決して、一人で戦っている訳では無い。
ミスルトはブラックエネシアの頭を貫いた事を思い出し、自分に宿る
最大出力の光線は徐々に青色の
タイテイのデバイスがやっていた
「シャイン……人を助けるために存在するのなら、その力で人類の敵を斬り裂いてみせろぉぉぉぉぉ!!」
「……あぁ! ──んなろぉォォォォォォォォッ‼」
無重力空間であるにも関わらず青の火花が散り、白の光が舞う。
ミスルトは自分が限界に達しようとしつつもその力を更に上昇させていく。
槍を支える両腕が引き千切られるように痛む、しかし逃げることは出来ない。
「骨で出来てんなら、粉砕骨折させてええぇぇぇぇぇぇぇぇッ‼」
魔動力燃料を限界まで投入し、光の槍は銀河をも突き刺して──無数の罅が剣を侵食し、崩壊していく。
酸の影響もあって徐々に溶けていき、その姿を保てなくなっていく剣が世界から消滅する。
その光景を見届けていた時には、ミスルトの体は既に地球へと降下していた。
借りていたロングレイジライフルは出力に耐えきれず損壊し、両手もおかしな方向へと折れてしまっている。
英雄が海へと叩きつけられる、その瞬間──ローゼバルとシンデレイクがふわりと受け止め、難を逃れた。
「よくやった!
「お見事」
双眸をゆっくりと開け、二人の声がまるで遠くにいるかのように聞こえてくる。
地球に帰還し、多少放心状態になりながらも彼女は全身に感じる痛みに震えながらも微笑を浮かべた。
「シンデレイクさん……武器壊しちゃってすみま──」
「──お、おい! ……嘘でしょ⁉」
ライフル損壊の件を謝罪する刹那──ローゼバルは驚愕としながら大声を上げた。
視ている方角へと視線を映していき、魔法少女たちは恐怖した。
「あ……あぁ……」
崩壊した剣が──また一から復元を開始していた。
「……二度目は流石にキツイですよ」
まさに絶望的状況、ほぼ全員が疲労状態であり先程の魔動力燃料制御でシャインもオーバーヒート状態。
最早もう一度受け止められる時間も余力も、もう既に残されていない。
二度目の斬撃を前にリリィ・ミスルトは顔に怒りを浮かべ、ブラックエネシア本体を鋭い眸で睨みつけた。
──タイテイ……エネシアさん……!
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