第七十五話 起死回生の兆し

「くっ!」




 幾つもの岩石が、弾丸のような速度で襲いかかる。


 地面に接しているのならば、必然的に下方向の警戒はしなくて済むが、あいにくと今は空中に浮いている。




 全方位からの集中砲火を警戒しなければならない。


 それだけならまだしも、互角以上の力を持つ報復者リタリエイターから目を離すわけにはいかない。




 絶体絶命のピンチだ。




(とにかく、目の前の敵だけに集中したい! そのためには――ッ!)




 一度捨てた例のスキル、報復者リタリエイターが持っていてくれたおかげで助かった。




「《交換リプレイス》――《暗視ナイト・ビジョン》を捧げ、我が手に《空気障壁エア・シールド》を!」




 《空気障壁エア・シールド》を入手し、即座に自身の周囲に大気の壁を形成。


 次々と突っ込んでくる岩を受け止める。




 だが、防いだところで状況は好転しない。


 常に周囲に障壁を展開しているということは、こちらからの攻撃もできないということ。


 それに加えて――




『また俺のスキルを……猪口才なぁ!!』




 岩と一緒に突っ込んで来た報復者リタリエイターが、至近距離で《紅炎極砲フレア・カノン》 の紅炎を放つ。


 SSクラスモンスターすら使用する、火炎魔法の中では最大威力を発揮するスキルだ。




 防御可能領域が狭い代わりに、防御力の高い《空気障壁エア・シールド》といえど、その一撃を喰らえばひとたまりもないというもの。




 バキン! と音を立てて、粉々に砕け散る。




「ちぃっ!」


『ほらほらどうした! 受けるので精一杯カか!? 反撃してこいよ!』




 咄嗟に飛び下がった僕を、報復者リタリエイターが追う。


 圧倒的優位に立ったことに、すっかり気をよくしたらしい。


 


 再度両手に光の剣を出現させ、岩石の突撃と共に迫り来る。




「……っ!」




 空気障壁を張り直しても、すぐに報復者リタリエイターに破られる上、防戦しかできない。


 飛んで来る全ての岩石と、相手の斬撃を強化した身体能力で躱しながら、ひたすら逃げる。


 


『気付いているか? 随分、顔色が悪いぞ!』


「なんの、話だ……!」


『やせ我慢のしすぎは、寿命を縮めるだけだぞ!?』


「うるさいっ!」




 一言、拒絶するように吐き出す。


 だが、彼の言うことは図星だった。




 指摘の通り、僕はかなりの無茶をしている。


 それは、言うまでもなくスキル反動臨界症だ。


 思えば、《モノキュリー》に到達してから、休む間もなく戦いを続けている。


 


 特に、ハイド・ウンディーネ戦で《衝撃拳フル・インパクト》―重炸裂フル・クラスターを所構わず撃ちまくったのが、相当身体にこたえているのだ。




 ウッズと戦っていたあたりから、既に倦怠感けんたいかんなどの異常は出始めていた。


 今まではバトル・ハイと生死を分かつギリギリの戦いをしていて、幾分か不調を無視することができていたが――流石に限界がきていた。


 


(それはともかく、こちらの状態がバレたのはマズイ。ますます相手を調子に乗らせてしまう!)




 ここにきて、一気に暗雲が立ちこめる。


 いや、暗雲を飛び越えて暴風雪がやってきたレベルの劣勢だ。




 目の前が眩みはじめ、息も荒くなる。


 攻撃をギリギリで躱し、致命傷だけは避けているが、擦り傷や切り傷、打撲は免れず、みるみる内にHPを削られていく。




『この俺の復讐に首を突っ込んだのが、そもそもの間違いだ! 潔く消え失せろ!!』


「おこと……わりだぁ!」




 振り下ろされた光の剣を、《火炎弾フレイム・バレット》の火炎で弾き飛ばす。


 間髪入れずに、反撃しようとする――が。




「――がはッ!」




 激しく咳き込み、どす黒い血が口から噴き出す。


 心臓の鼓動が不自然に弱まり、視界がぐにゃりと歪んだ。




 反撃しようとする以前に、《飛行フライト》のスキルを維持するだけで精一杯だ。




(まずい! 回復を……!)




 したいが、《回復ポーション》を取り出している時間など、くれるはずもない。


 もっと前に飲んでおけばと後悔したが、そもそも連戦に次ぐ連戦で、ポーションを飲む暇もなかった。




 ――チェック・メイト。


 その言葉が、色濃く脳内を支配する。




『哀れ……!』




 報復者リタリエイターは、一言無慈悲に言い捨てた。


 そして、もう片方の手に持った光の剣を振り下ろす――


 光の刃は、僕の身体を一刀両断に――しなかった。




 突如、紅炎を纏った影が間に割り込んでくる。


 その影――エナは、炎の双剣で、光の剣を受け止めた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る