第七十一話 チート同士

『《紅炎極砲フレア・カノン》ッ!』




 肉薄しながら、報復者リタリエイターは、《紅炎極砲フレア・カノン》を起動。


 超高温の火球が、高速で迫り来る。そして、その後ろからは報復者リタリエイターが。




「《冷却波クール・ウェーブ》―氷点下掌打ビロウゼロ・パーム!」




 すかさず、氷点下まで冷やした右手を、迫り来る火球に押しつける。


 ドンッ!


 冷気と熱気が真っ向から衝突し、周囲の空気が一気に冷やされ、視界が真っ白に煙った。




『バカが! 自分から視界を遮るなど!?』


「ああそうだね、でも……それはお前も同じこと!」




 視界を悪くしたのは、わざとだ。


 自分から悪手を選ぶような真似はしない。これは、お互いにリスクがあるのだ。




 僕は、後ろに仰け反るようにして倒れ込む。


 視界に、極彩色の空が映った瞬間、相手の影が飛び込んできた。


 敵の突っ込んでくるコースを予測し、勢い余って僕の上を通過するよう、位置関係を調整したのだ。




『なっ!?』




 僕の上を通り過ぎる影が、驚きの声を放つ。


 生まれた隙は、たかが一瞬。されど一瞬。


 左手を引き絞り、装備したガントレットに《火炎付与フレア・エンチャント》を起動した。




 メラメラと音を立てて、ガントレットが橙赤色とうせきしょくに燃えあがる。


 炎を纏った拳を、ガラ空きになった相手の腹部へたたき付けた。




「《火炎付与フレアエンチャント》―熱撃拳ヒート・ナックル!」




 灼熱の拳が、相手の腹部へ届く。


 が、やはりクリーンヒットとはいかなかったらしい。


 咄嗟に上方向へ逃げ、衝撃を緩和された。




「ちぃっ……!」


『ふふ、今のは少しヒヤっとしたぞ?』




 距離をとった報復者リタリエイターは、間髪入れずに呟いた。




『スキル《暗黒呪縛ダークネス・カース》』




 刹那、黒いもやを纏った触手がどこからともなく現れ、四肢を拘束される。


 とたん、目眩めまいと虚脱感に襲われた。




「こ、これは……ッ!」




 ただ相手を拘束するだけなら、通常スキルの《拘束バインド》で事足りる。


 しかしこれは、その上位互換の闇魔法。


 相手を拘束した上で、状態異常を付与する厄介極まりないものだ。




『くっくっく。ふりほどけまい!』


「悪趣味な奴だな、お前は……!」


『なんとでも言え。言っておくが、その拘束は絶対に解けない。拘束力も《拘束バインド》などとは桁違い。おまけに、お前の持っている《状態異常無効化の巻物》は、アイテムとして手に持っていなければ効果を発揮しない! ジ・エンドだ!』




 そう宣言して、報復者リタリエイターは勝ち誇ったような笑みを浮かべながら突っ込んでくる。




「なんて言えばいいのかな。まあ、この状況なら、勝ちを確信するのもわかるけど……」




 肉薄する相手を見すえながら、僕は淡々と、事務的に告げる。




「仮にも相手にするのは、お前と同じSランク冒険者だよ? もう少し警戒を――」


『関係ないさ! 既に、状態異常によってお前のステータスは半減している。天地がひっくり返っても、お前に勝ちの目はない!!』




 そう叫び、報復者リタリエイターは、両手に光の剣を携える。


 おそらく、光魔法スキル、《光裂剣シャイニング・サーベル》だ。




 光り輝く剣を、僕めがけて突き刺そうとし――




「《交換リプレイス》――《氷柱雨撃アイシクル・レイン》を捧げ、我が手に《暗黒呪縛ダークネス・カース》を!」




 次の瞬間、《暗黒呪縛ダークネス・カース》の黒い触手が一瞬にして霧散し、代わりに大量の氷柱つららが頭上から振ってきた。




『な、に!?』




 流石に予想外だったのか、報復者リタリエイターは後方へ引き下がる。




「勝ちを確信するのは勝手だけど……相手の切り札くらい、予習しておこうか」




 相手がチートクラスのバケモノだという事実は変わらない。


 けれど、それは僕も同じなのだ。




 それを思い知らせるべくして、僕は相手を睨みつけた。


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