大丈夫、俺がいる

「実は…プロポーズされて…。どうしようか迷ってて…」

「えぇ?!!」

和美の一言で、谷川家の食卓に衝撃がはしった。


「わぁ…。いいんじゃない?」

博之は軽く放心状態だったが、賛成した。

「まだ早いかなとも思ったんだけど…」

「まぁ、そう言われればそうだけど。ね、いいよね?」

孝司に同意を求めた。

「いいんじゃない?」

孝司は唐揚げを食べながら、興味なさそうに言った。

「アハハッ。ありがとう。ね、絵理は?どうかな?」

「……」

「…絵理…?」

「また私の家事が増える…」

絵理はこらえながら言った。

「あ…。そうだよね…。ごめん。私もまだ早すぎると思ってたし」

和美は慌てて言った。

部屋がシーンとなった

「…ごめん」

気まずすぎて、絵理は家を出ていった。


「絵理……!待って」

和美が追いかけようとした。

「あ、大丈夫!俺が行くよ。待ってて」

パブロが素早く動いた。

「俺も行くっ。和美は家で待ってて」

博之も出て行った。

パブロと博之は、出て行ったはいいが、絵理を見逃してしまった。

「俺、こっち見てくるから、パブロ、反対方向お願い!」

パブロの返事を聞く前に博之は走って行った。


「あっ、行っちゃった…」

(…俺、場所わかるのに…。まいっか…)

パブロは魔法で、絵理の位置を探索した。

よく知っている人なら、魔法で探す事ができる。



絵理は、ショッピングモールのベンチに座っていた。

「あっ!いたっ。絵理ー」

パブロは手を振って駆け寄る。

絵理は、パブロの顔を見て驚いた顔をした。

「疲れた〜」

パブロは、絵理の隣にドカッと座った。

「…ごめん」

「うん…」


「…お姉ちゃんに、ちゃんとおめでとうって言わなきゃね」

絵理は、少し笑って言った

「…そんなんだから息が詰まるんじやないの?」

「なにそれ…」

「全部吐き出せば?」

「……」

パブロは黙ってる絵理の顔を見た。

「俺に愚痴っていいよ」

「いやだ…」

「あははっ。別に言えばいいじゃん。俺が一番気まずくないでしょ」

「そうかなぁ…」

「別に、俺に好かれようとか思ってないなら、ドス黒いとこ見せても気にならないでしょ」

「そこまで、腹黒じゃねーわ」

絵理は少し笑った。

「俺、聞き流すの得意だしねー」

「流しちゃうんだ」

「うん。だからどうぞ」

「…うん…」


「あのね…」

絵理は話し始めた。

「2年前にお母さんとお父さんが事故で死んじゃって…」

「うん」

「孝司も小さいし、お兄ちゃんお姉ちゃんも忙しいし、家事頑張ってやってきて…」

「うん」

「でも…。本当は、遅くまで遊んだり、朝ゆっくり寝たり。他の友達がやってるようにしてみたかった…」

「うん」

「さっきお姉ちゃんが結婚するって聞いて…。また…我慢しなきゃいけないんだって…。苦しくなって…」

「うん」


「俺も親いないけど」

「そうなの?」

「うん。でも、な~んもやってこなかった。ま、じいちゃんいたからだけど」

「ふーん…」

「だから、絵理は偉いね」

「うん…」

「頑張ってるよ」

「うん…」

「すごいね…」

「うん」

「…全部、肯定するね…」

2人は笑った。


「とりあえず…帰ろ?」

パブロはスッとたちあがった。

「…うん…。気まずいけど…」

絵理も立ち上がった。

「大丈夫!俺がいる!」

「何それ」

絵理は笑った。

パブロは絵理の背中を押して走り出した。

「こうやってやれば帰れる!」

「気持ちの問題じゃなくて?って、ちょっとあぶないー」

少しはしゃぎながら帰った。



2人は家に着いた。

「ほら、絵理。家、入ろう?」

パブロは、また軽く絵理の、背中を押す。

家に入ると、和美が気がついて、絵理を抱きしめた。

「ごめんね。ごめんね」

謝る和美を見て、絵理は涙が出た。

「…私もごめん」

「いつも絵理に甘えすぎてたね…」

和美は絵理の頭を撫でた。

「…。お父さんお母さんいないから、しょうがないけど…」

絵理と和美は黙ってしまった。

「でもね、お姉ちゃんには幸せになってほしい…」

絵理は和美の目を見て言った。

「ありがとう…。私も絵理に幸せになって欲しいって思ってるよ」

「うん…。…お姉ちゃん…」

「ん?」

「ごめんなさい…」

絵理はもっと泣いた。

「何で?もうっ、謝るのは私のほうだよ?」

「ちゃんと…、お祝いできなくて…」

「私の方がごめん。自分の事ばっかりで、恥ずかしい…」

絵理は首を振る。

「絵理、彼と話したらね…。結婚するのはまだ先だって考えてたみたいで…。私の早とちり…。ごめんなさい」

「そっか…」

絵理はホッとした顔をした。


一件落着といった雰囲気の中、玄関からドタドタと足音がした。

「わっ!!絵理!!帰って来てたのー?良かったぁ!」

汗だくの博之が、遅れて登場した。

和美と絵理とパブロは爆笑した。

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