第45話 森林竜のツノ

やっぱり、森林竜シルワドラコの角は回復魔法効かないのか……

じゃあもうずっと折れたままなのかな……


「可哀想になー、角片方じゃバランス悪いよなー」


未だに角でぐいぐい押してくるので、それを止めつつ頭を撫でてあげる。


「いやいや、時間経てばまた伸びるから。角」

「え、そうなの?」

「なんか森林竜シルワドラコはその辺りに魔力が溜まりやすいみたいなんだよね。だから森林竜シルワドラコのその辺に生える毛は、体毛を軸にして魔力を纏って硬い角みたいに伸びてくるんだって。だから魔力が溜まれば自然と元に戻るよ」

「へぇ、魔力と毛の塊なんだ……」


折れた角の辺りを触っていると、もっと撫でろと言わんばかりに頭をぐいぐい押し付けてくる。


「なに?もっと撫でろって?」


またひっくり返されそうな勢いで押してくるので全力で堪えていたら、今度は後ろからシルワがやってきて挟まれる。

俺はサンドイッチの具じゃなーい!


「もう、シルワまで……」


俺がシルワを押し返していると、折れた角の森林竜シルワドラコも一緒になってシルワを押している。

何この状況?

その様子を見ていたヘンリー先生が、あぁ!、と手を打った。


「なるほど、多分その角が折れた森林竜シルワドラコも名前で呼んで欲しいんだよ。で、今は名前付けてもらったその森林竜シルワドラコに嫉妬して、あっち行けーってやってるんじゃないかな?」

「え、名前?そんな事言われても……じゃあこっちがシルワだから、お前はドラコでいいか?」

「ハヤテ、適当すぎるでしょー」


ロバートは笑ってるけど、ドラコは気に入ったみたいでぐいぐい押すのをやめて、周りをぐるぐる歩き始めた。

かわいい……!

けど、名前付けてもここでサヨナラなんだけど……


「こいつら、連れて歩く訳にも行かないよな?」

「うーん、元々森林竜シルワドラコは滅多に人前に現れないから珍しがられて目立つってのもあるけど、悪い奴らに目をつけられたら厄介かな……」


ヘンリー先生は難しい顔をする。


「悪い奴らに目をつけられる……?」

森林竜シルワドラコのその角、魔力の塊だって言ったろ?それ目当てで昔一斉討伐されたことがあってさ、今森林竜シルワドラコの個体数がすごく減ってるんだよ。多分、この森にしか今は棲んでないんじゃなかった?」


なぁ?とケイレブがヘンリー先生を振り返る。


「そう、だから国から森林竜シルワドラコの討伐が今は禁止されてる。もちろん、殺さなくても角は取れるけど、何気に足が早いから結局捕まえるために殺して、角を持っていく奴らがいるんだ。規制がかかったから前以上に高値で取引されるしね」

「え?!」


俺はふとポケットに手を入れる。


「……じゃあコレ……どうしよう……?」

「なにそれ」


ロバートが手元を覗き込んでくる。


「あ、ドラコの角?せっかくだし貰っておけば?」

「持ってても捕まらない?」

「違法に手を出したわけじゃないから大丈夫だよ。だから売ることもできるけど、手続きとかめんどくさい事になると思うから、自分で持ってた方がいいと思うけどね」

「ならそうする。これって一目見て森林竜シルワドラコの角ってわかるものなのか?」


もしそうなら隠して持ち歩かないと盗まれたりしそうだよな。

そう思って確認してみれば、詳しく鑑定しないと他の魔物の角と区別がつかないそうだ。

なら、後で穴でも開けて紐通して首から下げとこう。

ドラコの角を再度ポケットにしまっているとケイレブから声がかかった。


「よし、ならそろそろ出発するぞ!早くしないと今日中に休息所に着けなくなるからな」

「じゃあシルワ、ドラコまたな!帰りにまたここ通るし、戻ってきたら詰所にも遊びに来いよ」


言葉が通じたかわからないが、二匹はぐるぐる歩くのをやめ、大人しくこっちを見送っている。

二匹に別れを告げ、俺たちは馬を繋いでいた倒木のあった場所へ戻った。

馬たちはのんびりとその辺の草を食べたり休んだりして各々くつろいでいたようだ。

道を塞いでいた倒木は綺麗になくなり、きちんと整理されて道の端に置いてあった。


「こうしとけば他の人に邪魔にならないでしょ?」

「おお、切るだけじゃなくて綺麗に片付けたんだなー。俺だったらもしかしたら切ったら通る分だけ隙間開けてほったらかしてたかも……」

「ハヤテたまに凄い雑だよね」

「おおらかと言って」


みんな馬に乗り、俺もロバートの馬の後ろの蓮もどきネルムボの手綱を握り、そして再度森を後にした。

しばらく走ると森を抜け、生えている木もまばらになり崖と崖に挟まれた谷間のような街道へ出る。


「ここを抜ければ王都の端だよ。ってもまだ人が住むような場所には出ないけどな」


そうケイレブから聞いたのはまだ陽が高い頃だった気がするのに、辺りはもう薄暗くなり始めていた。

チラッとヘンリー先生を見てみれば、疲れが前面に顔に出ている。


「ヘンリーせんせー、頑張ってー」


横からロバートが声援を送り、いよいよ先生は倒れるんじゃないかと思ったところで谷間を抜けた。

確かにケイレブの言う通り王都とはいえ、まだまだ山の中のようだ。


「ヘンリー、もう少しだけ頑張れ!もうすぐ休息所だぞー」


前を走るケイレブも振り返り、先生を気にしつつ声をかける。


「……」


声にならない声で返事をし……たのかは聞こえなかったけど、軽く手を挙げたのでまだどうにか頑張れそうだ。


「ほら見えた!あそこまで頑張れ!」


ケイレブの指さした先には小さな山小屋のようなものが見えた。

へろへろになりながらどうにか辿り着いた小屋の中に入った瞬間、ヘンリー先生はソファに倒れ込んだ。


「つ……疲れた……」


ヘンリー先生はカバンをゴソゴソ漁ると手に取ったスタミナ回復薬を一気飲みする。


「いやー、途中に飲むか飲まないか迷っててねぇ。回復薬のアメ、持ってくればよかったよ」

「あ、なら明日用に俺少し作りますよ。たくさんは無理だけど」

「ありがとう……」


お礼を言ったヘンリー先生はそのまま寝てしまったらしい。


「ロバート、俺先生用に回復薬のアメ作っとくよ」

「了解、そしたら荷物と馬たちしまってくるね」

「よろしく!」


俺はヘンリー先生のカバンから回復薬を出すと、両手に握って集中し始めた。

その時。


「うわぁ!」


外からロバートとケイレブの驚きの声が聞こえる。


「どうした?!」


俺は回復薬を一旦机の上に置き、外へ飛び出して行った。

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