俺の異世界生活は最初からどこか間違っている。
六海 真白
第一部 異世界生活の始まり
第0話 プロローグ
「やあ
真っ白なその空間で、ふいに自分の死を告げられた。
部屋の中には机と椅子があり、馴れ馴れしく死を告げた相手は椅子の側に立っている。
机を挟んだ向かい側にいる美少年。金色の髪にふわふわと白く輝く羽。もし、世界に天使というものが存在するのならば、きっとこの少年がそうなのだろう。
突然の事で理解が追い付かない。背丈は小学生の低学年から中学年ぐらいの低身長。身体のサイズとは釣り合わない程大きな羽を携えたその美少年は、穏やかな笑みをぶら下げて俺を観察するようにじっと見つめている。
「……」
――― え? 俺死んだの? なんで?
記憶を辿ろうと頭を回転させてみる。が、父や母の顔、高校に通っていたこと、生前の記憶はある程度思い出せるのに、死因は何故か思い出せない。ぽっかり穴が空いたように。
「ってことで今から異世界に行ってもらうね」
男の子がそう言いながら右手を上に挙げると、足元に魔法陣がぼうっと浮かび上がってきた。
――― ん?
「まてまてまてまて!」
「……」
「待ってください! お願いしますっ!」
「……」
「説明とか! 説明とかないんですか!?」
「え、必要なの?」
いや、驚きたいのは俺の方なんですけど。普通の高校生だったやつが前知識無しで異世界を生き抜けるなんて思わないんですけど。ってか、すでに魔法陣みたいなやつが俺の下半身飲み込んでるんですけど。
「必要! 必要っ!」
「…… あははは、冗談冗談。ボクはちゃんと説明するつもりだったさ」
なに笑ってんの? え、なにこの子。
「嘘ですよね」
「嘘じゃないさ」
男の子は挙げていた右手を下げ、ひらひらと手を振った。
「…… さて、気を取り直して。ボクの名前はサリエル。魂の管理をしている天使で、カケルのように若くして死んでしまった魂に選択肢をあげてるんだ。カケルが行く世界ではスキルを使えたり魔法を覚えたりすることができて、…… カケルに分かりやすく言えばゲームの世界みたいなものかな。その世界で」
「ちょっと待て」
「ん?」
「今、選択肢がどうたら、って言ったよな?」
「……」
「おい」
「…… まあ聞いてよ。ちゃんと選択肢のことも説明してあげるからさ」
一応初対面だからと使っていた敬語だったが、いつの間にかタメ口になっていた。
ニコニコを絶やさず続けたサリエルの話は、要約するとこうだ。
俺が行く予定の異世界は魔法あり剣術ありのファンタジー世界。その世界に行って最終的には魔王を倒してほしいらしく、魔王を倒したら特典として望みをなんでも一つ叶えてくれるという。
異世界に行く以外の選択肢は二つあって、一つは魂を浄化して生まれ変わりをすること。ただ、魂を浄化するから生前の記憶は消去されるし、どこの国でどんな家族の元に生まれるかはランダムらしい。二つ目はこれまでの人生で最も幸福だった時間を天国で過ごすというものだった。
「天国がいい」
そりゃそうだろ。短い人生だったけれど幸福を感じる時間が全く無かったというわけではない。親から愛されていたって自覚もあるし、友達も多くはないがそれなりにいた。幸福な時間と聞いて今すぐに思い浮かぶのはアニメをだらだら見ている時や新作ゲームを買って帰っているシーンぐらいなのだが。とりあえず苦痛のない幸せな時間が過ごせるならばそれに越したことはないはずだ。
「いやあ、期待させちゃって悪いけど、天国はカケルが想像してるような良いところじゃないんだよね」
「……?」
「言ったでしょ? 人生で一番幸せだった時間だって。新作のゲームをやったり、新作のアニメを見たり、新しい娯楽を楽しむことはできないんだよ。もちろん女の子とえっちなことをすることもできない。天国で繰り返されるのはすでにカケルが体験した事象だけなんだ」
「…… それ、天国じゃなくて地獄じゃん」
「ね? だから異世界に行くって選択肢しかないと思うんだけど?」
なんだろう、なんだかとてつもなく胡散臭い。でも、こいつの言ってる通り選択肢は一つしかない気もする。
話を聞く限りでは異世界ってあれだ。よくある設定のやつだ。ってことは俺、チート能力使っちゃったりできるんじゃない? 美少女と出会ってハーレム作れたりしちゃうんじゃない? 現代知識と魔法組み合わせて大魔導士とか呼ばれちゃったり……。
いや、ちょっと落ち着こう。天国って所は思ってたのと違うみたいだし、異世界に行くのはいい。むしろ異世界行きたくなってきた。もう俺の死因なんてどうでもいい。
けれど、その前に、
「サリエル、さん?」
「サリエルでいいよ」
「じゃあサリエル。異世界の言葉とか文字とかってどうなってんの? 俺ちゃんと話せたりすんの?」
大切なことだ。チート能力もらって異世界に行ったとしても言葉が通じず文字も読めないとなれば不都合が過ぎる。
「それは大丈夫。魂の情報を書き換えておいたから言語機能に問題はないよ。というより、そんなサポートもしないような悪魔に見える? 天使だよ? ボク」
「…… あ、いや」
すみません。めっちゃ見えてました。だってあなた現在進行形で俺の身体真っ二つにしてる張本人だからね?
「他に質問ある?」
「いや、質問は特にないな」
さて、異世界の事は知ったし、そろそろ能力を授かる頃合いか。どんな能力にしよう。絶対切断とかかっこいいよな。でも、剣術極めて『○○流!』とかってのもかっこいい。あーでもでも、ド派手な魔法とかやっぱ憧れるよな。それに瞬間移動とかできたら便利そう。時間とか空間に関する能力もありだよな。悩むぜ、これは。
どんな能力をもらおうかとウキウキで考えていると、大きな声が飛び込んできた。
「サリー! ごはんの時間よー!!」
「……」
「…… え? サリー?」
目の前の男の子は相変わらず笑顔を絶やさない。
「サリー!! はやくしないと冷めちゃうでしょ!!」
「分かったよママ!! 今行くから! …… じゃあね、カケル。ちょっと説明不足だったかもしれないけど、異世界生活楽しんで」
そう言いながらサリエルは右手を上に挙げ始める。
「いや、まてまて! チート能力は!? 魔法の使い方は!? それよりママってなに!?」
「チート能力? カケルくんさあ、そんなものあるわけないじゃん。…… あれ? もしかしてギフトもらえると思ったの? あげられるわけないじゃん。だってボク、神じゃないし、天使だし」
「ちょっ、待―――」
サリエルが右手を真上に挙げ終わると同時に、俺は魔法陣に飲み込まれた。
****************
サリエルはふぅ、と小さく息を吐いて挙げていた右手を前に出す。すると、真っ白な空間に大きな穴が開き、薄桃色の髪をした天使がひょっこりと顔を出した。
「やあアリエル」
サリエルは侵入者に微笑んだ。アリエルと呼ばれた天使はバツが悪そうな顔をして、言った。
「バレちゃってた」
「此処はボクの空間だからね。異物には気付くさ」
サリエルの物言いに、アリエルは不機嫌そうな表情を浮かべる。
「異物って、サリエルひどいよー」
「そうかな?」
アリエルの眉間のしわがさらに深くなった。
「同じ天使なのに……」
「ボクは他の天使の所に無断で行くことは無いよ。…… さて、と」
真っ白な空間に扉が現れ、サリエルは扉へ向かう。
「えっ!? もう行っちゃうの!?」
「ママに呼ばれてるからね。遅れると色々面倒なんだよ」
「ちょ、ちょっと待ってよ! 一体何をするつもりなの? 私が見てた理由知りたくないの?」
「…… 別に何も? ただの暇つぶしさ。それに、君が見てた理由はもう知ってる」
そう言って部屋の外に出たサリエルの双眸は、赤く煌めいていた。
**************
「―― て! サリ…… エル」
憎たらしい表情が消え、彼を止めようと伸ばした右手が空をきる。異世界とやらにきたらしい。
けれど、そこは爽やかな風が吹き抜ける平原ではなく。雑多な音が飛び交う街中でもなく。ただただ瓦礫の山が点在する廃墟のような場所だった。
俺はそんな
「…… 次あったらぶん殴ってやる」
バケツをひっくり返したような大雨に全身を打たれていた。
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近況ノートに主人公たちのイラストあります
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