第25話 囮
「姉様!姉様!」
ん、この声はシータ?
「リゼ姉様ー!もう大丈夫だよー」
肩を5回叩かれた。ああ、合図だ!
私はゆっくり目を開けた。
「もう終わったよ。囮、ありがとう。楽しかったー!」
いやいやいや、楽しかったって、、、。
「エリーゼ嬢、良くやった。ここは魔塔の中、誰も近づけぬ。捕まえた奴らは投獄済じゃ。ルイス坊はヘミングウェイのところへ行った。じきに戻る。心配はいらぬ」
筆頭魔術師ルータが穏やかな口調で言う。
「わたくしもブランド領に行きたかったのですが、今回も断われました」
王宮筆頭魔術師ルータの横でマーゴット様が不服そうにしている。
私たちは午前中に打ち合わせした時に、今迄の襲撃が必ずマーゴット様と一緒にいる時だった事を考慮して、ルイス様が事前にマーゴット様に協力を頼んでいたのだった。
見たことのない侍女が緑茶を運んで来た事に怪しいと確信を得たマーゴット様は私にウィンクをした。
そして私は緑茶を飲むフリをして倒れ込んだ。
恐らく、刺客たちは、マーゴット様が私を介抱しようとしたところを狙う予定だったのだろう。
一斉に30人ほどの刺客が飛びかかって来たと言う。
しかし残念ながら作戦は失敗している。
準備万端のマーゴット様にしてみれば大したことないことだった。
私には倒れ込んだ時点で演技がバレないようにと、王宮筆頭魔術師ルータが眠りの魔術を掛けたので、目が覚めるまでの事は今初めて聞いた。
「30人って、そんなに入り込まれて王宮的に大問題なのでは、、?」
「姉様、予想通りあの魔法陣から大人数で移動してきたよ」
何とも恐ろしい話!!私はそんな危険な魔法陣の横で寝てたんですよ、今朝。
ガクガクブルブルしている横で話は続く。
「それで何故ランドル王国に来て、すぐに助けを求めなかった?」
王宮筆頭魔術師ルータが、マーゴット様に聞く。
「わたくしもランドル王国が味方か敵かを見極めていたのです。ベルファント王国の王族は魔術は一切使えないので駆け引きも難しいのです」
「そうか、そちらの王族が魔術を全く使えないとは知らなかった。それは他言無用の話じゃろう。姫、何故話した」
「ルイス殿下は魔術が使える事を隠していらっしゃらなかったので、私も真実を述べただけです」
マーゴット様に騎士道精神みたいなものを感じる。
「さて、どうするかの?ルイス坊を待ってからの方が良いと思うが、シータ、ヘミングウェイ達の状況はどうじゃ?」
シータが壁に手を当てる。
バードアイのような、空から地上を眺めている映像が、壁に映し出された。
遠くから、どんどん目的地に近づいて行く。
ああ、人が見えてきた!
石畳の広場のようなところに、人が沢山いる。
もっと近づくと捕縛された人々の周りを騎士達が囲んでいるのが見えた。
「予定通り進んでいるようじゃの」
王宮筆頭魔術師ルータが私達に向かって言う。
シータは頷いてから、壁の画像を消した。
私はルイス様に心の中で語りかけてみた。
「ルイス様?リゼです」
すぐに返事が来る。
「リゼ!?大丈夫か?ケガは無いか」
「はい、大丈夫です。今、魔塔です。そちらはどうですか」
「ああ、こちらは大体捕まえた。あとはヘミングウェイの兄の辺境伯の行方が分からない」
「辺境伯はそこには居ないよ。今はベルファント王国の正教会に居る」
横からシータが割り込む。
シータ、、急に入って来たら、怖いって!!
「分かった、ではここで指示を出したら、オレはリゼの元に戻る。リゼはルータの指示に従ってくれ」
あ、ルイス様、全く割り込まれた事を気にしてない、、。
ツワモノ。
「はい、分かりました」
私の返事で会話は終わった。
分かってる風な返事をしちゃったけど、何でブランド領に行っちゃったのかしら?目覚めたばかりで、事態を把握していない私はみんなに聞くことにした。
「で、何がどうしてルイス様はブランド領に?」
「それはブランド領は我が国の国境と面していて、そこから両国の王族を狙う刺客が出入りしていると分かったからです。我が国の要人が居るかどうかは、リチャードが行っているので分かるはずです」
マーゴット様が答えた。
「両国の王族?この国では私ばかり狙われてますけど、正式な王族というと微妙な立ち位置の様な、、、」
「エリーゼ嬢、我が国では四大公爵家も王族なのじゃよ」
あー、竜神王ドゥー!!
「そうですね。先日ルイス様からお聞きしたのに忘れていました」
お恥ずかしい。
「そう言えば、ベルファント王国ではどなたか襲撃に遭われたのですか?」
私はマーゴット様に尋ねた。
「、、、我が国は、、、兄が」
兄?、、兄ってマーゴット様はお兄様が他にも居るの?
「マーゴット様はお兄様が何人いらっしゃるのですか?」
「、、、1人です。すみません、クッキーの件はそれを隠すための嘘です」
うぉー!!王太子殿下が襲撃に?
「ロイ王太子殿下はご無事なのですか?クッキーは、、、いやクッキーなんてどうでもいい、、」
尋ね始めたものの、何だか聞いてはいけないのかもしれないと思うとしどろもどろになってしまった。
「実は襲撃に遭ったのは兄とその婚約者なのです。2人は刺客との戦いになりました。その際、兄を狙う別の暗殺者の影に気付いた婚約者が兄の盾になり絶命しました。そして、彼女がが絶命すると同時に兄も昏睡の状態なってしまったのです」
私はあまりにショッキングな話に言葉も出なかった。
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