第182庫 紅桜組

「さあ、着いたぞ」


 風花さんが立ち止まる。

 連れて来られた場所は『紅桜組』と看板が立った大きな屋敷だった。

 ここに行き着くまでの道中、風花さんに簡単に説明をされたが、陽の国サンサンの治安を守る団体だそうだ。

 もとの世界でいう、警察のような組織だろう。


 赤い門を通り抜ける。

 中庭では木刀を振る隊員たちが何十人もいた。

 皆、和を基調とした服装――鎧や和服が好きなゴザルが見たら、飛び跳ねて喜びそうな光景である。


「局長をお呼びして来る。しばしの間待っていてくれ」


 僕とライカは屋敷の出入り口で待機する。

 内部も木造りで趣があり、どこかのお寺に観光に来ているかのような気分になる。

 隣にいるライカがきょろきょろと中を見回しながら、


「ライカの住んでいた家に似てる」

「そういえば、山に近いところに住んでいたんだっけ」

「山に近いというより、山だったよ」


 一体、どこの地方にいたのだろう。

 ライカが壁の近くに歩み寄り、すんすんと可愛らしく鼻を鳴らす。僕もライカの真似をして、壁に鼻を近付けてみる。


「あぅぅ。木の匂い、落ち着くぅ」

「本当だ。なんだか、ほっこりした気分になるね」

「ライカ、この上にお布団敷いて寝たいなぁ」

「妙案だね」

「……お主たち、なにをしているのだ?」


 気が付くと、風花さんが呆れた顔で僕たちを見ていた。

 その隣には、威厳に満ちた局長らしき大柄な人物が――出会い頭から、なんともお恥ずかしい姿を晒してしまった。

 局長は手を叩いて豪快に笑い、


「がっはっはっ! 気にする必要など微塵もない。ワシにもわかるぞ、木の匂いは――心に響くよのぉっ!」

「……はぁ? 局長、そういうものなのですか?」

「風花、主は普段から慣れておるからだ。ワシは鼻がよいからのう、この芯に響く心地よさは重々理解できる」


 局長が勢いよく息を吸い込む。

 この空間、全ての酸素を取り込むかのごとく肺活量、局長という人物は見た目からして規格外だった。

 全身黄褐色の毛、尖った牙、完全に――ライオンである。


「ライカと同じ、ミミモケ族だぁ」

「小娘、ミミモケ族とは異国の地で呼ばれる総称のことか?」

「……うん。ここは、違うの?」

「この国では『獣人』という。特に種族間で揉めることもなく、人と獣人は仲良く過ごしておるぞ」


 局長はライカの態度からなにかを見透かしたのか、


「主らの国では、ミミモケ族――扱いが違うのか? 小娘、主の目を見ていると深淵のごとき闇のようなものを感じるぞ」

「……ライカは、売られたことがある」

「そうか、急な質問をしてすまなかった。今ここでする話でもない、まずは客間まで案内するかのう」


 付いて来いと促すよう、局長が背を向ける。


「風花、客人に茶と菓子を頼む」

「御意」


 種族間で平和な国、僕は色々と話を聞いてみたいと思った。

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