第162庫 フレイムドルフという男
要塞内、息を潜めながら移動を開始する。
食堂以外も探索したのだが、誰かと出会う様子は全くない。残すところは、要塞の最奥のみとなっていた。
フレイムドルフを見つけるどころか、兵に出くわす様子もない。プリティー猫さんチームが突入した先、南側の要塞が当たりだったのか?
それにしても、これは――不穏な空気に胸騒ぎを感じる。
今までいたであろうものが、故意にいなくなったような感覚――作られた異常とでも言うべきか。
ゴザルが"神眼"で周囲を見渡しながら、
「人の気配が全くしないわね」
「この最奥を確認してから、一度外に出てニャニャンに連絡しよう」
「そうね。いやな感じがするわ」
最奥に足を踏み入れた時だった。
ゴザルが瞬時に抜刀――その表情はいつになく険しく、ひと目で強敵がいることを認知させた。
ゴザルは臨戦態勢に入りながら、
「ソラ、ナコちゃん、警戒を怠らないで」
――「ほう、やっと来てくれたか」
最奥、フロアの中央に一人の男が立っていた。
野心を具現化したかのような紅蓮の髪色、それに相まった重厚な赤き鎧、腰には2本の長剣が携えられていた。
男は僕たちを歓迎するよう両手を広げながら、
「どこを寄り道していた? あまりに遅いから昼寝でもしようかと考えていたぞ」
驚くことに――フレイムドルフ本人だった。
兵を従えているわけでもなく、ただ一人そこに立っていた。僕たちが来ることを理解していたかのような振る舞いであった。
次の一言により、それは確信に変わる。
「なぁ、プレイヤー共よ」
ざわりと、身の毛がよだつ。
どう反応すればいいものか――瞬時に言葉がでてこない。
僕たちの表情からフレイムドルフは察したのだろう。
「あぁ、隠す必要はないぞ。我は全てを知っている――いや、知り得たといった方が正しいのか」
フレイムドルフは淡々と言う。
「クーラ、ゴザル、ナコ、お前たちが来ることも――わかっていた」
文字通りの意味、こいつは――僕たちの存在を認識している。
唐突な出来事に、ナコもゴザルも呆然と立ち尽くす。
完全にフレイムドルフの空気に呑み込まれていた。
「一体、どこで僕たちの情報を得たんだ?」
「簡単なこと、お前たちの仲間にニャニャンという猫がいるだろう」
「なにが言いたい?」
「くっくっく、はっはっはっ! 焦る気持ちを隠せぬその表情中々に味がある。端的に言ってやろう、お前たちは――そいつに誘導されただけだ」
「ありえない」
「嘘なものか」
フレイムドルフの態度からは微塵も偽りを感じなかった。
ゲーム時もこいつは常に自身のやりたいことをやり通す――嘘を言うような人間ではなかったのだ。
「北側海藻チーム、わけのわからないネームだ。これだけ言ってもまだお前は現実から目を背けるつもりか」
核心を突く一言。
仲間を信じたい、信じるべきなのだという心を――粉々に砕いてくる。
明らかにゴザルが動揺している様子が見て取れた。ナコも真っ青な顔でフレイムドルフの言葉を聞いている。
ゴザルが震えながら僕の手を握り、
「……そ、ソラ」
「まだ確定したわけじゃない。本人に確認を取るまでは――保留にしよう」
「で、でも、ニャンが、ニャンが」
「ゴザル、落ち着くんだ」
僕はゴザルの手を強く握り返す。
「お前たちは我を殺したいのだろう? 我がこの世界にとって邪魔なのだろう? 我もプレイヤーとはどれほどの強さなのか興味があってな。双方にとって利しかない状況、文句はなに一つないであろう」
まさに、戦闘狂の王。
人間の皮を被った野獣が不気味に笑いながら、
「ゴザルと言ったか。感じるぞ、強者のオーラを全身にな。お前ならば――相手にとって不足はない」
「……っ」
ゴザルが刀を構える。
その顔付きからは狼狽えている様子が見て取れる。今、この精神状態で――ゴザルを戦わせるわけにはいかない。
僕はゴザルの前に立ち、フレイムドルフと対峙する。
「勝手に話を進めるな」
「ほう」
「君の相手はこの僕だ」
「そうかそうか。前哨戦もまた一興――お前の強さを見せてみろ」
開戦する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます