第142庫 ドラゴンステーキ
「「乾杯っ!」」
ドラゴンステーキが到着、グラスを合わせる。
テーブルに並べられたドラゴンステーキはそれはもう――圧巻の一言に尽きた。
ほとばしる肉汁、これでもかというワイルドな匂い、空腹も相まって僕とナコは一瞬にしてドラゴンステーキに魅入られた。
「こちらグラン海のフュードラゴン、特に仕入れが困難な頬肉となっております。柔らかな食感で大人気の部位でして一口食べたらやみつき、今日からお客様もドラゴンステーキの虜です」
店員さんの説明がさらに食欲を増長させる。
ゆっくりと、大きく分厚いステーキをナイフでカット――フォークで一刺し、口の中に運び込む。
単刀直入に美味い! ただただ、美味すぎるっ! これがドラゴン、ファンタジーで夢見たドラゴンのお肉っ!!
僕は感動のあまり立ち上がり力強く拍手する。
「見た目の重厚さに反してソフトな食感っ! 噛めば噛むほど味の深さと旨味が脳内に響き渡っていくっ! また赤身と脂身の比率が絶妙でどれだけ食べても胃に重たさを感じることがないっ! 正直、肉質は固めかと思っていた想像を真正面からぶっ壊しに来てるんだよねっ! ここで追撃、アクアベージュの喉越しがまた食欲を加速させる! 全てがマッチしたパーフェクトな世界観っ! 自然と拍手もでるよ、喝采だよっ!!」
「……クーラ?」
「落ち着くんだ、ナコ」
「私がですかっ?!」
「ナコ的に味の方はどう?」
「ほっぺたが落ちちゃいそうですっ!」
「それはよかった」
「表現が難しいですが、他のお肉とは全然違った味わいですよね」
確かに、新種の味といっても過言ではない。
食べる手がとまらず、僕たちはあっという間にたいらげてしまう。言葉を忘れるほどの満足感、余韻に浸りながら空になったお皿を眺めていた。
なんだか、まだお腹に余裕がある。
僕とナコは追加オーダーにて、デザートを注文する。お肉を食べた後って無性に甘いものが食べたくなるよね。
僕はアイスクリーム、ナコはパフェを頬張りながら、
「フュードラゴンとのことですが、ドラゴンって種類があるんですか?」
「そうだね。最強種に属するドラゴンとはいっても様々で、このフュードラゴンは比較的討伐しやすい部類に入るかな」
僕はドラゴンについて説明する。
「ドラゴンは分類して小・中・大・古とあるんだ。フュードラゴンは小龍、僕たちが王都に来るまでに乗ってきた大陸龍は大龍に該当するかな。この中でも特にレアなドラゴンのことを古代龍、知能が高いドラゴンのことを意味してね。古代龍クラスになると普通に言葉を話したりするよ」
そして、古代龍は尋常なまでに強い。
ゲーム時はネームド、ボス戦、色々なところに出現したが――どれも一筋縄ではいかないドラゴンばかりだった。一撃でも喰らえば瀕死、スキルによっては即死、リアルとなった今は恐ろしくて戦いたいとは思えない。
うわぁ、ゲームオーバーになっちゃった! 勝てるように頑張ろうねっ! なんてことは不可能だからである。
敗北した後、僕たちに次はないのだ。
「喋るドラゴン――古代龍、一度会ってお話してみたいです」
「あはは。中々遭遇することもレアだけどね」
お話してみたい、か。
ナコなら使い魔にしちゃいそう――末恐ろしい子である。
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