第140庫 二桁ぁっ?!

 セイントラール王宮内。

 正確には王宮の名残、といった名前の方が正しいだろう。王都は決まった国王がいるというわけではなく、王宮は施設の一環として機能しているからだ。三国含めた冒険所の会議場、王立図書館、その他にも様々な設備が整っている。だからこそ、こうして大衆に開放されているのだ。

 その入り口には、大きな肖像画が飾られていた。


「クーラ、あの絵はなんですか?」

「王都に国王がいた時代、最後の国王の絵だったはずだよ」


 国王と王妃、仲睦まじい姿である。

 王妃が病気がちで身体が弱く、子供を作ることが叶わず――そのまま、王政を廃止したという設定があった。

 僕はそういった裏話を付け加えつつ、ナコと一緒に王宮内を散策する。


「そんな話があったのですね」

「愛する人との間に子供ができなかった。切ない気持ちになる設定だよね」

「……愛する人との、子供」


 ナコが数秒沈黙した後、僕の方をじっと見つめながら、


「クーラは何人子供が欲しいとかありますか?」

「子供かぁ。今はあまり考えたことなかったけど、男の子と女の子がいたら楽しいのかなって思うよ」

「私は10人いたら賑やかで嬉しいです」

「二桁ぁっ?!」


 か、枯れちゃう。

 そもそも、子供が欲しいという根本的な意味は理解しているのだろうか。さすがにナコも何気なく質問してきただけで、そこまで深く捉えた言葉ではないか。


「多すぎましたか?」

「多すぎるというかなんというか、僕が決めることじゃないよね」

「いえ。クーラが決めてください」


 えぇっ!

 なんだ、この責任感のある決断は――以前、ナコがプロポーズで責任がどうとか言っていたが、延長戦に入っているのか?

 子供心に思い描く未来の理想像、ナコの年代なら野球チームやサッカーチーム、二桁くらい想像してもおかしくはない。僕だってたくさんの子供や孫に囲まれて、大団円を迎えてみたいなんて考えたことくらいある。

 いつものごとく、適当に流すことはできない。


「ナコとの子供なら、何人でも僕は喜ばしいよ」

「ふふ」


 ナコが満面の笑みで返す。

 最早、笑顔の理由を尋ねる勇気は僕にはない。せ、正解の反応なのか? 確認するのは怖いので僕は少し早足にて案内の続きをする。

 その時、王宮内にあるレストランの前を通りがかった。

 時刻はお昼時、せっかくの機会なのでここでランチにするとしよう。ウィンウィンは海の幸が豊富だったが、王都ではどんなものが食べられるのだろう。

 自ずと気分が高揚、僕はナコの手を引きながら、


「ナコ、お昼ご飯にしようっ!」

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