第134庫 王都エレメント

「えーと、ゴザルの現在地は王都を囲む『グラン海』ってところかな」


 フレンドリストにはそう表示されていた。

 いやまあ、納得の結果である。それもそのはず、めちゃくちゃ海上付近で落下してたもんね。

 ゴザルについてはあとで合流してくることを信じて保留にしよう。


 大陸龍の飛行は順調に進み、王都が薄っすらと見えてきた。

 巨大な王宮が中心にある国、その規模はウィンウィン、アクアニアス、ストーンヴァイス三国の数倍の国土となっている。

 龍に乗りながら、この光景を目に収めることができるなんて――こうなった境遇は決して幸運とは言えないが、ゲームファン冥利に尽きる。


 僕とナコは遠く視界に入る王都を静かに見つめ続けていた。

 長く険しい今までの旅路を振り返るよう、ただずっと見つめ続ける。これだけの広さならば、僕の妹やナコのお姉さんだっている可能性も高い。

 

 ――ついに、王都エレメントに到着した。

 

 この王都はオンリー・テイルに置いて、全てが集まる国と言われていた。

 レアアイテム、金銀財宝、腕に自身があるもの、富と名声を求めるもの、この王都には全てが集ってくる。

 ゲーム時から変わらず、冒険者の活動拠点となっていた。


「クーラ、王都にたどり着きましたね」

「うん、長かったね」


 感動が胸を押し寄せる。

 旅始めに掲げた目標、ナコと一緒という事実がなによりも嬉しかった。

 まず最初に、ニャニャンと相談し合った結果"Nightmares"のホームに向かうことになった。現在ホームにはHomura ――ホムラが常駐しているという。

 大陸龍から降り立ち、いざ王都というタイミングで僕は重大なことを思い出す。


「今さらなんだけど、ゴザル不在で大丈夫かな」

「私たち同行という形で来ていますもんね」


 そんな心配を一蹴するよう、ニャニャンが僕たちの手を引っ張りながら、


「大丈夫、にゃっちがいればオールオーケー。あー、クランにゃん、"Nightmares"のニャニャン御一行が通るにゃあ」

「はーい。おかえりなさい」


 慣れ親しんだ会話、受付嬢の方と仲良しのようだ。

 ニャニャンは皆が並ぶ列とは別のゲートに、僕たちも身分や冒険所カードを確認されることなく普通に通れた。


「こ、こんな簡単でいいのでしょうか?」

「ナコにゃん、心配ご無用っ! 意外とセキュリティはバッチリ、このゲートに魔石が入っていてね、にゃっちの冒険所カードに反応して通れるようになるの」


 ナコの疑問にニャニャンが答える。


「にゃっちはね、この王都ですっごい尊い存在なのにゃあ。多少、いやかなりの融通は無理やり通せる。順番待ちしなくても、王様態度で楽に通過なのね」

「……ニャニャン、どこのお偉いさんの弱味を握ったんだ」

「どうしてそっち方面ばかり考えるにゃあっ?! ちゃんと王都で武勲を重ねてきたのよ。ソラにゃんがフラフラしてる間にね」

「好きでフラフラしてたわけじゃないよ」

「にゃっちをプレイヤーサーチしたらよかったのに。アクアニアス、ウィンディア・ウィンドなら大陸龍乗り回してる間に何度も滞在してたにゃあ」

「いや、ニャニャンずっとオフにしてたじゃないか」

「ん? してないよ?」


 ニャニャンが首を傾げる。


「にゃっちは常に正々堂々、この世界に転生してからオールオンにゃあっ!」

「えぇっ、Nyanyanで検索してもでてこなかったのにっ!」

「んんぅ? もう一回、にゃっちの前で同じように検索してみろ?」

「プレイヤーサーチ――Nyanyan」

「……」


 僕のウィンドウを見てニャニャンが無言になる。


「ほら、今もでてこないよ」

「……ソラにゃん、一言いいかにゃあ」

「どうかした?」

「ゴザルにゃんと揃いも揃って! ソラにゃんもバカ馬鹿なのっ?! にゃっちのプリティーな名前の『n』が1個抜けてるじゃあにゃいかっ!」


 犬歯を剥き出し、ニャニャンが叫ぶ。

『Nyanyann』と『Nyanyan』、僕がプレイヤーサーチした名前は後者、ニャニャンの言う通り、確かに『n』が一個抜けていた。

 この一文字が運命を左右、僕はなんて致命的なミスを犯していたのだ。

 項垂れる僕、ナコが慰めるよう僕の背中をポンポンしながら、


「つまり、クーラが検索名を間違えていたということですか?」

「そうそう、初歩的なミスね。ソラにゃんさあ、サーチ名ミスってなかったらもっと早くにゃっちと出会えて楽ちんな旅路になったかもしれないのに」

「Nが多すぎるんだよっ! 改名して減らしてこいニャニャンっ!!」

「うわぁっ、まさかまさかの逆ギレにゃあっ! 自分が悪いのに怒るのってどうかと思うのっ!」

「くそぉおお! 正論はやめてくれっ!」

「クーラ! 落ち着いてください!」


 なんとも騒がしい入国、僕とナコの王都第一歩となるのであった。

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