王都突入編

第114庫 いざ、王都に!

「「「「帰還〜!」」」」


 皆で外の空気を久々に満喫。

 ウィンウィンに戻り、僕たちは先に冒険所に寄ることにする。

 白の宝物庫イレシノンテ、調査報告に向かうためだ。

 50階に存在した大都市のことは今のところ伏せておこうという総意になった。


 だが、無事に30階まで行って帰還できた。

 その証として、ニャンシロの天使の雫を提示する。Sランクのアイテムに冒険所内は大騒ぎ、受付嬢のユーリさんが震える手で確認をしていた。

 これで僕たち"Kingly"のランクも上がるだろう。


「今回の調査、30階を踏破したということで"Kingly"のランクはCにアップすることになります」


 Cランク、か。

 EとDをすっ飛ばし一気にランクアップしたのは素直に喜ばしいが、あと一歩というところで届かなかった。


「……王都までの道のりは遠いなぁ」

「クーラ様、王都エレメントに行きたいのですか?」


 僕の独り言が耳に届いたのだろう、ユーリさんが尋ねてくる。


「実はそうなんです。ランクアップを頑張っている理由はそこがメインでして、乗龍パスポートをすぐにでも手に入れたいというか」

「それでしたら、今回の白の宝物庫イレシノンテ同様、Aランク以上の方の同行という形であれば王都に行けますよ」

「ふえっ?」


 素っ頓狂な声が飛び出た。


「普通はAランク以上の方の同行という形自体が難しいんですけどね。"Eisen"のギルドをご存知かと思いますが、Bランクも中々レアと言いますか。どんな繋がりかはわかりませんけれど、クーラ様にはゴザル様というAランクどころかSランクの方が一緒にいますので。この同行は将来性のある冒険者に経験を積んでもらうというシステムで古くからあるんですよ」

「ゴザル、知ってた?」

「知らなかったわ。ゲーム時と違ってしっかりと考えられているのね」

「……ゲーム、ですか?」


 僕とゴザルの会話にユーリさんが首を傾げる。


「こ、こっちの話です。それじゃ、ゴザルに同行という形で"Kingly"が王都に行く許可をいただいてもいいですか?」

「もちろんです。同行用の乗龍パスポート発行には数日ほどかかりますので、受け取りが可能になったらマジックレターでご連絡しますね」

「ありがとうございます」


 思わぬ方向から王都行きのチケットが手に入った。


「ゴザル、勝手に決めちゃったけど大丈夫だった?」

「ふふ、全く問題ないわよ。私も寄生が駆除されたことだし"Nightmares"の皆に会いに行くことを考えていたから」


 ゴザルはフンッと気合い十分な様子にて、


「念願のオフ会、叶えてみせるわよっ!」

「あはは、ははは」


 ゴザルの勢いに自然と笑ってしまう。


「な、なんで笑うのよ」

「ごめんごめん。僕も同じ気持ちだよ」

「あの性悪猫、ニャンには一言ガツンと言いたいのよね」

「ゴザルはよくからかわれてたもんなぁ。でも、ニャニャンはこの世界に転生してきているのかな」

「絶対にいるわよ。だって、私のフレンドリストには」


 会話の最中、冒険所内の扉が荒々しく開く。

 白い鎧を着込んだ連中が、ドカドカと中に入って来た。胸に刻まれた国のマーク、王宮の騎士団だろう。

 ただならぬ空気、騎士団は僕を見るなり、


「大罪人クーラっ! 輝きの洞穴オーラ・ストーンにてスカル・キラーを操り、大勢の冒険者を殺害した容疑で捕らえさせてもらうっ!!」


 突然すぎる出来事、王宮の騎士団に囲まれる。

 一体全体、なにがどうしてこうなった? 僕を大罪人と称する限り、悪い状況には違いないだろう。

 騎士団長であろう男が僕に詰め寄り、


「抵抗はするな。大人しく我々に付いて来い」


 有無を言わさぬこの顔付き。

 どう弁明しようと右から左、僕を捕まえて連行することは確定しているのだろう。

 僕は問いかけるべく相手を変更して、


「ユーリさん。どういうことですか?」

「わ、私にも状況が飲み込めません。スカル・キラーの件は目撃者が多数、クーラ様は被害を抑えるべく動いた功労者であると報告したはずなのですが」

「口を慎め受付嬢、報告をどう捉えるかは我々が決めるのだ。貴様がどうこう言うべきことではない。とにかく、大罪人クーラは黙って付いて来い」

「僕がいやだと言ったら?」

「力尽くになるぞ」


 騎士団長、その他の団員が剣を抜く。

 穏やかではない光景、冒険所内にざわつきが広がる。この雰囲気、付いて行ったところで無罪と主張しても意味はないだろう。ここはオンリー・テイルの世界、権力者のさじ加減により死刑だってありえる。

 誰かが裏で糸を引いている?

 確かに、あのスカル・キラーは不自然だった。その謎に近付けるのであれば、捕まってみるのも一つの手か?


 僕の仲間は臨戦態勢に入っていた。

 ナコとゴザル、キャロルさんまで――皆が一斉に武器を構え、騎士団相手に一歩も引かず、今にも飛び掛かりそうだった。

 いや、ナコとゴザルはすでに――動いていた。

 騎士団長、団員の持つ剣の全てが根本から切断されて柄だけになる。身にまとっていた鎧すらもひび割れてパラパラと破片がこぼれ落ちていた。


「それ以上、クーラに近付いたら許しません」

「私たちのソラになにかしてみなさい。騎士団全員皆殺しにするわよ」


 脅しでもなんでもない。

 ナコとゴザルは絶対にやる、端的にそう伝えているのだ。

 力の差は歴然、反応できているものは一人もいなかった。


「……わ、我々にたてつこうというのか?」

「我々? この国ごと敵対してやってもいいのよ」

「ひっ」


 ゴザルの殺気に圧倒され、騎士団長が尻餅をつく。


「ナコ、ゴザル、待ってくれ――この人に聞きたいことがある。騎士団長、誰の命令で動いているんだ?」

「ふん。まずは我々に命令したものの前に連れて行くつもりだ。自身の目で確かめてみるんだな」

「わかった。付いて行こう」

「ソラ、本気なの?!」

「気になることがある。向こうからアクションしてくれるなら、乗ってみるのも手かと思うんだ」

「危険すぎるわ! 私たちも一緒にっ!」

「お前たちに拘束命令はでていない。連れて行くのはクーラ大罪人のみだ」

「大丈夫、僕一人で行くよ。すぐになにかあることはないはずだ」


 謎の悪意、放置できることでもない。

 皆にだって影響が及ぶ可能性もある。相手がどういった意図で動いているのか、少しでも情報を手に入れたい。

 だが、素直に付いて行くのにも不安が残るのは事実。


「キャロルさん。お願いがある」


 連行される直前、僕はそっと耳打ちした。

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