第62庫 60秒後の未来
刻々と迫りくるタイムリミット、状況はさらに悪化する。
オーラ・ストーン第三層に生息するスパイダーが、ナコとスカル・キラーの激戦に誘われて群がって来たのだ。
スパイダーはハイスパイダーに比べるとかなり弱いが、数が増えると厄介なことには変わりない。
バカな考えを持った、罪滅ぼしとでも言うべきか。
ナコが制してくれなければ、本末転倒になるところだった。僕たちはここにどんな理由でやって来た?
サマロとレイナさんだけは守り切ろう、守り切ってみせる。
――裂、裂、裂っ!
スパイダーの返り血を全身に浴びながら、僕は縦横無尽に駆け回る。
ハイスパイダーよりは遥かに個体が小さいため、触手による破裂で問題なく一撃死させることが可能だった。
ナコが戻って来ることを信じろ。
こちらに気を取られることがないよう、スカル・キラーに集中させる、これが今僕にできる精一杯であった。
――残り''30''秒。
ハイスパイダーという親玉を殺された腹いせだろうか、倒しても倒してもスパイダーがそこら中から湧き続ける。
弱音を吐いている暇なんてない、動ける限り狩って狩って狩って狩り続けろ。
――残り''20''秒。
真正面からの戦いではナコに勝てないと判断したのか、ここに来てスカル・キラーが逃げの態勢に入る。
シャドウムーブ、影から影に移動していくスキルだ。
ユースさんとモッズさんはこのスキルで背後に忍び寄られたに違いない。気配察知に強い狩人と盗賊ですら気付くことが遅れるほどの高速移動である。
ナコも負けじと追いかけるが、またシャドウムーブにより離される。勝ちを確信したかのよう、スカル・キラーがカラカラと強く歯音を響かせた。
――残り''10''秒。
なにかを決した表情でナコが立ち止まる。
そして、首もとを擦りながら僕の方を向いて――笑った。
その笑顔に頷き返す、僕はナコの言葉を信じている。
ナコがハッピーを天に掲げ、ゆっくりと目を閉じた。
――''3''、''2''、''1''。
プツン、と。
操り人形の糸が切れたように、ナコが重力に導かれるまま崩れ落ちていく。
その姿を見てカラカラと嘲笑い、スカル・キラーが一直線にナコのもとへと駆け走った。
ざまあみろと言わんばかりに、手こずらせた相手に追い打ちと言わんばかりに、サーベルを振りかぶりナコの首を刈り取ろうとした。
「お前だったら、そう来ると思っていました」
地に横たわる寸前、ナコが身を翻す。
予測不可能な事態に驚愕したのか、スカル・キラーが全身を怯ませる。骨だけの無表情な顔付きが目を見開いたかのように見えた。
カウンター、ナコがスカル・キラーの中心を一閃する。
「
追撃、追撃、追撃の嵐。
有無を言わさぬ高速連撃、スカル・キラーの身体が木っ端微塵になる。
砕けた骨はサラサラと灰となり、鎧の破片だけが周囲に散らばっていった。
秒針が一周する直前、コンマ何秒の世界線、カウントはとまっていたのだ。
絶望が訪れる瞬間、僕だけは絶命していないと気付いていた。
奴隷輪による契約の効果だろう、ナコと繋がっている感覚が途切れていなかったからだ。
死闘の決着、ナコが僕のもとへと駆け寄り、
「ただいま、クーラ」
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