第60庫 連鎖する災厄

 素材の剥ぎ取りも完了し、僕たちは撤退の準備をする。

 ハイスパイダーとの戦闘後、レイナさんには手持ちの魔法薬を渡していた。

 ユースさんとモッズさんもヒールをかけてもらい、先ほどより顔色はよくなっている。


「ユース、モッズ、動けるか?」


 サマロの言葉に二人が笑顔で頷き返す。

 ここはまだダンジョン内部、油断していたわけではなかった、周囲にモンスターがいないか常に警戒はしていた。

 不規則に二人の影がうごめいた瞬間、ストンと首が地面に落下した。


 頷いた首が――戻ることはなかった。


 数秒前まで会話していた相手の突然死、その状況を理解する時間すらも与えられず追撃はやってきた。

 炎が揺らめくかのよう、足もとに黒い円が展開される。


「ぐぅっ! ぎ、ぁあああっ!」

「や、あぁあああああああっ!」


 サマロとレイナさんが叫び、崩れ落ちる。

 これは、なにかの特殊攻撃か? 僕も全身から力が抜けていくが――意識を失うほどではない。

 装備による全属性耐性に加えて、余力があったからこそサマロたちとは違う結果になった。


 カラカラと、歯を噛み合わせたような笑い声が響き渡る。


 錆び付いた鎧を上半身に纏った骸骨、両手には大きなサーベル、その異質な姿を見てすぐに気付いた。

 今の攻撃は対象の生命力を吸い取る"サークルドレイン"だろう。

 

 ――ネームドに次ぐネームド、『スカル・キラー』が出現した。


 ネームドは時間経過、特殊な条件を満たした場合、2種類のポップパターンがあり、スカル・キラーは後者に該当するネームドだ。

 遭遇することすらレアという存在、確率的にありえない。

 このタイミングで? 何故? どうなっている? ありえない?


 ……落ち着け、目の前の光景は現実なのだ。


 今どう対処するかということに意識を集中させろ。

 僕のすぐ後ろ、ナコもサークルドレインの範囲内にいたはず。サークルドレインには回復薬の類は一切効かず時間による自然回復しか治療方法がない。

 考え得る限り最悪の状況、全員ゲームオーバーという未来図が迫っていた。


「が、ぁあああ、あぁああああああっ!」


 僕は自身を鼓舞するよう、喉が擦り切れるまで咆哮する。

 奮い立て、諦めるな、意識がある限り終わったわけじゃない。

 スカル・キラーは倒れているものを後回し、弱っている僕からと優先順位を定めたのだろう。


 サーベルが僕目掛けて振り下ろされる。


 頭も回る、戦闘能力も高い。

 今まで出会ったモンスターの中では上位に位置づく存在、相打ちになってでもこいつだけは確実に殺さないといけない。

 僕は触手を展開、防御など無視にカウンターで迎え撃つ。スカル・キラーの顔面を貫こうとした瞬間、


「クーラにっ! 軽々しく、、触れようと、、、するなァアアぁぁあああああああああああああああああーっ!!」


 けたたましい金属音、サーベルが弾かれる。

 その音を皮切りに、盤上で激しくぶつかり合う駒のよう死闘が開始された。



 全員が力尽き倒れる中、最後の希望は小さな背中に託されたのだった。

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