第26庫 ご主人様?
翌朝。
早速とばかり、リーナの作戦通りに行動を開始し――ゴーレムの魔核を集めることにした。
リーナ曰く、大きい魔核が十個ほどあればいいという。
僕たちは崩落した出入り口まで進みながら、道中ゴーレムを狩り続ける。
ダンジョンに存在するモンスターは一定数倒すと、ダンジョンのバランスを維持するため新たな個体が生まれ続ける。
何体狩ろうとゴーレムが枯れるということはなかった。
「……っしょと。もう5個目か」
僕はゴーレムにとどめを刺し魔核を入手する。
大きなゴーレムとなると普通の個体よりは遥かに手強い。巨大な図体から繰り出される強烈な一撃は、本来ならば事故がないよう慎重にならざるをえなかっただろう。
しかし、すでに目標数の半分を達成していた。
その狩りスピードを実現している功労者、驚くべきはリーナの支援力だった。
リーナは後方に立ち、僕たちが動きやすいようサポートしてくれる。
「はいはーい。どんどん行くよー」
リーナが両手をかざし、ゴーレムの動きをとめる。
超能力者のスキル"テレキネシス"、自由に物体を動かすスキルだそうが――その力にてゴーレムの動きを完全に封じていた。
……6個、7個、8個、9個。
翌日も狩りを続け、気付けば――崩落現場までたどり着いていた。
リーナが話していた通り、出入り口は巨大な氷塊で隙間なく埋め尽くされている。
出入り口手前にいたゴーレムを倒し、僕たちは最後の10個目を入手する。
今日はこの付近をキャンプ地にして休み、明日魔核を用いてダンジョンを通過する予定だ。
通過した先にはウィンディア・ウィンドまでの道が開いている。
お馴染みと化してきたカマクラ作り、僕たちは中で暖を取りながら、
「リーナのおかげで想像以上に早く魔核が集まったよ」
「きひひ。リーナがいてよかったでしょー」
「本当にありがとう」
「そんな改まってお礼言われると照れちゃうよーん。黒猫ちゃんもリーナになにか言うことないのかなー? かなかなー?」
リーナが指でナコの頬をうりうりする。
「感謝というのは本人の気持ちで言うものであって要求するものではありません。リーナさんは大人として恥ずかしいと思わないのですか? ありがとうございます」
「メリハリ抜群すぎるーっ! でもそういう素直なところがめちゃくちゃ可愛らしい。あーもう、リーナも飼いたいなー」
「いや、僕は別に飼ってるわけじゃ」
「いえ、私はクーラに飼われています」
「ちょ、ナコさん?!」
「クーラは私のご主人様です。この首輪が証拠です」
ふんふんと、鼻息荒くナコが奴隷輪を主張する。
奴隷輪の契約上はそうなるけれど、僕はそんな主従関係の強制はもちろん意識したことも一ミリもない。
まあ、考え方は好きな方向で――ナコの意思を尊重しよう。
「ちょっ、猫耳魔法少女飼うとかクーちゃんどんな徳積んできたのさーっ! うらやましいにもほどがあるっ! リーナも黒猫ちゃんの頭とかなでさせてよー」
「無理です」
「駄目どころか無理なんだーっ?!」
騒ぐ二人はさて置き、僕は晩御飯の用意に取り掛かる。
アイテムボックスより、あるアイテムを選択し出現させた。
・ ガルフの生肉
鮮度抜群、綺麗な赤みを帯びている。
アイテムボックスに保存してあるアイテムは劣化することがないようで、生モノに関してもなんら問題はなかった。この機能だけでも旅路はかなり楽になっている。
僕は火竜玉を削り、調理用に火力の調整をしていく。
「クーちゃん、それ火竜玉じゃんっ!」
「そうだよ」
「ナチュラルに頷いた! そんなレアアイテムキャンプ用に使わなくても、リーナが火くらい点けるってーっ!」
「このアイテム、そんなに貴重なんですか?」
「貴重も貴重っ! 上位の炎魔法が気軽にだせちゃう代物だからねー、かなり高値で売れるはずだよ」
ナコの疑問にリーナが驚きながら答える。
以前、ナコを救出する際に火竜玉を丸々使用してみたのだが――想像以上に威力が高すぎた。下手すれば自身も巻き添えになるレベルである。
のほほんと、生活の一部に使う方が気が楽なのだ。
僕はガルフの肉のど真ん中に触手をぶっ刺し、ぐるぐると回しながらこんがりと焼いていく。
味付けはシンプルに塩コショウのみ、焼いている姿はビジュアル的になんとも言えないが目を瞑っていただこう。
「うわぉ、触手って便利だねー」
「大きさが変化できて色々なことに使えるからね。一回出し入れするとキレイな状態に戻るから衛生面は気にしなくていいよ」
ツンツンと、リーナが触手の一部を触りながら、
「弾力性高いねー、触手ってヌルぬるアハーんなイメージだったよ」
「イメージが一方通行に振り切りすぎだって! またナコが反応しちゃうからやめようね。まあ、車のタイヤに近い感触かな」
出来上がり、触手を糸状にして肉を切断していく。
あっという間にガルフのステーキの完成である。
焼き加減はミディアム――ザ・お肉といわんばかりの芳しい香りが鼻孔をくすぐる。
リーナとナコは待ってましたと言わんばかりに勢いよくかじりつき、
「美味しいーっ! なにこれ、肉汁溢れすぎだってばっ!! こんな上質なお肉もとの世界でも食べたことないんだけどー!」
「……んんっ! お肉柔らかくて美味しいです」
美味しいと言ってもらえるのは、作り手として素直に嬉しいことだ。
三人で食事をしながら、ここに至るまでの道中――どんなことがあったかを振り返るように話していく。
お互いに共有できる情報があればという考えだったが、道中を話すということは避けては通れない事柄がある。
ファーポッシ村の一件で言葉が詰まった。
リーナにはまだ、逃げて来た経緯までしか伝えていない。
話すべき内容なのか――言葉が途絶える。
急な会話の中断、リーナは僕の表情から全てを見透かしていたのかもしれない。
「クーちゃんたちさ、ここに来るまでに何人殺してきたの?」
タイミング的に、核心を突く一言だった。
「種族上、竜龍族は血の匂いだけは鼻が利くんだ。クーちゃんと黒猫ちゃんからは人間の血の匂いが激しくする」
リーナが初めて見せる真剣な眼差し。
僕とナコは食事の手をとめ、リーナの顔を黙って見つめ返すことしかできなかった。
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