第36話 借金生活 2
#1
熱心にネットの情報を探る中年の男性。
「何?湯没?」
男が熱心にネットの情報を検索してるのは、湯没の予約相手を探すなり、デリヘルの相手を探すなりだろうと踏んだのだが。
「湯没?」
この男は、まるで何も知らないと言った様子だった。
「いや。」
他にプログラム中に、何だっけ、レキサの影響で言葉に詰まる。……自分の経験に根差した言葉を見つけられないので、致し方なく一般的な用語を用いると、自分のやりたいことをやっっているのは(ああ、内職、だ)、どうやら湯没のせいではなく、他の何からしかった。
もう少し突っ込みたく成ったので今日のイベントに誘ってみる。
「今日飲みに行くんだけど来る?」
「今日はちょっと」
中年の男は、大して申し訳なさそうも無く、あっさり断った。
「綺麗処も来るよ」
何も知らないんじゃないだろうな、イベントデ飲みで綺麗処でって揃ったら。
色々詳しく教えてやろうか、と思ったらあっさり。
「辞めとくよ」
そう言って睨むように携帯を見始めた。
#2
其の女の事であったのは、よく行くよく行くコンビニだった。
店に入って左手の書籍コーナーへ急ぐ。
今日発売の映像媒体雑誌。
ファンなのだが、この店には一冊しか配当されないので買い逃すと注文に成る。面倒だからこうして発売日に、やって来る。
書棚の前に立って目当ての雑誌を探す。
とりあえず確保しなければ。
手に取る前に周囲を見る。
やはり少々気恥しい。
店のチャイムが鳴る。
女の子、二十ぐらいの、が入ってくる。ボブヘヤでジーンズTシャツとシャツジャケット、一寸崩れているが、粗削りに清楚風。結構趣味だった。
女の子は真っ直ぐ書籍コーナーに来て隣に立った。
茫洋とした顔で書棚を眺めると、ゆったりと一冊手に取った。
手にするところを見て思はず声が漏れた。
「あ」
女の子が此方を見る。
何?と言いたそうだった。
「それ、買うの?」
#3
駅前のテナントビルの中に在るファッションショップ。同じ階に何店かあるのだが、其のうちの一つに彼女が寄ろうとした。
「未だ買うの?」
今日は庶民的に飴横へ行って、買ったものは全て配達にしてきたばかりだった。
「ん?着るのよ、私も。」
普段、買い物に付き合わされるのが、金座、波羅宿、部屋、時々蜂本木。値の高い所ばかり行くので、自分の地元では帰りのお茶ぐらいしかしない。其れですら、此のテナントの一二を争う高級店。何で地元の店に興味が湧いたのか不明だった。
「そろそろ予算が……」
「頑張って。5千円でいいから」
そう言って店の品を手に取りながら、丹念に商品を調べだした。
「判った。俺が選ぼう」
そう言うと、少し困った顔で考え込んで、沈黙ののち、
「わかった」
と言って、手にした商品を戻した。
#4
店のショーウィンドの外からお歩がにらんでいる気がした。
自分と同じような中年の男が此方を見ていた。
視線を彼女にの戻すと、彼女もショーウィンドの外を見ていた。
「知り合い?」
「全然。似てる人知ってるけど別人でしょ」
「そう」
一抹の不安を感じつつ、珈琲を啜った。
#5
「で。」
「12万8千七百円」
「大したこと無いな。」
「明日中にお金に換えとくわ」
手で制されて、腰に手を回しかけた男の手が止まる。
「―—何だ?」
「感じない女を抱くのってどういう気分なの」
「バレたのか」
「……」
「上手くやれよ。慣れてきたところなんだから」
「はいはい」
#6
「佐倉さん今日も休み?」
「何か辞めるって噂」
「結構な身分」
朝のミーティング前の話。
実習生も何処へ行ったのか参加していない人もいる。
「ねぇ」
「臭いな、実際」
リアンは欠伸を噛み殺しながら言った。
此処は若しかしたら。
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