デフィートエネミーバトラーズ

イードラ

『戦士』入隊編

The Prolonged act

 『戦士バトラー』。

 それは、とある国の政府によって結成された組織である。

 ただ、それは一般国民には知られておらず、謎に包まれている。

 彼らは、不思議な力を用いて国民を危機から守っている。それは、地震、津波、豪雨だけでなく…

 『エネミー』から守っているのだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


  僕、ユクス•モルジベスタは中等教育所第3学年の生徒だ。今日も授業を受けていたんだけど…


 「うわっ!?」


 いきなり建物が揺れ、僕は思わず声を出してしまった。


 「なんだなんだ!?」

 「地震!?」

 「何が起こっているの!?」

 「怖いよー!」


 生徒が口々に喚く。


 「静かに! みなさん、机の下に身を隠しなさい!」


 しっかり定期的な避難訓練ををしているおかげか、先生の一声で一斉にみんなが机の下に潜る。




 しばらくすると、揺れが治ったので、みんなが安堵のため息をついた瞬間、一際大きく揺れたと思うと、建物の天井が轟音と共に崩れた。

 僕は目をきつく閉じて机の脚を掴んでいるしかなかった。

 しばらくして土煙が晴れると、恐る恐る机から頭を出してみる。


 「ええっ……?」


 僕の教室は、最上階だったからか天井のほとんどが崩壊し、瓦礫が机を押し潰していた。多分押しつぶされたみんなは助からないだろう。

 なんとか机と瓦礫から這い出し、もう天井も壁もないところまで歩く。そこで僕はもう一度驚くことになる。


 「えっ……!?」


 壁が完全に壊れてよく見えるようになった外には、この世のものとは到底思えないモノがいたからだ。


 「な…な……なんだあれ……」


 ショックの余り誰とも知らない人に尋ねる。でも、当然の如く答えは返ってこない。

 怪物は暴れ、周りの電波塔、ビルなどを次々と破壊していく。

 こ、こんなんじゃ、クテレマイスが崩壊しちゃう!

 と思っていた時、僕は何か人影が見えた。

 …ん? なんだ……?

 なんと、その人影は、屋根から屋根へと飛び移り、怪物に向かって行ってる!

 危ない!

 人影が取る行動の違和感に気づかず、届かないと分かっていながら僕は咄嗟に声を出そうとした。

 その時、人影から一筋の光が見えたかと思うと、その光は怪物を直撃し、大爆発を起こした。


 「……えっ?」


 唐突に起こった出来事に対応できず、僕はまたしても思わず声を漏らす。

 光の直撃を受けた怪物はバランスを崩しよろめく。すかさず他の人影が何か棒のようなものを持って怪物の頭上へ飛び上がる。そのままその人影は棒を振り下ろし、怪物は真っ二つになり、人影は屋根の上に難なく着地した。

 これが事の一部始終だ。

 ……情報量多すぎない!?

 さっきまで散々動揺しておいてここまで来て今更冷静になるって…

 一人で意味不明なことを考えているうちに、人影はこちらに向かってきていた。


 「ひっ……」


 無意識に座ったまま後ずさる。どんどん人影は近づいてきて…

 ついに教育所まで入ってきた。

 その人影は、白髪の青年だった。


 「やあ、君、大丈夫かい?」

 「…………」


 開いた口が塞がらす、声が出ない。

 いいかい?これは夢だ。悪い夢だ。ほら、明晰夢とか言うだろう。そう言う類のやつだ。多分。ほら、頬をつねって…

 ……夢じゃないことはすぐにわかった。


 「だ、大丈夫かい……?」


 白髪の人が心配そうにもう一度聞いてくる。すると、


 「そっとしておけ。こんなの見せられて大丈夫な奴を見たことがない」


 もう一人の人影ーー黒髪だったーーが白髪の方に言う。


 「あっ、だっ、大丈夫、です」


 そこでようやく声が出た。


 「ほら、大丈夫じゃん」


 白髪の方が黒髪に得意げに言う。黒髪は頭に手を添える仕草をして、


 「全くお前ってやつは……まあいい、報告するぞ」


 と呆れたふうに言った。


 「ふふっ、分かってるって」


 白髪の方は全く気にしていないみたいだ。耳に手を当てて、


 「こちらチーム『カウンタリー』。クテレマイス第三教育所、生存者一人を確認。他の生存者を確認次第また報告する。以上」


 と誰かに報告するように言った。


 「そういえば、自己紹介を忘れていたね。僕はヴァイス•シーカー。みんなからは『白』って呼ばれているよ。よろしくね」


 白髪の人は「ヴァイス」という名前らしい。


 「ここで自己紹介する!? ……俺はシヴェルツ•シーダム。『黒』、そう呼ばれている時もあったな。よろしく」


 黒髪の方は「シヴェルツ」のようだ。


 「よ、よろしくお願いします……僕はユクス•モルジベスタって言います」


 僕も自分の名前を伝える。ヴァイスさんは満足そうに頷くと、


 「よし、もうそろそろここを移動しよう。立てるかい?」


 と、僕に手を差し伸べてきた。


 「は、はい、立てます」


 僕は差し伸べられた手を掴み、引っ張ってもらった。

 って、力強っ! 僕は前につんのめりかけた。


 「ここはいつ崩れるかわからないし、保健所へ避難しようか。でも、道も瓦礫だらけで危険だ。僕が背負って行くよ」


 と、ヴァイスさんは僕に背を向けて片膝立ちをした。


 「え、いいですか……?」

 「もちろんどうぞ?」

 「じゃ、じゃあ、失礼します……」


 恐る恐る跨る。すると、ヴァイスさんは笑って、


 「ははは、そんなに畏まらなくてもいいよ。……さて、そろそろ行きますか! よっと!」


 と、なんと、教育所の、さらに一番上の階から飛び降りた!


 「うわああああああああ!?」


 僕は悲鳴を上げることしかできない。


 「ほっ」


 唐突に落ちている時特有の浮遊感が消える。着地したみたいだ。でも、その時に生じるはずの衝撃はほとんど感じなかった。

 なんとか目を開ける。僕を背負ったヴァイスさんは屋根の上を走っていた。

 …とても速い。僕を背負いながらなのに普通の人の3倍くらいの速さで屋根の上を走ったり飛び移ったりしている。


 「ヴァイスさん達は一体何者なんですか? あのでかい怪物を倒したり、ものすごい速さで屋根を走ったり、どういうことなんです?」


 それを聞いたヴァイスさんは一瞬困った表情をして、諦めたようにため息をついた後、こう言った。


 「まあ、こんなの見られたら隠せないな。僕らは『戦士バトラー』といって、いろんな災害からみんなを守る役職なんだ」

 「え? そんなの、職業一覧にありませんでしたよ?」


 僕の記憶が正しければ、『戦士バトラー』なんて文字はなかったはずだ。もしあったら覚えているに決まっている。

ヴァイスさんから帰ってきた言葉は僕を驚かせた。


 「そりゃ当然。『戦士バトラー』は機密組織のようなものだ。一般国民に知られるようになっているわけないんだ」

 「えっ」


 そりゃ知らないわけだ。でも、どうしてこんなことができるようになるんだろう。

 ヴァイスさんの話は続く。


 「で、あのでかいのは『エネミー』と言って、僕らを脅かす存在。僕らは『エネミー』からもみんなを守らなくてはいけない」


 そんな、この世界にそんなものがあるなんて…僕はこれが夢じゃないとわかっていながらもその話が信じられなかった。

 これまで14年間生きてきて、こんなものを一度も見たことがない。でも、これが現実だと認めざるを得ない以上、信じる以外に道はない。


 「あ、ほら、もうすぐ着くよ」


 本当だ。保健所の屋根が見えてきた。


 「よし、一気に行こう!」


 ヴァイスさんが大ジャンプをした。僕はまた悲鳴を上げることになった。





 「よ〜し、到着〜」


 ヴァイスさんが僕を下ろした時、僕はふらふらで倒れそうだった。


 「そういえば、僕の父さんと母さんはどこにいるんですか? 無事なんですか!?」


 ヴァイスさんに詰め寄る。


 「落ち着いて落ち着いて、モルジベスタさんだよね? あの人達は保健所でボランティアをしてもらっているよ」


 ああ、よかった……僕は胸を撫で下ろした。


 「さてと、また何かが落ちてくる前に早く建物に入ろう」

 「はい」


 僕らは保健所にはいった。




 僕がホールで一息ついていると、ヴァイスさんが歩いてきた。

 

 「残念ながら、君の教育所の生存者は少なかった。君のクラスの生徒たちも全滅だ」

 「そうですか…」


 理不尽にも命を落としてしまった人達に向かって心の中で手を合わせる。

 でも、まだ学年が上がったばかりで良かった。もし、仲の良い友達が死んでしまったら、僕は精神がどうにかしてしまっているだろう。


 「あの『エネミー』はどこから現れたんですか?」

 「彼らは史実によると、『ネクストディメンション』というところから来ているようだ。でも、今までは少なかったのに、最近はこのクテレマイスに接近、侵入する『エネミー』が増えてきたんだ…」


 そうなんだ……つまり、ここはクテレマイスの中でも端の方だから、たまたまここから近いところに『エネミー』が入り込んだ、というわけだ。


 「もうそろそろ上から報告が来る頃だ。…っと、噂をすれば来たようだ。ちょっと待ってて……」


 ヴァイスさんが耳に手を当てる。トランシーバーかな?

 少し休んだお陰で頭が回るようになった僕がそんなことを考えていると、ヴァイスさんが驚いたように目を見開いた。



 「……了解。……なるほど、なかなか手荒いことをするね」

 「ど、どうしたんですか?」


 おずおずとヴァイスさんに聞いてみる。


 「上から通達が来た。大規模な記憶改竄魔法を使う、ということだ」


 そう言うと、ヴァイスさんは宙に手を翳した。すると、どこからともなく白いドームが展開された。

 え? 魔法? それって一体……


 「ま…魔法って、ど、どういうことですか……?」


 ヴァイスさんは困ったように苦笑いして、


 「『戦士バトラー』はね、魔法も使えるようになるんだ。使わない人もいるけどね。じゃあ、僕は行くよ、また会うかどうかはわからないけどね」


 と言って、ドームの中に入ろうとした。


 「待ってください!」


 という僕の声を聞いて、ヴァイスさんは立ち止まった。


 「僕も……やります。『戦士バトラー』になります!」


 それを聞くと、ヴァイスさんは首を振った。


 「いや、君はまだ若い。しかも、。さっきの話でわかったと思うけど、『戦士バトラー』は常に死と隣り合わせなんだ。これ以上誰かに命を投げ打ってほしくないんだ。だから……」


 またね、という声と共に、ヴァイスさんは完全にドームの中に消えた。

 待って、と僕が手を伸ばした瞬間、僕の視界は光に覆われた……

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