第71話:決定的な情報

「さて……鬼が出るか蛇が出るか……と言うか、鬼っぽいんだよなぁ……」


「鬼ですか?」


「うん、人間の頭部を潰せる力と刀を上手く使いこなす、前者はオーガとかなら可能なんだけど。問題は後者だ、刀はむやみやたらに振っても斬れるんだけど」


「今回は断面が綺麗すぎたんですね?」


顎に手を当てながら言う、モンスターの武器は基本的に手入れが不十分だ。それに不十分だとしても力任せに斬るので切れ味の良さなんて関係ない。


「うん、だから手入れが出来る知能があってそれでいて力も強い、となるとモンスターの中でも普通より強い〝鬼〟だという推論になるんだ」


「そうなのですね、でもどうして悩んでいるのですか?」


「うん、俺が知ってる中で有名で強い鬼、しかも単体で戦えてそれでいて結菜を殺すのではなく、攫う事をするのは俺の思い当たる節だと二体なんだ……」


「酒呑童子と茨木童子……」


「うん、その二体が思い当たるので、実際に対面したお二人の情報が欲しかったんです」


「そうなのですね、それですと長くなりそうなので。眠気覚ましにお台所借りましょうか」


「あー、それでしたらコーヒーと軽食があるので用意しますよ」


「用意ですか?」


「はい、えっと……ここに……あったあった」


空間収納アイテムボックスから挽いてあるコーヒー豆とサイフォンセットを取り出す。


「それは……魔法ですか?」


受け取った姫崎さんがテキパキと準備を進めていく。


「はい、俺も原理がわかって無いですけど、異空間にしまった物を自由に取り出せるんです」


「使えるのならば凄く欲しいですね……」


「あはは……この魔法は世界でも出来るのが二人だけですから」


「そうなのですね残念です……」


コーヒーの準備をしながら肩を落とす。


そうしてお湯の沸く音が響き始める。


「そろそろですね……」


お湯を入れたサイフォンにコーヒー粉を入れる、そしてアルコールランプで沸騰したお湯が昇って来てコーヒー粉が濡れる。


「良い香りですね」


「えぇ、ウチの奥さんのお父さんがブレンドしたんです」


「そうなのですね」


火から下ろしたサイフォンがゆっくりと冷えてコーヒーが下がっていく、この光景は何度見ても面白いものだ。


「こうして見ると子供みたいですね。先程の真剣な顔とは違い微笑ましく思えます」


姫崎さんが笑う、恥ずかしいな。


「あーあはは……お恥ずかしい……」


「いえいえ、最初は胡散臭い人だと思いましたが。お嬢様の事を気遣っていただいたり感謝しています」


「そうだ、心配なので明日、心……西園寺さんと会えますか?」


「お名前呼びで大丈夫ですよ、もう上凪さんの事は信頼しておりますので」


「そ、そうですか」


「はい、それと明日は私が手引きいたしますのでお会いになって下さい。私からもお願いいたします」


「わかりました、コーヒー飲みましょうか」


空間収納アイテムボックスからサンドイッチを出す、春華のお手製なので凄く美味しい奴だ。


「こ、これは……食べても大丈夫なんですか?」


「あー説明を忘れてましたね……空間収納アイテムボックス内は時間が停止しているので鮮度は大丈夫です」


一口齧るとレタスのシャキシャキが伝わって来る、相変わらず俺好みの味付けである。


「それでは、いただきますっ! ――美味しい……」


「良かったです、こっちも美味しいですよ」


今度はタンドリーチキンのホットサンドだ、熱々のチキンととろけたチーズが食欲を刺激する。


「これは……絶品ですね……。」


そうして舌鼓を打っていると襖があいて、二人が入って来た。


「廊下から良いの匂いがしていたが、いつの間にコーヒーを……」


「すみません、勝手に」


「いや、それは良いのだが……」


「上凪さんは手ぶらだったはず……」


「えっと、空間収納アイテムボックスって言う魔法があってそれで、持ち運びしてるんです」


空間収納アイテムボックスから更にお茶やおにぎりを出す。


「どうぞ、食べて下さい。恐らくお腹も空いてるでしょうし、一息入れたらお話を聞きたいです」


そう言った途端に二人のお腹が鳴る、肉体が再生したとはいえ死んでから丸一日食べてもいないし、身体が調子を戻すためにお腹が空くだろう。


「ですが……結菜が……」


「大丈夫です、朝になれば心強い援軍達の準備も出来ますし、無暗に追うよりも情報を整理して一気にこちらから奇襲したいですので。それに結菜が帰って来た時にお二人が空腹で倒れてたら俺が怒られてしまいますので」


「そうか……わかった……」


「わかりました、上凪さんを信じます」


それから食事を終えて一息つく、お茶やコーヒーを入れ直して本題に移る。


「それじゃあお二人が襲撃者に会った時の事を教えてもらえますか?」


「あぁ、私は書斎で翌日の予定を確認していた所、家の外から凄まじい音がしてな。猪かと思い猟銃を持って音の方へ向かうと、結菜が刀を持った得体のしれない男に襲われていてな。慌てて撃ったのだが、少し仰け反る位でまるで意に介さない様だった」


「猟銃で撃たれても……耐久力はオーガくらいか……男という事は人間だったんですか?」


「あぁ、髪は乱雑で長く気崩した着物姿だった、風体は優男と言った感じだったが得体のしれない恐ろしさがあったよ。それにそ奴は片手が無かった……いや、腕はあるのだが見えないのだ」


「腕が無い……と言う事は絞れたな……」


「絞れた?」


「はい、モンスターと仮定して予想は建てていたんです、膂力があってオーガとは違い刀を扱う、日本でそんな存在は鬼でしか無いと。そして日本の鬼で有名所だと酒呑童子か茨木童子に絞っていたんです」


「そうね……あのおぞましい顔は鬼と呼ぶに相応しい……」


憎々しげに言う菜緒なおさん、菜緒さんにも話を聞かないとな。


「菜緒さんは詳しく覚えていますか?」


「えぇ、結弦さんが斬り殺された後、奴は私の方に気持ち悪い笑みを浮かべながら近づいてきました、結菜を逃がす一心でしたが無意味でした……」


目に涙を溜めながら話す菜緒さん、姫崎さんが背中をさすっている。


「わかりました、ありがとうございます」


二人の話しから決定的なのは腕が無いという事だけど、それで十分に予測がついた。


「それじゃあ、朝になったら心愛の元に行って。最後の結菜への手がかりを手に入れよう」


「わかりました、それではご案内しますので、宿を取りましょう」


そう言って立ち上がる姫崎さんを結弦さんが抑える。


「今日は、部屋を用意するよ。どうか泊って行ってくれ」


「ですが……」


「君達を返したら結菜に怒られてしまう。どうか父親の顔を立てると思って……」


そう言って頭を下げる結弦さん、そうまで言われてしまうとこちらも断れない……。


「わかりました、ではお言葉に甘えます……姫崎さんもそれで良いですか?」


「私は先に屋敷に……」


「出来れば、妻についていてくれないか? 男の私だと気遣いがどうも出来なくてな……頼む」


「——わかりました、ではお言葉に甘えさせていただきます」


少し悩んだ姫崎さんだったが菜緒さんの様子を見て大きく頷いた。




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作者です。


【第12回ネット小説大賞】二次選考通過してました!!


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読者の皆様ありがとうございます!!


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