|幕間|ある夫婦のお話と世界の神様【改稿版】
PM21時:鳳邸
けたたましく鳴るスマートフォンを手に取り通話に出る、もう休もうとしていたので少しムッとする。
「はい、鳳だ」
すると部下の警視監から耳を疑う様な犯罪の内容が聞かされた。
「ゴブリンだと!? 何言ってるんだ! 今は映画の話をしてる場合じゃないんだぞ?」
『いえ総監、全部現実の話です。模倣犯でも映画のセットの話じゃないです。会議を行う為に車を派遣しましたので直ちに来てください』
「そこまでの事態なのか?」
『はい、既に死者も出ている事態です』
「わかった、冗談では無さそうだな……直ちに向かうとしよう」
電話を切り、着慣れた制服へ袖を通し一階に降りる。
妻である
「
「すまない緊急かつ未知の事件で呼び出されてしまった。朝に帰れるかわからないので朝食はいらなくなった」
申し訳無さそうに妻に頭を下げる。
「大丈夫ですよ、今から仕込みをするところでしたので。それより、こんな時間に出るという事は徹夜になりますので、無理はしないでください」
結婚したのは20年も前だが、今まで文句の一つも言わず。常に私を立ててくれる良き妻である。
「そういえば、
「今日は塾でしたので、後1時間位はかかりますよ」
今年受験生である娘の里菜は、今日も塾で頑張っているようだ。
「そうか、里菜にはあまり根を詰めすぎないよう言ってくれ」
「はい、わかりました。でもたまには辰之助さんも褒めてあげて下さいね」
丁度その時チャイムが鳴った。
「迎えが来たようだな……では行ってくる」
「はい、気をつけて下さい……」
◇◆◇◆◇◆◇◆
【優希が地球へ帰った日の夜】
真っ白な空間に一人の人物が佇む、頭には天使の輪を背中には天使の羽根を備えた少年とも少女ともつかない姿の人が佇む。
その姿は天使とも思えるが、いくつもの世界を管理する神だ。
「いてて……相当手酷くやられたな……」
宙に浮いたコンソールを傷ついた腕で弾きながら、僕はひとり愚痴を吐く。
「うわぁ……世界が歪んでる。不味いなぁこれ……」
画面に映るは二つの世界、他の正常な世界と違いパラメーターがぐちゃぐちゃになっている。
元々二つ異なる次元だった世界は、僕の管轄下で数多ある世界と共に正常に運営されていた。
その中でも僕は人間から神にスカウトされた特殊なケースで、上司達からも目をかけられて頼りにされている。
だが、とある日、その才能を羨んだ他の世界を治める同僚の神に襲われてしまう。
その神は邪神を使い、僕が管理するもう一つの世界を滅ぼそうとした。だけど、僕と彼、そしてその仲間達の奮闘によって世界は守られた。
そして同僚の神と闘い、そいつからもう一つの世界を守り切った僕だけど。そいつに襲われた際、両方の世界に歪みが植え付けられてしまった。
「全く、彼に渡した聖剣は世界の維持をする為の楔として回収しちゃったし。無理に戻そうとすると両方の世界が崩壊しかねないか、全くやってくれたなぁ……」
悩みながら宙を漂う、するとその世界に訪問者が現れた。
「元気にしていますか?」
綺麗な声色を鳴らすその訪問者は僕に近づく。
「あ、運命神様、治療ありがとうございました」
「はい、神のまとめ役の1人として、こういった事になりすみません。そしてあの愚か者は神判にかけられた結果。神の力を奪い追放しました、これ以上生涯に渡り神の力を行使する事は出来ないでしょう」
運命神様含む上級神の皆さんには瀕死だった所を治療してもらえてなんとか生き永らえられた訳だ。
「良かったです、それでそれを伝える為だけに?」
「いいえ、本題は貴方が少し悩んでいる様でしたので。アドバイスを……」
「アドバイス……ですか?」
「はい、貴方が悩んでいる事ですが問題無いです、むしろ思い切ってやってしまった方が良き方向に向かいます」
ニコリと微笑む運命神様、凄く癒される笑みに後押しされる。
「わかりました、それではあの世界の皆に託してみます!」
「はい、ですが私が助言しなくても貴方はその選択をしましたし。余計なお世話でしたかもですね」
「いえ、運命神さまの一声で、しっかり踏ん切りがつきましたので!」
「それならばよかったです、では私はこれで。またお見舞いを持ってまいりますね」
そう言って消えてしまった。
「さて……こっちの世界の皆に芽生えさせた力を与えるのと……。ダンジョンが謎に生まれたと認識を改変させないと、骨が折れるなぁ……」
ぱちんと頬を叩いて気合を入れる、コンソールを弾き世界の歪みはどのくらいで元に戻るか計算をする。
「うげっ……1000年かぁ。彼に一任しても寿命が足りないし……どうするか……」
一応神様だし勝手に不老不死には出来るが、それに
「なにより、彼には沢山の迷惑をかけちゃったし……そうだ!」
コンソールを弄る、今の彼は少し
彼にはこれから頑張ってもらいたいし、これ位なら問題無いだろう!
「さて、後は説明するタイミングだけど……来てもらうか」
振り返ると、かなり殺風景な空間が広がっていた。
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