第29話:神の血とアミリア

「んっく……ゴクッ……んっく……ゴクッ」


(なんか凄い飲まれてるんだけど……まぁ病人の吸血鬼だし飲ませてあげるか)


暑い日に冷たい飲み物を飲んでるかの如く俺の血を嚥下する。


「んなぁ!? リリアーナ!?」


慌ててノクタールさんがリリアーナさんを引き剥がす。


口から血を流し、虚ろな目をするリリアーナさん、その顔は明らかに血色が良くなっている。


「リリアーナ!? リリアーナ!?」


何度か声を掛けながら揺さぶっていると、リリアーナさんの瞳に焦点が戻って来た。


「あっ、お父様……」


「よかった……でも、一体どうしたんだい?」


「その……お恥ずかしながら、カミナギ様の事を見たら無性に血が欲しくなりまして……」


「そうか……ユウキ殿、質問をさせてもらって良いかい?」


「はい、大丈夫です」


「貴殿はもしかして、神の血が入っていたりするのか?」


「神の血……どうなんでしょう」


一回死んで(?)から体を作り変えてもらった時にもしかしたら取り込んだのかもしれないけど、判別しようがないんだよなぁ……。 


「そうか……」


「あ、でもマリアン様ならわかるかも……」


「そうか、では一旦戻ろうか。リリアーナ、また後で来るからな」


「はい! おまちしておりますお父様・カミナギ様!」


「あれ? 俺来ること確定なの?」


「来て、いただけないのですか?」


瞳を潤ませ、涙を目尻に溜めたリリアーナがこちらを見上げる。


「すまない、ユウキ殿。出来れば後でもう少しリリアーナに血を分け与えて欲しい。一気に摂取し過ぎるのも問題だが、身体に合う血を摂取してもらうのはかなり重要なのでな」


「わかりました、俺の血で元気になって貰えるなら。でも、死なない程度になら」


「あぁ、そこは大丈夫だ、飲んでもカップ一杯程度だからな、それ以上は中毒症状を引き起こすから身体が拒絶するんだ」


「なら、大丈夫そうですね。それではリリアーナ様、また後で」


「はい! また後で」


◇◆◇◆◇◆◇◆

「という訳で、俺の血に神様血が入っているか、知りたいんですよ」


「えぇ!? そうなんですか!?」


「なので、大神さんか運命神様に聞いて来て欲しいんだ」


「えぇ!? 私そんな権限無いですよぉ!」


「じゃあ理映……ウチの世界の神様に聞いて来てよ……」


「わ、わかりました!」


そう言ってマリアンは戻って行った。


「すみません、慌ただしくて……」


「い、いや……まさか他の神も知り合いとは……」


「まぁ色々あって、それじゃあ先程のお話に戻させてもらっても良いでしょうか?」


そう言うと、楽しく談笑していた皆が静まり返る。


「あぁ、わかった。アミリア様との結婚の話だったな」


「はい、そうです」


「それに関しては、一旦保留とさせてもらえないだろうか?」


申し訳なさそうな言葉でノクタールさんが言う。


「わかりました、会っていきなり婚姻してくれというのは無理がありましたか……」


「いや、そうでは無い。会って結婚等は貴族家なんかはよくある事だしな。それよりも少し気になる事があってな」


「そうですか、わかりました」


「すまないな、代わりと言っては城に部屋を用意した。返答が出来るまでの間そちらで過ごしていただきたい」


「はい」


「それと、アミリア様は教会に向かわれますか?」


「あ、そうですね。最低限のお役目を果たさないといけないので……」


アミリアが思い出した様に言う。


「それでは移動の手配などはこちらでさせて貰おう、それとユウキ殿はリリアーナの為に、出来るだけこの城に居て貰えるとありがたいのだが」


「わかりました、その間の護衛はシア、頼んだよ」


「はい、任せて下さい」


「では、私もそろそろ公務に戻らせて頂きたいのだがよろしいか?」


「あ、そうでしたね、あまり返答が遅くならない様にお願いします」


「わかった。それとすまないが、この後リリアーナの元へ行ってくれるとありがたい。メイドには話を通しておく」


そう言ってノクタールさんは部屋を出て行った。


「ユウキ……」


アミリアがこちらを見て来る、凄く泣きそうな顔で。


「ゴメン、アミリア。俺先にリリアーナさんのとこに行って来る」


そう言って部屋を出た。


◇◆◇◆◇◆◇◆

◇アミリアside◇

会談が終わった後、皆と別れ私はシアさんと共に部屋へ通された。


「ふむ、特にはおかしい部分は無いな」


シアさんが室内を点検してくれている、危険は無いとの事でベッドに腰を掛ける。


「随分とお疲れだな聖女様」


シアさんが備え付けの紅茶を入れてくれる。


「ほら、魔王領でしかない薬草を使った紅茶だ。これは美味いぞ」


「ありがとうございます……」


正面に椅子を持ってきたシアさんが、ドカッとおおよそメイドに出してはいけない音で椅子に座る。


「なぁ、どうして本当の事言わないんだ?」


「え?」


「好きなんだろ? ご主人様の事」


「うっ……」


そんなに見ててわかりやすいのかな?


「そりゃお前、あれだけ目で追ってればバレバレだよ」


「うにゃあああああああ!?」


(え? 私そんな目で追ってたの!? どうしよう、バレバレじゃん!)


「それにしてもご主人様は何を考えてるんだ、当人が望んでないのに結婚させるなんて」


「それは、私がレナの為に、あの国の王になる事を望んだから」


「そうか……神子様を安全に、政治的に利用させない為には魔王領の様な大きな国が取り込むのが一番だもんな」


「えぇ……」


「まぁ、アミリアがそういう考えなら、僕は何も言わないよ」


「ありがとう」


「はぁ……難儀な性格してるねぇ……」


そう言ってシアは使用人が控える部屋へ入って行った。


幸い、これから数日は別行動で許されるってのが救いだ。


(ともかく私は、この想いを断ち切らないと……)


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