エピローグ:愛情は過ごすうちに増えるもの

「まず一つお礼を、この度は私と妻、それに奴隷となっていた者達の救出、大変に感謝する」


里菜のお父さんである鳳 辰之助たつのすけさんが頭を下げる。


「私からも、お父様とお母様を助けていただき、ありがとうございます」


里菜も頭を下げる。


「もっと早く動けてれば、あまり不自由な生活をさせずに済んだんですが……すみません」


俺も頭を下げる、三人が頭を下げたままの奇妙な光景が生まれた。


「あらあら、どうしたんですか? 皆さん揃って頭を下げて……」


そこにお風呂から上がった菜々ななさんがやって来た。


「そうだな、頭を下げたままじゃ会話も碌にできないからな」


「はい」


「そうですね」


辰之助さんが居ずまいを正す。


「それで、君は本当に里菜の夫になるつもりなのか?」


「それはですね……」


「優希さん。少し、よろしいですか?」


菜々さんが会話に割り込んでくる。


「皆さんそう焦るものでは無いですよ、特に旦那様は色恋に対して私以外に経験が無いのですから、しっかりと優希さんにも考えて貰わないと」


「それはそうだが……」


「優希さん、私からいくつか質問をさせていただきますね」


たおやかな笑みを浮かべ菜々さんがこちらを見る。


「まず、優希さん。里菜の事は可愛いと思う?」


「お母様!?」


「いえ、鳳さんは可愛いというより美しい方です」


「優希さん!?」


「ふふ……確かに、先程お会いさせていただいた他の奥方様と違いますものね。では次に、里菜の事は好ましいのかしら?」


「はい、学校でも良くしてもらってますし、以前は私の身分を保証するのに得た立場も捨てると言って下さいました」


以前、こちらの世界に戻ってきた際に、総務省の役人にいちゃもんつけられた時の事を思い出す。


「あの時は、あまりに横暴だったし……それに……」


「まぁまぁ。それでは優希さん、次の質問です優希さん貴方は里菜と結婚したいの?」


「それは……私だけの一存で決められないです……」


「そうね、じゃあ里菜。貴女は優希さんと結婚したいの?」


「私は……したいです、優希さんは私の不安を取り除いてくれた、私の為に危険を冒してくれました、私の命を救ってくれました。そんな男性を好きにならない女性は居ないですよ……」


そう言ってこちらを見る里菜が熱に浮かされた様な視線を向けてくる。


「そう里菜は言ってますが、優希さんはどうでしょうか?」


菜々さんがこちらをしっかりと見据えて来る。


「私は……」


「優希さん、深く考えないで良いわ。好きか好きじゃないかで良いのよ。夫婦なんてその内に好き合う物でしょう」


そう言って菜々さんがリビングの入り口に目を向ける、俺も視線を向けると皆がこちらを見ていた。


「そうですね……愛情は過ごすうちに増えるものですからね」


「優希さん……」


里菜に向き直り、居住まいを正す。


「私……俺は鳳さんの事、まだ友達としてしか良くしらないけど。凄く良い人でとても好感が持てる人です。ですので里菜さんが良ければ共に歩いて行きませんか?」


「はい! よろしくお願いします!」


「おっと……」


「里菜!?」


そう言うと正座の状態から飛び込んでくる里菜、それを受け止め笑う。


先程上げた悲痛な悲鳴を出した辰之助さんに向き直る。


「それと、里菜のお父さん、お母さん。里菜を俺に下さい!」


頭を下げて辰之助さんの反応を待つ。


「——————ふぅ……顔を上げてくれ優希君」


顔を上げると何とも言えない顔をした辰之助さんと目が合う。


「里菜は……里菜はなぁ……」


段々と肩を震わせる辰之助さん。


「昔、『お父様とけっこんするー』って言ってくれたんだあぁぁぁぁぁ!! 渡すかぁ!!」


「「「「「えぇぇぇぇ!?」」」」」


「お父様……」


「旦那様……」


「うっ……」


二人にジト目にされてたじろぐ辰之助さん。


「いや、私も認めない訳じゃない、要は決断が速すぎるのだ、それに婚約という形ならば私も許可を出そう。まずは里菜、お前は学校の卒業をするまでだ」


「……わかりました」


「それと優希君、君はもう成人扱いだったんだよね?」


「はい」


「だったら、まずは生活の基盤を整えるんだ、このマンションも君の親が買ったのだろう?」


「いやーあの……」


「どうした? 何か不都合でもあるのか?」


「このマンション、実は結婚祝いなんです……つむぎ家からの」


「紡……ってあの紡家か!?」


「はい、多分その紡家ですね……そこの現当主の娘さんがお嫁さんの1人なんで……」


「そ、そうか……あの堅物と……、では進学と就職どちらに進むのだ?」


「一応、進学の予定です。会社経営のノウハウを学びたいので……」


そう言うと不思議な顔をされた。


「それは紡家の会社を継ぐという意味かい?」


「いえ……恥ずかしながら、自分の会社です」


「自分の……会社!?」


「えぇ、異世界の技術と、科学技術を混ぜ合わせた産業の会社ですね」


「会社……もう社長……?」


「あ、あのお父様?」


呆けてる辰之助さんに里菜が声を掛ける。


「あ、あぁ……どうした?」


「一応説明させてもらうと、こちらの世界にはもう既にダンジョンが現れてかなりの被害者が出ているの」


「それは……私達も身をもって実感したよ」


「そんな時に優希さんはその被害を減らす為の技術と皆を守れるようにダンジョン専門の民間軍事会社PMCを立ち上げるの」


「そうか……そんな事になっていたのか……」


「それで、私はそこで働くことにしたの」


「それは……とても危険な事じゃないのか?」


「えぇ……危険が伴うと思うわ」


「だったら!」


「もう既に、私は政府公認のこの国最初の探索者になっているの、だからどの道危険には変わらない、でも優希さんの所なら安全度が増すの。それにお父様だって自分が同じ様な力を持っていたら人の為に使うでしょ?」


「ぐっ……だが……」


「お父様! わたくしはもう決めたんです! 警視総監の娘として、一人の探索者として! 無辜むこの人達をダンジョンの脅威から守ると!」


そう言って里菜が威勢よく言い切ると、辰之助さんも諦めた様に天を仰ぐ。


「わかった……。優希君、娘を頼む」


「はい、里菜は死なせたりしません」


「任せたぞ」


「それじゃあ、今日はお祝いね!」


「あっ、お母様。私も手伝います!」


「貴女は先に挨拶する方がいるでしょう?」


そう言って耀達へ視線を向ける菜々さん。


「そうですね」


「じゃあ優希、里菜ちゃん借りるわね!!」


きゃいきゃいしながら里菜は耀達に運ばれて行った。


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あとがき

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