第43話:あっけないなぁ…

巴ちゃんの朝食を食べ終え巴ちゃんと共に拘置所へ向かう。


「それじゃあ行ってくるよ」


「はい、いってらっしゃいませ♪」


「それじゃあ綿貫さん、お願いします」


「かしこまりました、お嬢様♪」


俺と巴ちゃんを乗せ黒塗りの高級車は走り出す。


「それじゃあ巴ちゃん、1~2週間程で迎えに行くから」


「は、はい!異世界ですか…緊張します…」


「ははっ、そこまで緊張しなくていいよ。もう一つの故郷になる世界だからね」


「それでも、驚きました…お姫様と結婚だなんて…」


「それを言うなら巴ちゃんも時代が時代なら貴族でしょ…」


「そうでした、御爺様が割とファンキーな方なので…つい…」


「今、どこに居るんだっけ?」


「今朝の飛行機でドバイですね…最近私に仕事を任せて羽根伸ばしが多いので…」


そう言って見せてきたスマホは厳徳さんが映え写真集があった。


「あはは…凄いね…」


「その分今度ガッツリおやすみしますので♪」


目が笑ってなかった。


「それでは行ってきますね」


「いってらっしゃい、俺も頑張って来るよ」


「ふふっ、楽しみにしています」


そう言って軽くキスをして巴ちゃんは途中の会社で降りて行った。


代わりに綿貫さんの弟さんで弁護士の綿貫さんが乗って来た。


「はじめまして、綿貫です、姉がいつもお世話になっております」


「いえいえ、こちらこそ綿貫さんに、色々と助けてもらっています」


「それでこの度の取引ですが…」


「聞いてますよ、久墨が死にかけてるから助けるって奴ですね」


「えぇ、死んで良い奴ですが、ただ死なれただけじゃ遺族の方は納得されないので」


「仕方ないね」


「では、ここからは私に任せて下さい」


そう言って降りて行った綿貫君は30分位で戻って来た。


「早かったね」


「まぁ、スムーズになるように、色々と手をまわしてましたから」


久墨の爺は別の車に乗せられ、複数の警察官と共に久墨が居る病院へ向かった。


「それでは、私はここで待ってます」


「ありがとうござます綿貫さん、それから警察の皆さんもありがとうございます」


「はい、何があれば」


「我々は部屋の外に居ますので」


(さて…ここからいっちょ悪役っぽくやるか…)


部屋に入りまず鼻についたのは腐臭だった


「ヒョヒョヒョ…ファラ(まだ)、おへはおわっへない(俺はおわってない)」


うわごとのように呟く久墨、体には蛆が湧き色々な管が体から出ている。


「残念だけど、それは来ないよ?」


「ほあ?」


「お前の爺さんも、お前の両親も、もう既に法の下に捕まってる、どうあがいてもお前の負けだ久墨」


俺が見下ろすと焦点の合わない目が俺を捉える。


「おふぁえは(お前は)!ふぉっみむし(ゴミムシ)!」


相変わらずの態度だなぁ…


「まだお前人の事をゴミ虫とか呼んでるのか?」


「うるふぁい(うるさい!)おふぇはえらはれしほもなんふぁ(選ばれし者なんだ!)」


さて、匂いが酷いのでさっさと帰りたいから済ませるか…


「何言ってるかわかんねーな…まぁ今のお前の姿のがゴミ虫だけどな」


鏡を出して久墨の姿を映してやる、すると目の焦点がブレ、もぞもぞと虫の様に周りの蛆を潰しながら動き回る。


「ひょおおおおおおおおおおお」


そして、変な悲鳴を上げて動かなくなった。


「ありゃ、気が狂ったか、まあいいか。法に裁いてもらうまで生きててもらうとしよう…ヒール」


俺は久墨の死にそうな部分を治し足だけ生やす。


「さて、これで耀達の事は立件できないし、まだやります?」


俺は拘置所から引っ張て来たコイツのお爺さんに顔を向ける。


「お主、一体何者じゃ…死んだはずだろうが…」


ひきつった顔がこちらを見る、いい機会なので心でも折るか…


「そりゃ、簡単に死なないからね、俺は神様が付いてるんだよ。その俺達に安易に手を出したお前たちの負けだ、このままお前の大事にしてきたすべてをもらい受けるし全て奪い尽くす。お前の人生を掛けた勝負は俺達の勝ちだ」


ニヤニヤしながら言うと


「フン、簡単に奪えると思うのか?」


「容易じゃないさ、でもね。今ここでアンタが死ねば全て崩壊するだろうね、お前ひとりで築いてきた柱だ、それを蹴り倒したら建物は瞬時に崩れるだろうな。それを見逃すはずがないだろ、それが資本主義だ。まぁそうでなくても今お前の会社の価値は風前の灯だけどな」


「何を言っておる?ワシが倒れた所で変わるほど…」


「うーん、残念。アンタが俺に暗殺者を向けた事、お隣の国と結託して俺を暗殺しようとした事、全部明るみに出てるんだ。あぁ、後ハーメルン事件のもみ消し、アレも明るみに出てるから、実行した人も自白したよ」


悪役っぽくクックックと笑う。


「クソガキが……」


「これでも勝ち誇るかい?」


そう問いかけると観念したのか。悔しそうな顔をして口を開いた


「負けじゃ…完敗じゃよ…痕跡は残さなかったはずなのに…」


「まぁ神様は何でも見てるってことだよ」



◇◆◇◆◇◆◇◆

そして俺は部屋を出て久墨の爺を警察に受け渡す。


「では我々は」


「これで失礼します」


二人に抱えられ久墨の爺は連れて行かれた。


「お疲れ様です」


「いやぁ…酷い匂いだった、多分これで傷は治ってるし、移送しやすいように足だけ治しといたから清潔感も維持されるでしょ、あまりに看護師さんが可哀想だし」


「そうですね、帰りにスタッフステーションへ一声かけていきましょう」


「そうですね、あー臭かった…」


「若干匂いがついてますね…」


「マジか…嫌だから先に帰っていい?」


「スタッフステーションに声掛けたら良いですよ」


「了解、後は頼みます」


◇◆◇◆◇◆◇◆


それからスタッフステーションに声掛けして、綿貫さんに声掛けをして即自宅に帰り、シャワーを浴びた。


「さて…そろそろ向こうに戻らないとな…」


転移を発動して戻ると丁度中継地点らしく昼食の準備をしていた。


「あら、お帰り優希」


「お待たせ皆」


「お帰りなさいおにーさん」


バーベキューの準備だろうか、鉄板の上に野菜を並べている春華がこちらに向く。


「おっかえりぃ!おにーちゃん!」


暇を持て余してたであろう冬華が背中に抱き付いてくる。


「お帰り、上凪君」


「おかえり、ユウキ」


「あれ?ユフィと雛菊さんは?」


「あの二人なら何かずっと作ってるわ」


そう言って馬車を指差す。


「じゃあ先にみんなのスマホ返すよ」


「私は後でお願いします」


「わーいありがとー!」


「ありがとう、優希」


「ありがとうございます…でもどうやって?」


「うーんわからないけど…綿貫さん、巴ちゃん付のメイドさんが手に入れてきた」


それじゃあちょっと二人にアイサツしてくる。


馬車を覗くと、二人共「ふへへへへ」と言いながら何か作っていた…


「二人共、ただいまー」


そう言った瞬間ユフィの顔がぐりんっとこちらを向いた


「ユウキ!本は!?」


「買って来たよ、一応俺達の国の標準語のひらがなの読み表も一緒だぞ」


「ありがとう!そうそうユウキこれ着けて」


ポイっと手の甲に魔石を取り付けた指ぬきグローブを渡してきた。


「これは?」


「ユウキの必殺技の補助魔道具、魔法鎧の形式で魔力の流れを効率化して放出を一時的に指向性を持たせた。これを使えば魔石を破壊しないであれ以上の威力が発動可能」


めっちゃユフィが早口なんだけど…あの技を見て短時間でこれ作ったのか…


「ありがとう、次の戦いで使ってみるよ」


「ん、大丈夫だと思うけど異常を感じたら使うの止めて」


「了解」


「優希さーん、ユフィさーん、雛菊さーん!ご飯できましたー!」


「よし、じゃあご飯食べちゃおうか」


「本…」


「食べてからにしなさい…」


「はーい」


「雛菊さん、ご飯食べちゃいましょう、お土産ありますから」


「はーい、お土産は何だろうなぁ~」


「美味しいものと、喜ぶものがありますよ」


「それは早く食べないとな…ととっ…」


足元がおぼつかない雛菊さんが体勢を崩したのでそれを支えながら馬車から降りた。


「あっ…ありがとう」


「無茶しないで下さいね」


「すまない…気を付けるよ」


そう言ってそのまま冬華の元へ行った、ファッション好きだし話が合うんだろうな。


「ユウキ」


「どうした?ユフィ?」


「ん」


どうやらエスコートしろって事らしい。


「どうぞ、お姫様」


「ん、ありがと」


鼻歌を歌う上機嫌なユフィを、馬車から降ろして二人で皆の元へ向かった。



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