デスゲーム


「おっす、隆史! 今日は早えな!」

「隆史君おはよう〜。ふふ、幼馴染ちゃんと仲良しだね」

「で、結局隆史は誰が好きなんだ?」

「うんうん、私も気になるわ」


 ぬるま湯のような日常生活。

 デスゲーム後の壁というものが完全になくなっていた。

 友達のように接してくるクラスメイト、新しい担任は優しい先生だった。幼馴染も壊れていない。

 内海がいないだけで以前と変わらない空気感の教室。


「なあなあ昨日の配信見た? あれやべえだろ!」

「かくれんぼ、超怖かったね。自分だったらすぐ信者ってたな……」

「九頭竜死ぬかと思ったぜ。てか、お母さん超カワイイよな」

「双子の子供の方がかわいいじゃん!」


 楽しそうに話している内容は103回目のデスゲームについてだ。

 自分だったらこうしていた。自分だったら絶対死ななかった。安全な外野で騒いでいるただの観客。極限状態の人が苦しんでいるのを見て楽しんでいる。


「ちょっと、教室でデスゲームの話は駄目だよ! 隆史は経験者でしょ!」

「あははっ、わりーわりー」

「てか、幼馴染ちゃんも経験者じゃん。ごめんね……」

「ううん、もう昔のことは忘れたからいいよ」


 あの経験を忘れられるはずない。


「俺も大丈夫だ。話を続けてくれ」

「隆史がそう言うなら……」

「う、うん、そうだね。あっちで話そっか!」


 一欠片の申し訳無さとデスゲームの勝利者である俺を好奇な目で見ている無遠慮さ。


 幼馴染が俺の肩に触れる。

「もう過去の事は忘れちゃいなよ。……あの子たちまだ生き残ってるけど、今日で最後だと思うよ」


 日常の裏で行われている非日常。

 俺は幼馴染の手をそっと掴み――




「そうだな、新しい日常の始まりだ」


 俺の言葉と同時に学校のチャイムが鳴り響く。いつもとは違うチャイム。長い長い時間をかけてチャイムが鳴る。


 クラスメイトたちはざわついている。長いチャイムに対して文句を言うだけだ。

 幼馴染は敏感にこの空気を感じ取った――


「隆史、あなたまさか――」

 俺は幼馴染を無視して教壇へと歩く。歩くたびに被っていた笑顔の仮面が剥がれ落ちる。


 デスゲームを外部から手助けするのは不可能だ。

 なんてことはない。


 もっと面白いデスゲームで覆いかぶせればいい。全てをデスゲームに巻き込めばどうとでもなる。

 なぜなら俺とってデスゲームは日常なんだよ……。


『――受理いたしました。それでは第103回デスゲーム、アップデートいたします』


 スピーカーから運営の声が響く。

 大半の生徒は何が起こっているか理解していない。


『ステージ4の内容が変更となります。旧校舎で行われていたデスゲームの規模の拡大、全校舎の使用。及び、プレイヤーの増員。現在校舎にいる全ての人間が対象です』


 スマホを見ていた生徒たちの身体が震える。

 映し出されている画面に自分たちがいるからだ。


「なんだよこれ……」

「え、う、嘘でしょ……」

「私国会議員の娘なのよ! こんな横暴許さないわ!」

「ま、待てよ、ちゃんと運営の話聞こうぜ。お、俺達、いろんなゲーム見てるから有利だろ」

「でも……」


 隣のクラスでも激しい物音が聞こえてくる。この学校全体で同じような事が起こっている。


『今回は特別にゲームマスターから内容を伝えます』


 俺は一瞬だけ目を閉じる。

 脳裏に浮かぶのは死んだ内海の笑顔だけだ――

 だから、内海の死を弄んだやつは、


 許さない――


 俺はスマホに向かって喋り始めた。声がスピーカーを通して全校生徒へと伝わる。


『なあ、俺とゲームをしないか?』



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