ダンジョンはアイドルのステージよ! 転生者の私はゲーム世界で最強を目指す(←既に最強)

青羽真

魔法少女が行く

私は転生者

 その日、東京に衝撃が走った。東京中央ダンジョンの到達記録が更新されたのだ。


200層:――

180層:魔女の箱庭・剣士の学び舎

……

……


「お、おい! 昨日までは200層なんて表示、無かったよな?!」

「無かったはずだ!」

「つまり、一日で180層から200層まで一気に攻略したやつがいるって事かよ?! あり得ないだろ!」


 いつの間にか更新されていた記録。それだけでも凄い事だが、もっと不可解なことがあった。


「それ以上に、名前の欄に疑問を持てよ! 『――』って事は探索者登録をしていないパーティーって事だよな?」

「やっぱそういう事だよな?!」

「探索者登録をしない限り、色々なサポートを受ける事が出来ない。実質、ダンジョンでの活動は不可能……」


 武器の購入、ポーションの購入、レベルの測定。その他様々なサポートを受けるには、探索者登録が必須だ。ちなみに探索者登録自体は無料だから、登録して損はない。


「つまり、探索者登録して得られるメリットを投げうってでも、自分たちの存在を知られたくない人間……」

「他国の人間……いや探索者登録は世界共通だから違うか」

「どこかの秘密組織?」

「いや、長年山で修行してた、謎の仙人と言う可能性も……」


 様々な憶測が飛び交い、テレビでも連日取り上げられる事態になった。



 一方、200階層を突破した当の本人たちは、偶然にも自分たちが世間を騒がせている事に気が付かず、リーダーの家でささやかなパーティーを開いていた。


「やっと目標の200階層を突破したね!」


「いえーい!!」「うるさい……、けど嬉しい気持ちは分かる」「カンパ~イ♪」


「でも、まだまだ私たちは弱小アイドル。ここからもっともっと強くなって、立派なアイドルを目指そうね!」


「うん!」「もちろん」「私も頑張るよ!」


「みんなありがとうね……ほんとありがとう」


 リーダーの女の子は、目に涙を浮かべながら三年前の事を思い出していた。

 彼女達のアイドル活動が始まった、その日の事を……。



◆ 三年前 ◆


「はい、お母さん。これ、お弁当! 水もちゃんと持った?」


 私は愛する母にお弁当を手渡した。お母さんはそれを満面の笑みで受け取る。


「ありがとね、姫ちゃん! うん、水筒もちゃんと持ったよ」


「ダンジョン探索、頑張ってね。応援してる!」


「うん、ママもママの仲間もとっても強いからね。今日も敵をバッタバッタ倒してくるわ!」


「うん、お母さんは私の自慢のお母さんだよ!」


「うう、なんていい子……。こんな出来た娘に恵まれて私は幸せ。じゃあ、行ってきまーす!」


 リュックサックを持って、お母さんは家を飛び出していった。


 玄関に一人取り残された私は、母の背中を見ながら思った。私がこの人を支えないと、と。



 私の名前は姫香ひめか、普通の中学一年生……とは言えないかな。実は私には前世の記憶がある。父が病死し母が働き始めて以降、私が家事を行えているのは前世の記憶のおかげね。


 最初は前世の記憶に戸惑う事も多かったけど、「東京中央ダンジョン」という単語を聞いてピンときた。この世界はゲーム『ダンジョンはアイドルのステージよ!』をモチーフにした世界だ。

 先ほどからダンジョン、ダンジョンと繰り返し言って事からも想像できるかもしれないけど、この世界は職業ジョブ魔法スキルなんかが存在するファンタジー世界だ。世界中に「ダンジョン」と呼ばれる異空間への入り口が存在しており、その中では魔物と呼ばれるモンスターが跳梁跋扈している。コテコテのゲーム世界ね。


 このゲームの世界観を一言で言うなら次のようになる。



ダンジョンステージでアイドルが魔法をぶっ放すゲーム』



 この一言に尽きる。


 ダンジョンとか魔物とか聞くと、屈強な漢が戦うイメージを持つかもしれないけど、この世界ではそうではない。この世界のダンジョンは、女の子が歌って踊って魔法をぶっ放す場所なの。

 だって考えてもみて。キャラクターが屈強な漢のゲームと、可愛い女の子のゲーム、どっちが売れるだろうか? 答えは後者。だからこういう世界観なのね。



 さて、そんな世界で母はダンジョンで魔物を倒す仕事についており「ママのパーティーは最強なのよ!」と毎日言っている。だけど私は知っている、これが私を安心させるためにいている嘘だと。

 母の職業ジョブは【魔女】、ゲームで言う所のノーマルキャラであり、最強とは程遠い存在だ。実際、母が現在攻略している階層は150層。全部で1024階層あるので、150層はまだまだ序盤である。


「150層なら、稼ぎも少ないはず。今の暮らしを維持したいなら、文字通り死に物狂いで働かないといけないよね……」


 母はそんな様子を一切見せず、私の前では元気に振舞っているけど、実際は相当厳しいはず。


「でも、今年から私は中学生! それはつまり、ダンジョンに潜る事が出来る年齢! ちょっとでも活躍して、家計に貢献しないと……」


 この世界の法律では、中学生からダンジョンに潜る事が出来ると定められている。ただし、ギルドに加入したりして本格的に働くのは高校生以降。中学生なら、ちょっと中を見学したり、弱い魔物を倒してみたりするくらいしかできない。それでも、ちょっとは家計の足しにはなるはず。


「お母さんの為に、私は頑張るんだ! おおー!」


 私以外誰もいない家の中を、私の決意表明が木霊した。





「香織さん~こっちこっち!」


「ゴメンゴメン、遅刻しちゃった?」


「いや、ギリギリセーフかな。けど、すぐにインタビューがあるから、息を整えて」


 姫香の母親であり、【魔女】という「優良職」に就いている香織かおりは仲間と東京中央ダンジョン前で合流した。これからインタビューが始まるのに、ゼーハーゼーハーしている香織を仲間が心配そうに見ている。


「ダンジョンの近くに住んでるのに、なんでいっつもこうなるんだよ……」


「いやあ。あははー」


 なんて言っている間に、インタビューの時間がやってきた。レポーターが香織達の前にやって来る。


『さて、本日は大規模レイドが組まれ、東京中央ダンジョンの151層、前人未到の地の探索が行われます。参加パーティーの皆様に意気込みを聞かせてもらいましょう! まずは誰もが憧れる最強パーティー、「魔女の箱庭」の皆さんから……』




 そう。姫香は盛大な勘違いをしている。この世界ではダンジョンの攻略がほとんど進んでおらず、150層というのは最前線なのだ。

 それもそのはず、この世界では最強格に位置付けられるアイドル系の職業ジョブに就いている人が一人もいない。代わりと言っては何だが、【魔女】が優良職と思われている。


 だから、姫香が心配しているような事にはなっていない。むしろ、香織は超エリートの部類に入る。しかし、香織が「家具の買い替えとか面倒だし、ましてや引っ越しなんて必要ないよね」と考えており、まるで倹約家のような生活を送っているから姫香の誤解は払拭されていない。むしろ、日に日に大きくなっている。




 姫香の誤解が解けるまで、あと三年と少し……。



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