邪竜を斬る者〜残酷な異世界と神の剣技〜
神伊 咲児
第1話 この世はクソだ
信じられん……。
13歳になった俺は校舎の裏で横たわる。
中学生になったばかりの俺は血まみれになっていた。
鼻からは血がドボドボと流れ、体中傷だらけ。
顔なんか、ボコボコだ。
不良グループにやられた。
「500円貸してくれよ」
仲良くもない人間に、こんなことを言われたら断るのが筋だろう。
その時の俺の表情が気に食わなかったらしい。
まぁ、嫌悪感はあったからな。
その態度に不良たちの火が点いた。
蹴る殴るの暴行。俺は抵抗虚しく、ボコボコにされたというわけだ。
こんなこと、事件だろう。
警察が介入する暴行事件。
ところが、担任の教師をはじめ、周りの大人たちはこのことから目を逸らした。
不良グループの1人に権力者がいるらしい。
大金持ちで、学校に多額の寄付をしているのだとか。
周囲の教師からは笑われた。
「遊ぶのはほどほどにな。ははは」
父親に言われた言葉は本当にショックだったな。
「階段で転んだらダメじゃないか。あはは」
クソが。
この世の中は
俺の名前は鋼
無力な中学1年生だ。
「災難でしたね」
と、声をかけてきたのは眼鏡をかけた少女。
彼女とは仲がいい。この世の残酷さを語れるのは
そんな彼女の背中には『馬路坂キモい』と書かれた張り紙が貼られていた。
俺はその張り紙をそっと剥がして、彼女にバレないようにクシャクシャにした。
「またやってたのか?」
「ええ。私。信じているんです」
彼女は魔法を信じていた。
この学校の裏山には古墳があって、そこには異世界人が眠るという。
大昔。そいつは、魔法を使ってこの世界と異世界とを行き来したというのだ。
都市伝説にも近い内容だが、それなりに文献も揃っていて、真面目に研究しているグループはいるようだ。
しかし、声高に魔法の存在を訴えても、背中に張り紙をされてバカにされるのがオチだ。
「はぁ〜〜。誰も信じてくれません」
周囲の大人たちは彼女の言葉に耳を傾けない。
子供たちも、大人の真似をするので彼女を信じない。
少女の意見より権力者の言葉を信じている。クソな連中ばかりだ。
俺たちはそんな現代に生きている弱い子供……。
舐めるな、と言いたい。
そんな気持ちが、こんな言葉を吐かせた。
「いや。俺は信じる」
「本当ですか!?
「ああ。おまえがあるって言うんなら、あるんだろう」
俺たちは古墳の中に入っていた。
そこは10畳ほどの広場で、床には魔法陣が描かれていた。
「中心に立っていてください」
「ああ」
「文献によると今日なんです。満月の日だから」
「異世界に行ける人間は選ばれた者だけです」
「へぇ……。じゃあ、ラノベみたいにさ。スキルとか魔法が使えんのか?」
「ええ。勿論です。強力な能力が使えますよ」
ふむ。
最強の力でモンスターを倒して無双する。
そんなゲームみたいな世界か……。
いけたら面白いだろうな。
「○◇□$△□〇$〇◇□」
聞いたこともない言葉だ。
おそらく呪文というやつだろう。
「……おかしいですね。これで異世界へと飛べるはずなんですが」
こんなクソな世界なら、異世界の方がいいよな。
「ああ、やっぱりダメでしたね」
「諦めるな。俺は信じる」
こんな世界、捨ててやる。
「もう一度、やってくれ」
「でもぉ……」
「いいから。俺は信じているんだ」
「わ、わかりました。……○◇□$△□〇$〇◇□」
俺たちは弱い存在なんかじゃないぞ。
魔法はある。
俺だって……。
信じてやるさ!
その瞬間。
魔法陣が発光した。
「え? おい、
「え? え? こ、こんなことは初めてです」
地面から強風が吹き上げる。
魔法陣から風だと!?
「おい、これって成功なんじゃないのか!?」
「は、はい。そうかもしれません!」
俺の体は浮き上がる。
「
「は、入れません! 魔法陣の周りに光の壁ができてて入ることができないんです」
なに!?
じゃあ、異世界に行くのは俺だけ?
「来月の満月で、私も直ぐに行きます!」
俺の体は光に包まれる。
体内の血液が震えるような、特殊な感覚。
「
「はい!」
「待ってる」
俺の全身は強烈な光に飲み込まれた。
同時に、体を溶かして光の粒子に変わる。
痛みは無い。むしろ、清々しい気分だ。
何もかもが光になって、どこまでも飛んでいける。そんな気持ちになった。
俺の体は凄まじい速度で上昇した。
古墳の天井を突き抜けて大空へ昇る。
雲を横目で見ていると、やがて周囲は黒くなった。
無数の星が広がって……。
「宇宙だ」
下を見ると地球が見える。
飛行は更に速くなった。
もう、周囲の星の明かりさえも認識できないほどに。
どこまで行くのだろう?
でも、はっきりとわかる。
これが転移魔法だ。
目を開けると床に立っていた。
この石の感覚は古墳か?
いや違う。
視界は開けていた。
そこは石作りの部屋の中。体育館くらいはあるだろうか。
そこに、大きな魔法陣があって、俺はその中心に立っていた。
湿気とお香の匂いが鼻の中に広がる。
周囲には中世ヨーロッパ風の衣装に身を包んだ大人たち。
祭事の衣装を着た神官らしき者や、鎧騎士たちが立っていた。
「よくぞ参られた。異界の客人よ」
中年の小太りの男が俺に声をかけてきた。
周囲の態度から、身分の高い人間だと思われる。
言葉はなぜか通じるようだ。
でも、この雰囲気。
間違いない。
ここは異世界だ。
────
公募用作品。
全4話。
11000字程度です。
どうかお付き合いください。
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