第17話 無双開始!
アルドはルドルフに鍛えてもらった剣を持って、自宅へと戻った。この邪霊の武器は触るだけで、精神にあるマナの器に影響を及ぼすほどである。
すぐにマナの器が破壊されるわけではないが、なにも知らずに触り続けるとそれこそ、精神に異常をきたしかねない。取り扱いは慎重にしなければならない。特にアルドはイーリスには絶対に触らせないようにしようとした。
「ただいまー」
「お父さんおかえりー!」
イーリスがたったったと走って来て、アルドに飛びつこうとした。しかし、アルドは「待った」と言ってイーリスを制止した。
「え? どうしたのお父さん?」
イーリスは口元を歪ませて不安そうな顔をした。あわあわと手を震わせていて小動物のような仕草をする。
「イーリス。落ち着いて聞いて。僕は今、とっても危険なものを持っている」
アルドはイーリスに邪霊の武器である剣を見せつけた。
「いいか? イーリス。これには絶対に触っちゃいけない」
「うん」
イーリスがこくりと頷く。
「いいか? 興味本位でもダメだ。もし、触ったら……怒るよ!」
「う、うん……触らないよ」
アルドの真剣な表情にイーリスは
◇
「アルドさん。近場に新しいダンジョンができたよ」
仕事終わりにクララと落ち合っていた。クララは新しいダンジョンが出たと聞いて目を輝かせていた。
「場所もアルドさんの職場の近くだから、また仕事帰りにダンジョンに潜れるね!」
「うーん、まあ、そうだね。よし、それじゃあダンジョンに潜ろうか」
「お、アルドさんやる気みたいだねえ」
クララがニヤリと笑う。
「まあ……新しい武器が手に入ったから、その力を試したくて」
「おー、わかるー。私も武器じゃないけど精霊に力をもらったから、どれくらい強くなったか試したいんだ!」
元々、強かったクララもダンジョンをクリアしたことにより、精霊からマナの力を授かっている。それで、パワーアップをしているから、アルドはクララに更に差をつけられている現実にちょっとげんなりしてしまう。
「それじゃあ、明日! 早速、明日潜ろうよ!」
「うん。わかった。イーリスにもそう伝えておく」
翌日、アルドとクララは新しいダンジョンに向かった。
「ここが新しいダンジョンだな」
「アルドさん、私が前を行くよ」
ダンジョンの入口に身を乗り出そうとしているアルドをクララが制止した。しかし、アルドは首を横に振る。
「いや、僕がこの武器の強さを確かめたい」
「それ……なんか
「うん、まあ……なんの因果かは知らないけれど、邪霊の武器を鍛えてくれる人が見つかってね。1本作ってもらったんだ」
「そうなんだ。じゃあ、今回はアルドさんに頼っちゃおうかな」
クララが上目遣いでアルドを見つめる。アルドはこくりと頷いた。
「ああ。今度は僕ががんばるよ!」
「うん!」
ダンジョンに向かうアルドの背後でクララはにんまりと笑った。
ダンジョンを進むとアルドは敵の気配を察知した。そして、剣を構える。ダンジョンの奥から出てきたのは、巨大な二足歩行のネズミの邪霊。どれくらい巨大化というと人間でいうと5歳児レベルの体格である。
そのネズミが素早い動きでアルドに向かって突進してきた。
「アルドさん!」
クララがアルドの身を案じる。巨大ネズミは、でかくなっても、ネズミ特有のすばしっこさは失われていない。並の人間より圧倒的に速い。アルドが対応できないと思われていたが……
「疾風一閃!」
アルドは剣を振る。たった一振り。その一撃でネズミは消滅してしまった。
「え、は、速い……!」
クララはアルドの圧倒的な速さに目を丸くして驚いた。クララも素早い方ではあるが、それ以上にアルドは速くて、自分以上の速さを持つことに驚いている。
すごい、かっこいい。クララがアルドを憧れの目で見つめる。あれだけのことをしたのに、アルドの表情はキリっとしていてクールそのもの――
「うわ! なんだこれ! え? もう倒した? クララ、見た? 今、僕速くなかった?」
なんてことはなく、ただ、アルドも自分が何をしたのかよくわかってなかった。時間差で巨大ネズミを倒したことを自覚して、テンションを上げてしまう。
クララはそんなアルドの様子を微笑ましく思った。
「うん、そうだね。アルドさん。すごかったよ」
「ありがとう。クララ。でも、どうしてこんな風に力が出たんだ? 武器を変えただけで、僕そのものは強くなってないのに」
アルドの疑問は
「うーん、私もよくわからないけれど、それが邪霊の武器の特性じゃないかな? 私もマナの器に精霊の力を入れているから、それで身体能力が上がっているんだ。邪霊の武器も装備すれば、装備している人の能力が上がるとかあるんじゃないのかな?」
「ああ、そういえば、精霊と邪霊は根は同じ存在だったって話は聞いたことがあるな」
クララの説明にアルドは納得した。精霊の特性と似通っているということであれば、これも説明がつく。
「ってことは、僕も邪霊の能力で魔法が使えるようになるのかな?」
「それはわからない」
そんな談笑をしていると、また巨大ネズミがやってくる。今度は3体もいる。
「おお、またネズミだ。いくよ……疾風一閃!」
「アルドさんばかりにかっこつけさせないよ! 私も戦う!」
アルドがネズミの胴体を斬る。クララがネズミの腹部に蹴りを入れる。それぞれが各個撃破し……最後の1体を仕留めようと先に動いたのは――アルドだ!
「疾風一閃!」
巨大ネズミ3体は、この2人の攻撃に成す術もなく倒されてしまった。消滅した巨大ネズミの地点には灰色の石の欠片がポトリと落ちた。クララがそれを回収している中で、アルドは目を瞑っていた。
「ん? アルドさん。どうしたの?」
「この地点に邪霊の素材がある」
アルドはツルハシでダンジョンの岩壁を掘っていく。そこから出てきたのは、植物の根っこのようなものだった。
「おお、流石アルドさん! 私、全然そういう気配を感じなかったよ。凄いな……戦闘も強くなったし、発掘の能力も凄いし、なんか私、嫉妬しちゃうかも」
「いやいや。僕なんてまだまだ。武器が強くなっただけだし、この武器がなければなにもできないって」
クララがつまらなそうに頬を膨らませた。
「ふーん。でも、実際、アルドさんはその武器を持っているわけでしょ? だったら、それを手に入れたのもアルドさんの実力だよ。
「む……難しいな」
「あはは。ごめん冗談だよ。ちょっと言いすぎちゃった。ごめんね」
クララは笑顔で舌を出しつつ可愛らしくアルドに謝罪した。その無邪気さにアルドは思わず許してしまう。
「うん。僕の方こそごめんね。もっと自信を持つよ」
「うん! そうそう」
2人は仲直りをしてダンジョン探索を続ける。道中の邪霊も2人の敵ではない。
アルドも戦えるようになったことで、クララの動きも格段に良くなっている。最初のダンジョンを攻略していた時のクララはアルドをかばおうとして、実力の全てを発揮できなかったこともあるし、なにより、精霊の力も大きい。
そのクララと肩を並べられるアルド。邪霊の武器はそれ程までに強かったのだ。
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