脳は優秀なのです

「えー!ちょっと見てよコレ!」

譲がPCに向かっていると、割り込むようにスマートフォンを突き出された。ロサセアエの写真が表示されている。膨らんだ蕾もキレイに写っており、誠が不満そうにする理由が解らない。

「マオちゃん写真写らないんだけど!」

カメラを向けても画面内にマオの姿が映らない。そのまま写真、または動画を撮影しても、陰も写らない。

「やっぱ精霊は写真写んないんだ」

「こんなにキレイに何も写らないもんか?」

ふたりからカメラを向けられ、マオは困惑している。

「ええと、はい。マオはとくべつなきかいにしかにんちできません。人げんにかぎらずですが、のうはゆうしゅうなのです」

「どういうことだ?」

とても不穏な言葉を聞いた気がして思わず表情が険しくなる。通常の子供なら泣いてしまうだろうが、マオは平然と…いや、少しだけ困った顔をしているものの、恐がる様子もなく答えた。

「お二人がおもちのたんまつには、たいおうするじゅようたいがそなわっていません」

「よく解んないけど、カメラに捉えられないものもあるよね」

物質であれば、認識し辛い写りになる事はあってもこんなにキレイに何も写らない事はないだろう。マオは「体はない」と言っていた。立体映像のようなものだとして、それもカメラは捉えられないだろうか。やはり詳しくないので判断できない。受容体という表現が気になるが、考えてみれば身近な機器だってそんなに仕組みを理解していない。マオに危険も感じていないし、一応市販品なのだから過敏に気にしなくても大丈夫だろう。譲は改めて「そういうもの」と認識しておく事にした。

「ざんねーん!マオちゃんの可愛さを皆に見せびらかしたかったのにな~」

「はい。マオはこうにゅうしゃのひごよくをあおるためにおさない人げんのすがたにせっていされています」

「そういうのはー、言わない方がいいかなぁ~」

マオはコテンと頭を傾げつつもひとつ頷いた。



朝。リビングに入るなり誠は一直線にロサセアエに向かった。マオに挨拶を返しながらロサセアエを覗き込む。

「咲いてる!!」

「はい!」

「ジョーさん起こしてくる!」

マオが止める間もなく、誠は寝室へ向かい譲のベッドへダイブをかました。

「ジョーさん起きて!!咲いてるよー!」

「ぐ…っ、ぉま…」

のし掛かる誠を押し退け、意識を目覚めさせる。脳より先に目覚めてしまった体はうまく動かない。

「早くー早くー!ロサちゃん咲いたよ~」

「おまえホント…幾つよ」

「花の17歳です☆」

「んじゃもっとそれっぽくしろ」

5歳児と大差ない行動の姪に頭を痛める。育て方を間違えたかも知れない。マオと中身を入れ換えた方がお似合いだ。

「ほら。解ったから出てけ。すぐ行く」

「はーい」

素直に返事をして出ていく誠を見送って、譲はベッドから抜け出した。


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