第17話 救援要請

 家の中では自由に配信していいって言われたこともあって、テュテレールがカメラ機能をオンにした。


 その途端、コメントが押し寄せてくる。


“アリスちゃん帰ってきたぁ!!”

“待ってた”

“取締局に連行されたかと思ってた”

“大丈夫? というか、ここどこ?”


「えーっと、うん、大丈夫だよ。実はね、菜乃花さん……あのお姉さんに、私の新しい家を用意して貰えたの」


“家!?”


 ほら、と周囲を示すと、その広さに視聴者のみんなが愕然とする。


“すげー……”

“うちの周りでもこんなデカイ家見たことないわ”

“超VIP待遇”

“やっぱ災害のアレでアリスちゃんの注目度上がったからかな?”

“だろうなぁ”


「正直、私もびっくりだよ」


「アリスちゃーん、お待たせー」


 そんな風に話してると、菜乃花さんが料理が載ったお皿を持って現れた。


 両手に一つずつ、腕にも一つずつ、頭の上に一つ、更に空中に二つ……って。


「多くないですか!?」


「いやー、アリスちゃんの好みが分からないから、取り敢えずたくさん用意しよーって張り切っちゃって」


 てへっ、とお茶目に笑いながら、菜乃花さんがお皿を次々にテーブルへと並べていく。


 お肉にシチュー、チャーハン、サラダ、お刺身と、本当に色んなものが所狭しと並ぶ光景は、見てるだけで涎が溢れて来ちゃう。


“すっごい豪華な料理”

“唐突な飯テロ”

“腹減ったー!”

“てか、しれっとスルーされてるけどこのお姉さんのスキル何? 皿浮いてたけど”

“分からんがすごいコントロールだな”


「ふふふ、好きなだけ食べていいからねー?」


「は、はい! いただきます!」


 フォークとスプーンを握り締め、目の前にある料理に手を伸ばす。


 キラキラと輝く宝石にも見えるそれらの食べ物を口に運べば、身体中に幸せがいっぱい広がっていった。


「ふわぁぁ……おいしい……」


 出来たてが一番美味しい、っていう話は聞いたことがあるけど、これはもうそんなレベルじゃない。

 意識しなくても勝手に顔がゆるゆるになって、もっと食べたいって勝手に体が動き始める。


 こんなにも美味しい料理、生まれて初めて食べた!


“なんだろう、あまりの飯テロに今の今まで腹減ってたのに、今はもう胸がいっぱい”

“奇遇だな、俺もだ”

“今のアリスちゃん見てるだけでもう無限に活動出来そう”

“この幸せそうな顔、あまりにも可愛すぎる……”


「ウチ、これでも料理は得意なんだよ? 気に入って貰えたみたいで良かった」


「本当に、とっても美味しいです! ありがとうございます、菜乃花さん!」


 お礼を伝えながら、私はそのまま勢いよく食べ進める。

 すると、そんな私にテュテレールが苦言を口にした。


『アリス、普段よりも食事ペースが早い。それ以上は過食に至ると判断する』


「大丈夫、今の私は無限に食べられるよ!」


 あれも美味しい、これも美味しいと、パクパク食べ進める。

 それからしばらくして、どこかで着替えてきたらしい歩実さんがリビングに来て……。


「遅れました~……って、これはどういう状況ですか~?」


 その頃には、私は見事に食べ過ぎで撃沈し、テーブルに突っ伏していた。

 菜乃花さんが苦笑を浮かべながら私の背中を擦り、テュテレールはどこか呆れの感情が乗った音声で私を叱る。


『アリス、あまり食べ過ぎれば健康を害する恐れもある。次からは気を付けろ』


「はーい……うっぷ……」


 今まで、こんなにも限界になるほどお腹いっぱい食べたことなんてなかったから、油断してた。


 正直、動けないくらい苦しいけど……これはこれで、新鮮かも。


「あはは、次からはウチも気を付けるよ。ちなみに、どれが一番美味しかった?」


「あうぅ……どれも美味しくて、すごく迷います……初めて食べるものばかりでしたし……」


「あー、そっか、アリスちゃんはダンジョン暮らしだったから、地上の料理は食べたことないものの方が多いのか。ふふ、じゃあ、これからは毎日違うもの食べて回ろっか」


「えっ、ほんとですか!?」


「うん、ウチは嘘は吐かないよ」


「わーい、やったぁ!」


 色んな食べ物、いっぱい食べれる!

 どんな食べ物があるのかな? 楽しみ!


“今の今まで食べ過ぎで辛そうだったのに、もう次に食べるものについて考えてる”

“なんという食いしん坊w”

“可愛い、餌付けしたい”

“あんまり食べてばっかりいると太るよw”


「だ、ダンジョンでちゃんと運動するから大丈夫だもん!」


 まだ茜お姉ちゃんに特訓を付けて貰ってる真っ最中だけど、もう少しで上層くらいなら私一人で無双出来るようになるもん! ……たぶん!


「あはは、やる気十分だね。そんなアリスちゃんに、早速お仕事があるよ」


「お仕事、ですか?」


「うん」


 そう言って、菜乃花さんは自分のスマホを操作し、一通のメールを投影する。


 そこに書かれていた内容を見て、私は目を丸くした。


「北海道のダンジョン、《絶氷城》を管理してる協会支部から救援要請が来てるんだ。アリスちゃんとテュテレール君の力、早速貸して貰ってもいい?」

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